銃と剣 40
颯太の目の前に広がるのは灰色の世界。その中で、潤一と自分だけが色を持っている。成程、色持ちはゲーム登録者かよ。崩れゆく足元の中で、颯太はそう呟いた。
しばらくすれば、もう一つの名古屋が姿を現す。
静寂に包まれた名古屋が。
ここも、矢張りログイン場所の一つか。颯太は潤一達には見つからない為に、先回りとばかりに仁王門の上へと登り、彼らがログインする時を待った。
本当にここでログインをする保障は何処にもないが、潤一と先輩達が『ゲーム内』の要件で合っているならば、態々ログイン場所を指定してきたのだからここでログインしない道理はないはずである。
「今回ばかりは外れて欲しいな……」
颯太がポツリと呟く。何一つ当たらなかった予想が多いのだから、今回だって。
出来れば、何一つ当たって欲しいくないのだが……。
残念ながら、悉く颯太の願い事は却下される。
ほどなくして、潤一が、次に三人の先輩達が仁王門前に現れた。
「黒川ぁ、今週はどれぐらい?」
一人の先輩が口を開く。
颯太は思わず眉を顰める。嘘だろ。何で本名で呼んでいるのだ。
いや、今はそれよりも、どれぐらいとは、一体何が?
颯太は目を細め、潤一の差し出したものを見つめた。それは、一つのアイテム。颯太が今腰にかけている、FとNから貰ったこの世界のアイテム鞄によく似ていた。
先輩は潤一の手から奪うように奪うと、さっそく開けて中を見る。
「おっ。瓶爆弾いっぱいじゃん」
「今週は、先輩達の言った通り、クランはPIO及び周辺のPIOの同盟クランと春風の二つからです」
「流石、上位クランだよな。これだけ瓶爆弾があれば、クラン戦余裕じゃねぇか。ずるくね?」
「分かる。『英雄王』とか、『精霊王』とか言われてるけど、ぶっちゃけコレのお蔭っしょ。俺達だってこれ沸き上がる程ありゃ最強だし」
「所詮、槍とシールドだしな。糞だろ」
「本当はそんなに強くねぇだろ」
颯太は先輩達の笑い声に顔を歪ませる。
何でそんなにも頭を働かせず発言出来るのか理解に苦しむ。今も昔も。
しかし、それは潤一も颯太と同じ気持ちだ。
ぐっと、拳を握りしめる。
FとNの強さは戦った潤一だからこそわかる。このゲーム内で並外れた経験と力と知恵を持つから彼らは『王』と呼ばれる。人を、土地を力を全てを収められる力を持っていてるからこそ、彼と彼女は『王』が付く二つ名を持っているのだ。そんな彼らを戦っても居ないのに、よくそこまで侮辱出来るものだなと、怒り半分、呆れ半分。
しかし、自分が言ってはならない事は重々承知だ。
逆らったらどうなるか。
潤一には、人質がいる。
志賀颯太と言う名の人質が。
「あ、イベントって再来週だろ。この瓶爆弾使おうぜ」
「いいね。回復剤も切れたよな?」
「お前マジで下らない事で使い過ぎた何だよな。なんだよ。こけたから回復剤とかマジおもろいし、マジウケるんですけど」
「馬鹿野郎、俺の膝の方が回復剤より大事だろっ。な、黒川ぁ。お前またオオガミから回復剤かっぱらってこいよ」
オオガミ? 今、あいつらはオオガミと言ったのかと、颯太は顔を上げる。
「瓶爆弾もじゃね? これだけじゃ足りねぇだろ。一、二時間ずっと瓶爆弾使い続けれるぐらい集めて来いって」
「おっ。じゃあ、今週の黒川のお仕事はオオガミちゃんとPIOちゃんか。うわっ。今月のランキング三位と五位じゃん。これは可哀想だわー。可哀想だけど、二つとも百個ぐらいは余裕で集めてきてくれよなー」
「お前、鬼かよ」
「やめろ、笑い過ぎて腹痛いから」
ケラケラと先輩達は笑っている。
こいつらは、潤一が山犬やPIOとどんな戦い方をしているのか知らないのか?
潤一が何を掛けて迄戦っているのを知らないのか?
颯太は、止めどなく溢れる憎しみを先輩達に向ける。
潤一が一人であんな化け物たちを相手にしてまで、何でこんな奴らの為に、アイテムなんか……。
「あの」
その時、潤一が口を開いた。
今まで、ただ、じっと歯を食いしばり、耐えていた彼が。
人質がいる彼が。
『はい』
の返事しか与えられなかった彼が。
先輩達に向けて口を開いたのだ。
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