銃と剣 37
潤一が去った後、颯太はクソと呟いて彼も川から上へと上がる。少し言いすぎたかな、とか、アイツにも事情があったんだなと思うよりも先に、颯太は次の行動を考えた。
俺だけには言えないって、他の奴には言えると言うことか? それなら……。まったくもって、学校のテストは微妙なのに、こういう事だけは嫌に頭が働く男である。
志賀颯太と言う男は。
「え? 黒川?」
「そうそう。最近アイツ付き合い悪くてさー。岡っちなんか知らない?」
こういう時こそ、聞き込み調査だと、颯太はヘラヘラしなら小学校から付き合いのある、野球部の岡崎に声を掛ける。
「別に普通だけど?」
その言葉に少しながら落胆を覚える。実は、岡崎に聞く前に既に数人の友達から話をきいており、皆一様に普通だと言われるのだ。
岡崎と潤一は同じクラスで同じ部活、クラス内の席だって近かった筈だ。他の誰よりも有力な情報源だと思ったが……。まさか、アテが外れてしまうとは。
「あ、でも、最近先輩達と仲良いかも。この前も一緒に帰ってたし、よくメールしてるの見る」
「先輩?誰それ」
「部活の、3年の、ほら、志賀が殴りそうになったあの先輩達」
「え」
それは思わぬ情報だった。あのクズの様な先輩と仲良い?
潤一が?
「あり得ないだろ。それは、流石に」
思わず颯太はヘラ付いた顔を真顔に変えて岡崎に問いかける。
「本当だってば。何で俺が嘘付くわけ? 先輩達と和解したんじゃない? 黒川は志賀と違って大人だし」
「岡っち、なんか言葉がナイフのように鋭い」
「俺も気に入らないんだよね。あの先輩達、すげぇ嫌いだし。志賀がヘラヘラ笑ってるのは平気だけど、黒川がヘラヘラしながら先輩達と笑ってるの見ると、俺たち庇うためなのかなとか思っちゃうし。現に、先輩達からの当たりが俺達にあんまないし。そっちこそ、なんか知らないの?」
岡崎の目はいつにもなく真剣で、思わずぐっと颯太が怯む程だった。
「いや、初めて俺も知った事なんだけど」
「志賀、本当に役に立たなくない?」
酷い言われようだな。本当に。と、颯太が呆れていると、もういいと岡崎が颯太を置いて廊下を歩いて行く。
役に立たないと言われると、少しばかり誰でも落ち込むものだ。
しかしながら、情報は得れた。あの先輩達と潤一の仲が最近良いだなんて、俄かには信じられないが、これが事実なら何かある。ゲームに関係ないことかもしれないだろうが。
潤一は誰にでも人当たりも良く、裏表がない。その為友人も多いが、苦手な人間もちゃんといる。それに代表されるのが、あの先輩達である。そんな先輩達と好んで付き合えるような器用なタイプでもないはずだ。
目に見えて変わった所が其処だと言われれば、調べない手はない。
「さて、どう調べるか……」
何かあるとわかっても、本人達に直接聞く訳にいかないだろう。潤一はきっと何も言わないし、先輩達には殴りかかった過去が颯太にはある。彼が声を掛けた所で警戒されてるし、もし無関係であれば今以上に潤一との関係も先輩との関係も拗れる事だろう。できれば二度と近寄りたくもない。
と、なるとだ。
「やる事は一つだろ」
その日の颯太は授業をサボり、一人、潤一の教室にいた。
潤一のクラスは体育。今頃アホみたいな体力を使ってグラウンドを走り回されてる所だろう。今の御目当ては、潤一の携帯電話。
岡崎の情報通り先輩達とメールでやり取りをしているのならば、その内容で潤一がどうしてそうしているのか分かるはずだ。また、あのゲームで辻斬りをしているヒントもあるかもしんない。
ゴソゴソと潤一の鞄を漁り、御目当ての物を探り当てる。
本当はこんな行為などしたくはないが、これはある意味緊急事態。ちゃんと話さない潤一が悪いと言い聞かせ、携帯の表示ボタンを押す。パスワードが掛かっているが、買った時から変えてないなら颯太と同じ番号のはず。颯太は慣れた手つきで番号を押せば、難なくパスワードが解かれ中に入れる。
「メール、メール……」
そう言いながらメールボックスを遡っていく。女の子の名前など何処にもなく、アイツ、本当にモテないな……。女の子の友達もいないのかよ……。ここまで来ると逆に可哀想だなと、なんとも迷惑な同情をしながら下っていく。
少し下れば、そこには、聞きたくもない差出人の名前が見えた。
この名前を忘れるわけがない。
「あった……」
あの先輩達の、いや。野球部三年の一人である。
颯太はメールを開けて、内容を確認した。なんとも、短いメールで、本文には『28大須観音2030』とのみ。
「大須観音?」
名古屋にある寺院の一つの名前である。
メールに意味のある文字はたったそれだけ。
「他に情報は……、ないな」
数字と場所のみのメール。
「と言う事は……」
大須観音と言う単語、これは場所の指定か。
では、前の28は? 普通に考えて、日付だな。
このメールは26日に来てる。28日、大須観音、そう続けば、2030は時間。午後8時半、時間の指定になる。日付、場所、時間。場所が入っているあたり、先輩はここに来いと言ってるのか?
過去を遡れば、同じ人物から似たようなメールが届いている。
「 これも、これも……。こっちも、先輩からだ」
どれも、場所などは様々だが、名古屋にある場所と、日時の指定。どれも同じ内容だ。
ふと、颯太は顔を上げる。
「……今日は何日だ?」
黒板を見れば、汚い文字で28と、書かれているではないか。
つまり、だ。今日の午後8時半に大須観音行けば、少なくとも、何故先輩達と急に仲良くなったのか分かるということ。
時間的には十分、いけなくもない時間だ。保険をかける為に、メール画面の写真を自身の携帯に残して、颯太は急いで潤一の鞄に携帯を戻した。
残念ながら、あのゲームに関してのメールは何処にもない。野良なのだから、仲間がいないのは当たり前か。
しかし、潤一をあの世界に招待した奴は、必ずいるはずだ。
その時だ、外から話し声が聞こえる。どうやら、予定よりも早く授業が終わってしまったらしい。今から外に出れば、最悪鉢合わせ。
「やっべ……っ」
颯太は思わず声を上げ、目の前の扉に飛び込んだ。
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