銃と剣 35
「なんだよ、嘘かよ。あー。めっちゃ焦った俺、馬鹿みたいじゃん」
「当たり前だろ。あそこで加勢が来たなんで悪夢だっつーの。叫ぶ前に倒されてるって。ま、あっちも、騙されてくれて助かったけどな。めちゃくちゃ無駄撃ちして、貰った瓶爆弾も使ったけど……。こんなに上手くいくだなんて思いもしなかったわ」
「瓶爆弾!? お前、よくそんな勿体ない事出来んな……。しかし、俺も、まさか彼処から生き残れるとは思わなかったよ。本当、お前無茶しすぎだろ。めっちゃくちゃ心配したわ。お前トロいからな」
「お前より少し足遅いだけで、トロくねぇから。こっちだって、めっちゃ頭働かしたっつーの。早くなんとかしないと、お前が前みたいに、自分の首切るんじゃないかって」
その言葉に、潤一は颯太を見る。
「……お前、俺を見たことあんのか?」
「あるよ。矢場町の近くの、あの公園時」
首を自分で刎ねた姿を。
「……お前、何であんなことしてんの?」
颯太は、ずっと抱いていた疑問を口にする。できれば、ここで訳を話して欲しかった。今、昔みたいに戻ったこの場なら、きっと。そう、颯太は思わずにはいられなかった。
しかし、そんな事を颯太に潤一は言えるわけがない。
『お前を』庇って、『お前の』代わりに、『お前の』……。
お前がやらなくてもいいように、人を手当たり次第倒してアイテムを稼いでいる。
そんなこと、とてもじゃないが言えるはすがない。それに、それを選んだのは、潤一自身だ。颯太が恩を感じたり、何より頼んでもないことをしているのだから、負い目に思って欲しくない。
「……颯太には、関係ない。俺が好きでやってることだ」
関係ない。その言葉に、かっと頭に血がのぼるのを自分で感じるほど、颯太は怒りを覚えた。
関係など、ないわけがないっ!
「ふざけんなよ! 関係なくないだろ!? お前がそんな事する奴じゃないのは、俺が一番知ってる! お前はもっと……」
「お前はもう、このゲームに入るな」
颯太の怒鳴り声を、酷く冷静な声が止める。
「こんなゲームに関わるな。痛いだけで、こんなゲーム……」
このゲームに入り続ける限り、あの人達が颯太の存在に気づく可能性は高くなる。きっと、バレれば颯太は今の潤一がやっているようなことを強制させられる。
その時、颯太が断れない退路になるのが、潤一の存在である。
潤一が、今度は颯太の『人質』になるのだ。
「何勝手な事ばっか言ってんだよ! 何が痛いだけだ! それは、お前だけだろ! 俺は辞めない! このゲームで友達も出来たし、それに……」
友達? 潤一は、奥歯を強く噛む。
なんて、愚かで馬鹿馬鹿しい話なのか。
本当に、こんなゲームに友達が出来るとでも? こんな、理不尽極まりない、世界で!?
「こんなゲームに友達も何もないだろ!? 倒すか倒されるかだろ! お前は直ぐにそうやって楽観に考え過ぎだ! 騙されてんだよ!」
それは、FやN、ふーちゃんのことか? 何も知らない、お前がただ、斬り捨てだけの相手なのに?
颯太は潤一を睨みつける。
「……お前がそれ言うわけ?」
自分でもゾッとするほど、冷たい声が口をつく。
「友達なんて、何の役にも立たない」
これはそう言うゲームじゃないか。
しかし、颯太にはその続きの言葉が聞こえない。
それは、まるで自分に対しての潤一の本心からの言葉だと颯太は受け取った。
何も知らない癖に。何も、知ろうともしない癖に。どの口が、騙されていると言うのだ。騙されたとしたら、お前に、だ。アレだけ一緒にいたのに、俺には理由が言えない? はっ。可笑しくて笑いそうだ。信頼関係も何もなかったわけだ。俺は、お前に、このゲームの事を話そうとしたのに。突き放したのは、離れたのはお前の癖に。
ずっと、お前は俺の事を要らないと思っていたんだな。
「潤一。俺はお前の方が信用出来ねぇよ。何も理由もなく人を襲う奴じゃないって、お前はそういう奴だって、ずっと信じてたのに、好きでやってる? 俺には関係ない? ふざけんなよっ! 俺は、お前が、ずっと親友だと思ってたんだよ! 親友になんかあったのかって、ずっと駆け回ってた! ずっと、お前の事探して、力になってやろうと思ってた! お前が困ってんじゃねぇかとか、思って心配してた! 全部、俺が勝手にやってた事だけど、親友だから、お前助けたいと思うのは普通の事だろっ!?」
なのに、なのに……。
「なのに、ずっと、ずっと、親友だと思ってたのは、俺だけなのかよ……」
潤一は、声をあげたかった。違うと、俺だってお前の事を親友だと思っていると、言いたい。
でも、親友だからこそ、言えない。
言える筈がない。
颯太が潤一を思う様に、潤一だって颯太を思っているのだから。
「……だんまりかよ」
ボソリと颯太が呟く。
酷く、落胆した親友の声を聞いて、潤一の顔は歪む。それでも……。
「お前にだけは、言えないんだ……」
酷く、顔を歪めて、彼は呟く。
きっと、それが、今の彼が言えるギリギリの、最大限の自分を伝える言葉だった。
「……潤一?」
颯太が顔を上げれば、潤一は直ぐに走り出して川を上り何処かへ消えていく。
残された颯太は潤一の言葉を呟いた。
「俺、だけには……?」
しかし、答えてくれるべきはずの親友の姿は何処にもない。
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