銃と剣 38


 颯太はマズイと、咄嗟に潤一の席の後ろにある掃除道具入れのロッカーに入って息を潜める。

 こっちの方があのゲームよりも、よっぽど完全体験型ゲームの様だ。

 暫くすると、教室に体操着姿の潤一達が入ってきた。

 

「黒川足早すぎだろ」

「野球部だからなぁ」

「陸上入るべきじゃね?」

「ヤダよ。走るだけとか向いてねぇ」


 如何やら颯太の選択肢は間違っていなかった様だ。

 しかしながら、彼らが次の授業で移動するまでここに隠れてるとなると、大層暇である。女子の着替えならまだしも、男子の着替えなんて見ても楽しくもなんともないし、何より見たくない。残念ながら、女子は女子更衣室で着替え、男子は教室で着替える事になっている。颯太は掃除道具入れの中で小さくため息をついた。


「あ、黒川」


 岡崎の声が聞こえる。


「何だよ」

「そういや、志賀が最近、お前が構ってくれないって言ってた。なんかあったの? お前ら仲よかったじゃん」

「……颯太が?」


 怪訝な声が聞こえる。まさか、颯太の行動を潤一に密告するとは。

 岡っちめ。余計な事を……!


「別になんもねぇよ」


 そう、潤一が言う。


「喧嘩してんの?」

「してねぇし。なんで喧嘩なんかすんだよ」

「最近あんまり連んでる所みてないから。志賀、黒川の事怒らせるような事平気でするし」

「ははは。それこそ今更だろ。もう慣れてるって。ただ、クラスも部活も違うと、特に喋る機会ないんだよな。家は近いけど、わざわざ家まで行く程の用事もないし」

「そんなもんなの? 幼馴染って」

「幼馴染関係なくね? 一緒に中学校から上がってきた奴だって、喋らなくなった奴のが多いしな」

「あー。それはわかる。俺もだわ」

「だろ? あっちもこっちも別々で友達いるし、喋る用事なきゃ、話しかけるタイミング何てズルズルどっか行くし」


 二人の会話を聞いて、颯太は思わず吹き出しそうになって慌てて口を抑えた。なんだ、同じ事考えんじゃん。


「ま、そうだよな。俺も隼人と帰りが一緒になんないと喋んないわ」

「あいつ部活やって無いし、帰りの時間も合わねわ」

「お前ら性格も合ってないもんな」

「え?」


 心の中で、声が出る。


「お前と志賀、全然タイプ違うじゃん。志賀ってノリ軽いし、お調子者だし。ま、そこがあいつのいいところなんだけどさ、誰とでもすぐ仲良くなれるし。黒川は真逆だからさ、正直、よく付き合っていられるなって思ってた」


 俺と潤一が真逆のタイプ?


「……そうか?」


 颯太の頭にも、潤一と同じ言葉が浮かんでいた。


「だって、黒川は責任感あるし、堅いし、真面目だし。真逆じゃん」


 颯太は、岡崎の言葉を鼻で笑う。そんな事はない。そう、潤一も……。


「真逆か。そうかもな。俺、あいつの考えてること、全然わかんねぇし」

「そりゃ、向こうもだろ。志賀、昔から潤は頭堅いしって騒いでたじゃん。今思えば、無理してお互い合わせてたのかもな。幼馴染だし」


 無理をしていた? 合わせていた? 幼馴染だから?

 いや、違う。だって、俺たちは昔から親友で、何をするにも一緒で、俺は一度もそんな事なんて……。

 颯太は思わず口を開こうとさえ思った。

 しかし、聞こえてきた潤一の言葉は否定の言葉ではない。


「……かもな」


 それは酷く、肯定に近い言葉だった。

 そして、それは颯太が一番聞きたくはない言葉でもあった。

 もう、その言葉を聞いた自分の中に湧き上がったものが、それが悲しいのか悔しいのか、怒りたいのか泣きたいのか、なんだか良くわからなくなった。それは、颯太に取っての潤一の存在も同時にボヤけて行く。

 本当に、親友だと思ってたのは俺一人で、潤一は無理に合わせていただけだったのか。


 俺が、あいつを助けてやりたいと思うのは、本当にただの迷惑なのか――。

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