銃と剣 34

「おっしゃっ! これで、二対二!」


 しかし、大鎌と太刀は二人など見向きもせずに潤一相手に交戦中だ。

 流石に二人にまで絞ったが、流石に二対一、潤一は防戦一方。

 同じ頭数になる事までは考えたが、ここからが本当の問題だ。大鎌の強さはよく知っている。なんだって、あのFまでもが一目置いてる存在。先程の様な小狡い策など効くはずがない。

 

 一体、どうすれば……?


 太刀を颯太が担当したところで、ネックは大鎌だ。それは変わらない。中距離の強みは相手の攻撃範囲にいないで済むこと。

 見れば未だに、大鎌は無傷である。

 大鎌に銃身を向けるが、当たり前に大鎌女は動いているではないか。

 先程の相手のように、直線距離の射程範囲内に誘いこめなければ、撃ち慣れていない颯太に当てる事は実質不可能であろう。そればかりか、潤一に当たる確率の方が跳ね上がる。

 

「クソっ」


 援護射撃は無理だ。

 他に案を考えなければ……っ。

 

「何がある……っ!?」


 何もっと、他の方法を! 有効手段を! 勝たなくてもいい、あいつらから逃げられれば……。

 ふと、颯太は大鎌女の言葉を思い出した。

 あいつ、さっき、姫様の命がとか言ってなかったか?

 名前通りであるならば、山犬達のボスの事だろう。彼女の命令で、あの大鎌達は潤一を追っている。それに、あそこはさながら統一された部隊だ。上の者の為に下が死ぬのに抵抗はない。また、上の者を下が守るのは当たり前の事だろう。だとすると、一番最上位である姫様を守ることが彼女達にとっては最重要事項。

 

「山犬姫……」

 

 Fは確か、『山犬姫』も動くならと言っていた。古株であるFの言葉を、Nは誰の事だと聞かずに、話を聞いていた。

 多分、他クランの人達は彼女たちが言う姫様の事を山犬姫と呼ぶのがこのゲーム内では普通なのではないだろうか。

 ふーちゃんに山犬という単語が通じたぐらいだ。あの二人だけの単語とは思わない。ならば、彼女達自身も他クランから山犬姫と呼ばれているのは知っているはずだ。

 上手くいくか、大鎌がどうするかなんて、確定はどこにもない。全て推測の代物だ。だが、一か八かやって見る価値はある。このまま二人で倒されるのを待つだなんて冗談じゃない。

 潤一の推測が外れたんだから、これぐらい当たってくれよ!

 そう思いながら、颯太は、山犬達が最初に現れたビルの上に向かって銃を撃つ。二発、三発と決めて、声を上げた。

 

「山犬姫だっ!!」


 誰もいないビルの屋上に向かって、大声を張り上げる。


「っ!?」


 皆、潤一までもが一様にビルの屋上を見上げた。


「山犬姫が、来た!俺はそっちを追うから、ここは任せた!!」


 そう言って、颯太は走り出した。今度は力の限り、全力疾走である。


「ば、追うなっ!!」


 潤一の声になど振り向かない。高速道路入り口付近にいる三人からは丁度死角になるように、すぐ様横道に入って上に向かって銃を撃つ。さながら、屋上にいる人間が動いている様に、その人物に向かって撃っているように。

 

「ひ、姫様っ!?」

「お下がり下さいませ! 姫様っ!!」

「姫様に近づけさせるかっ!!」


 山犬達は潤一から離れ、すぐ様、颯太を追いかける。

 一人残された潤一は、ただただ、屋上を見上げた。上位クラン、オオガミの中心であり団長である山犬姫。誰一人彼女に近づける者などいるはすがない。

 彼女は最強の遠距離型であると、聞いたことがある。拳銃一つで、勝てるわけがないのに、なんて無茶を……。

 遠くで爆発音が聞こえた。

 

「颯太、まさか……っ」

 

 俺の為にかと、潤一が不甲斐ない自分の手を強く握る。

 はずだった。


「え」


 しかし、その腕は掴まれて、山犬達とは反対側に引きずられる。


「あほ! ボサボサすんなっ! 逃げるぞっ!」


 手を引いているのは、間違いなく颯太だ。

 では、先ほどの爆発音は? 山犬姫は?

 呆気に取られながら、二人で川に飛び込み橋の下に隠れた。意外に深く腰まで浸かるがゲームなので本当に川の高さがここぐらいまであるかは怪しいところである。

 

「……お前、山犬姫を追ってたんじゃないのか?」


 小声で潤一が口を開けば、颯太が潤一の口を塞ぐ。


「少し黙ってろ。すぐあいつらが戻ってくる」


 颯太の言葉通り、山犬達の声が上から聞こえる。どうやら潤一を逃したと怒っているらしい。

 探せと大鎌が大声を出す。あの、眼鏡の男もだ! 見つけ次第、首を刎ねろ! 姫様の名を語った事、許さない!!

 ここで潤一は、はっと颯太を見る。

 嘘か!

 颯太も潤一がなんと言いたいのかわかったのが、にんまりと口の端を釣り上げて笑った。最初から山犬姫なんて何処にもいないのだから。

 彼女たちの声と足音が去った後、漸く二人は肩の力を抜いてため息をつく。

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