銃と剣 45
「Fさん、すんません、このまま聞いて下さい」
耳の近くに唇がある為、颯太の吐息までが聞こえてくる。
「えっ!? えっ!? えぇっ!?」
このまま!? 本当に!? マジで!? ここで!?
「俺、別にFさんと敵対するつもりないっすから」
……え?
「ただ、あの、良かったら俺の計画手伝って欲しくて、あの、別にPIOに迷惑かけるわけでもなくて、その、話だけでも取り敢えず聞いて欲しくてですね……」
……何だそりゃ。ため息と共に、全てを理解したFが杖を上に向ける。
「Fさん……?」
「聞いてあげるから、離してくれる? 攻撃する意思も、もうないから」
お手上げの状態を見せれば、颯太は体を離して笑顔で頭を下げる。
「あざっす!!」
「もう、本当に不本意に女の子に近寄らないでよね! びっくするでしょ!」
「あ、すんません……」
Fは可愛らしく頬を膨らます表情には似つかわしくない、酷く冷静な思考で、颯太を睨みつける。
この男、馬鹿そうに見えるがやはり中々食えない男だ。そう、彼女は心の中で警告を鳴らす。
Fの攻撃の弱点をこいつはあの短期間で導き出した。今回は見くびっていた事もあるが、まさか、こんな短期間でその答えを導き出せるなんて、考えもしていなかったこともまた、事実である。
Fの弱点は自分との零距離。
一ミリでも隙間があれば、忽ち彼女はシールドを張れるわけだが、零距離でのシールドは実質不可能である。閉じ込めるにしても、何にしても、自分の一部を持たれてしまえば、其処にシールドは貼れない。
彼は最初に手首、そして、全身を使って密着をしてきた。ここまでされれば、文字通りF自身では手も足も出ない状態になってしまうのだ。
しかも、それが弱点である事を颯太はFに告げない。ただ、謝ってきただけである。
偶然だと、疑う余地をわざと自分から残しやがったわけなのだ。
こんな偶然があってたまるかとFは思う。彼は確信を持ってやっている。大方、胸を触られた時に気付いたのだろう。普通あれ程怒っていれば、瞬時にシールドを貼って倒しにかかるはずなのに、なぜ拳を振るったのか。
思わず小さく舌打ちをしたくなる。クソ、誤魔化す為に騒ぎすぎて逆に不自然さを植え付けてしまったと言うわけか。
まさか、あんな偶然がヒントになってしまうだなんて、本当に予想外だ。
もしかしたら、しかすると、本当に、彼は名役者なのかもしれない。でも、騙すのも騙されるのも、残念ながら嫌いではないのだ。そうFは小さく笑う。
「で、計画ってなにする気なの?」
「あの、出来ればでいいんですが……」
颯太はFにこの計画の話を事細かに説明した。
「……んー。出来ないことはないけど、Nに聞いてみないと駄目だね。私ができる範囲は、ここから此処までぐらいだと思う」
「ここは?」
「私では無理かも。数が足りないから、あっ! 春風の皆んなに声掛ければ? どっちにしろ、ここを通すとなると同盟の春風に話をもってかなきゃだし」
「なっちゃんさん、優しいし、頷いてくれそうですよね。なっちゃんさん、なんか癒しオーラが……」
「は? 何言ってんの? あんな変態オーラ浴びたら社会的に死ぬからね。話持ってくならアイツより、断然まるちゃんだから。アレに騙されちゃダメ」
きっぱりと、Fは颯太に言い切る。
……一体、なっちゃんはFに何をしでかしたのだろうか。それがひどく気になるが、この際、それは一旦置いておこう。
「ここは、うちの幹部で出来るし、Nがいなくても私がいるから大丈夫。こっちは問題ないかな」
Fの返事が具体性を帯びて行くにつれ、颯太は我慢できずに口を開く。
「あ、あの! それって、俺の計画に乗ってくれるって事っすか!?」
