銃と剣 33

「お前は俺が何をしてしても、俺の方を見るなよ」


 颯太の言葉に潤一は鼻で笑うあ。

 言われなくても、もう振り向くつもりはないと、潤一は颯太の言葉を聞きながら山犬を睨んだ。

 潤一が攻撃態勢に出るのと同時に、山犬達が飛び掛る。

 敵は全部で四人。

 武器は大鎌、太刀に、腕から剣が出ているやつ……、これは後で調べて知ったのだが、ジャマダハルと言うらしい。剣なのに切るよりも殴るように刺す代物だ。接近戦に酷く特化している。もう一人も剣でさっきの双剣を合わせれば、大鎌以外は全て近距離。連携を組んで大鎌の所に相手を誘導し、逃げ道を塞ぐ役割をしている。


 こっちは、近距離と遠距離一人ずつ。


 潤一が派手に動けば動くだけ、近距離は潤一を囲み込もうと距離を詰めて重なり合うのだ。大鎌を中心とした中距離の領域に。

 颯太は銃を構える。先程の無意識とはほぼ遠く、きっと今撃ったところで当たらないだろう。先ほどのファインプレーだって、奇跡と言っても過言ではない。

 狙えない銃に何の意味があるのか。しかし、多少ならば誘導としての効果はある。

 当たったらごめんな! と、颯太は心の中で呟きながら、潤一の足元に連続して2発。不用意に近づき過ぎている囲い込み要員のジャマダハル使いの山犬が、颯太を見る。

 注意を引きつけれた。


 ここで大切なのは、颯太を山犬の半分以上が見る事である。


 先程から颯太の視野には剣使いの山犬の姿がない。

 それは、剣使いの山犬が颯太を狙って後ろから回り込んでいるからだ。潤一と颯太を比べるならば、戦闘能力、また武器の性質からも、颯太の方が狩りやすいだろう。

 颯太の武器は銃だ。

 遠距離で狙う利点以上に、銃口から直線にしか攻撃範囲はない。その点、日本刀は振り回す分だけの攻撃範囲がある。そう考えれば、自ずと相手が颯太のために割り当てる人数なんて想像が付く。

 これで、二人は颯太を見ている状態下を颯太はまんまと作り出した。

 次に颯太は、剣使いが颯太の後ろを取る前に、大鎌に向って一直線に走り出す。

 

「っ!?」

 

 ジャマダハル使いの山犬が颯太の行動にはっとした顔を見せた。

 一直、それは銃口とも一直線にある。

 銃の発射速度は約時速千キロと言われており、飛行機と同じスピードを持つ。颯太が故意に標準を合わせたり等の前情報がなければ、とてもじゃないが、如何に山犬だって避けられないだろう。

 そんな事、ここに居る人間は誰しも分かっていることだ。颯太以外はこのゲームの経験者。武器の特性をいち早く理解し、対応できなれば彼女達は畏れられる立場にいないはずである。

 案の定、ジャマダハル使いの山犬が、大鎌と颯太の直線上に入る。彼女が、大鎌の盾になる様に。即ち、潤一の囲い込みからはずれた事となる。

 

 此方が意図せず、自然に。それが重要だ。

 

 謂わばこれは罠。一丁の銃を両手で持って真っ直ぐ進めば、視線は自ずと一つの銃口しかみない。もう一丁の銃など、見向きもしない。なにより、前には、ジャマダハル、後ろには剣の山犬の挟み撃ち。例え他にこちらに策があったとしても、どちらが倒されてもどちらかが颯太を倒せばいい。

 勝負は、ジャマダハルが颯太に向って腕を伸ばした時に決まる。

 颯太は、後ろの剣使いの間合いギリギリを走る。しかし、徐々に、徐々に、走る速度を下げていき、銃を撃つ様な、標準を絞るような真似をした。

 

 その姿を見たジャマダハル使いは地面を強く蹴る。そして、颯太目掛けて腕を伸ばす。

 また、剣使いも、颯太が間合いに入り動きを止めた事で斬りかかろうと、とびかかる。

 

 ジャマダハル使いは、大鎌を庇って戦わなければならない為、颯太と銃口の直線上に身体はある。剣使いは後ろから斬りかかろうとし瞬間、颯太が走った為、颯太の背中を追いかける。

 二人は、颯太を中心に直線上にいるのだ。

 比較的、身長の高い颯太に比べ、山犬は女性。颯太のせいで、お互いがお互い、ヒラヒラと舞い上がる派手な赤い着物の為に何処にいるかはわかるたろうが、行動までは見えないはずである。

 もし、銃口が二つあったならば、ジャマダハル使いはその位置ではなかったかもしれないし、また、大鎌が違う指示を出していたかもしれない。

 颯太は、瞬時に銃口を横に向け発泡する。

 横は川、誰もいないし、何もない。しかしながら、撃った反動はそのまま颯太にはくる。先程撃ったと時に耐えた反動を、今回はそのまま全身で従った。衝撃に、身体が銃口からは真逆に倒れる。自分の意図しない速さで。

 それは、山犬達も意図しないことだった。

 銃を撃った反動で突然、二人の山犬の間にいた颯太が視界から消える。

 しかしながら、二人はもう、武器を前へと押し出している。リーチが長い分、先に剣が。ジャマダハル使いを倒す。ここで、彼女は大鎌の様に非常になるべきだった。斬り捨てても、よいと思わなければならなかった。

 しかし、そんな事はなくて。

 

「や、やだ……っ」

 

 彼女は全力でどうしようもないはずの攻撃を止めようとする。止めるためには、自分の腕を見るしかない。見たところで止まるのかと言われれば止まらないはずなのに、人はついつい目を動かす。すぐ様、颯太の方を見なくてはならなかったのに。

 しかし、それは些か後の祭りと言うもの。

 彼女の間違った選択により、倒れたままの颯太が銃を彼女に向けて撃つ。

 もし、颯太を見て居れば、彼女は自分に向けられる銃に気付いて何かしら次の行動を起こせたかもしれないと言うのに。

 実に残念だ。

 

 こうして、山犬二人が颯太によって倒された事となる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る