先程からのFの発言から見て、具体的な提案している。これで断る事なんてないだろうと思うが、聞かずにはいられなかった。余分な一言かもしれないが、どうしてもはっきりさせておきたいと、颯太は思う。
そんな事を聞けば、相手が気分を変える可能性があると言うのにと、Fだって、そう思って呆れてしまっている。しかし、残念ながらFは今、気分が最高に良いのだ。気分なんてそうそう変わらないぐらいに。
「勿論。うちとしては、辻斬りがなくなれば、それ以上の事なんて望まないもの」
Nだって、そうだ。PIOの名はPIONEERが由来。ベータ版からこの未開の世界を開拓して行った者たちの作り上げたクラン。エリアなんて存在しなかった時代には、アイテム生成場所に張り付き、他クランの排除を日夜していたものである。最近はいささか平和ボケをしていたが、本来ならば大規模な奇襲などよくっあったものだ。
しかし、その度仲間との結束は固くなる。今はバラバラに散ってしまった初代ベータ版のPIOのクラン員達との絆は、確かにこのオープン版にも残る程に、確かな物となっている。
些か、やり方は問題だが、理由が分かれば辻斬りへの憎悪などもうない。
自分達の浅はかさと無力さを思い知る機会を作ってくれた点において、彼女は少しだけ感謝しても良いのかもしれないという気持ちまでもが芽生え始めているのだ。
「あ、ありがとうございますっ!!」
颯太はFの手を握る。
「いいよ、いいよ」
……あと、序でに自分の間の距離方ももう一度考え直そうと彼女は思う。
こうも簡単にキャッチされるなんて、平和ボケしすぎたかなぁ。
「じゃあ、私はNとクラン員に話してみる。君は、辻斬り君のメールチェックお願いね」
「了解です」
「あと、暇ならふーちゃんに顔見せてあげて。凄く心配してて、君がログインしないのは自分のせいだとか思ってそうだから」
「……わかりました。でも、俺、あそこまで一人で行ける自信あんまりないっすよ?」
なんたって、PIOのエリアから春風のエリアまでは、解放エリア外の無法地帯が多数存在する。無法地帯は、誰もが敵だ。敵を倒そうと
「君ね、辻斬り君を助けるって決意したんでしょ?これぐらいの困難、頑張りなさいな」
そう言って、彼女は颯太の背中を叩いた。
「大丈夫。君はもう、強いよ。いってらっしゃい」
きっと、彼はそう遠くない日に、私達と同じ場所迄上り詰めるだろう。だから、それまで、倒れる事は決して許さない。
F自身、いや。『妖精王』自身が。
しかし、そんな行間を颯太は知る由もない。
「……はいっ!」
Fの言葉に押され、颯太は前に進む。
彼の姿が随分と小さくなった時だろうか。
「随分と楽しいそうだな」
颯太の後ろ姿を見送っていれば、よく聞く声がFの後ろから聞こえてきた。もうそんな時間かと、彼女は時計も見ずに溜息をつき振り返る。
「N、最近このゲームつまんないって言ってなの、訂正する」
「……お前のそんな顔、久々に見るわ」
満面の笑みのFを見て、Nは呆れたように笑った。
「だって、嵐が来る前の夜ってワクワクするもんじゃん!」
あの子はきっと、このゲームの嵐になる。我々、開拓者達が開拓したモノを壊す、嵐に。
今は小さな目でも。絶対に、近いうちに、この嵐は大きくなる。全てを巻き込んで。
「うちも負けてはいられないんだからね! 野郎ども! 作戦会議だぁー!」
大声を張り上げるFに、Nは心底呆れた溜息を吐く。台風に騒ぐ小学生かよ。そう、言ってやりたいのに。しかし、彼は口を口に手を当て、言葉を飲み込む。だって、困ったことに、自分も同じ心情なのだから。
ああ。これだから、このゲームはやめられないっ!!
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