銃と剣 29
「すみませーん。ちょっと教えて欲しいんですけど」
颯太は『SSS』にログインをして、初めてF以外に声をかけた。あの後、Nが宣言通りにPIOの全員に話を通しておいてくれたのか、敵とは認識されずにフレンドリーに接してくれた。
PIOのクラン員から情報を手に入れ、颯太は昨日の辻斬りの現場に足を向ける。
そこは昨日の惨劇などまるで嘘の様に、赤など何処にもなかった。
「さて……」
ここで、少しばかり整理しよう。
先ほど手に入れた新鮮な情報をここで一つまとめておきたい。
「まず、アイテムの生成について、だ」
その一、素材系アイテムの生成について。
材料系のアイテムは、指定された素材が集まれば、特定の場所に持って行き、誰でも生成が可能である。しかしながら、まだレア度が高いアイテムの生成はなく、あっても中レベル。大体は人を倒せばドロップする様な品物ばかりしか現在は出来ない。
その二、武器の生成、または強化について。
ここについては未だどんな例でも実装はない。最初に選んだ武器の状態で誰もが戦っているとのこと。ただし、武器と分類されていないだけで攻撃性のある瓶爆弾などのアイテムは存在する。
上記二点が、PIOのクラン員から得た情報である。
となると、材料集めと言う可能性はないに等しい。あれだけ、手当たり次第に狩っていたら、生成するよりドロップ品だけで事足りるだろう。
「アイテムの生成については、完全に可能性がないな……。さて、次に換金について」
リアルマネーでのアイテムの取引はなくはないが、極々少数派らしい。
しかしそれよりも、物々交換の方が主流で、占拠エリアを持っているクラン同士が貿易と言う名で自分達のエリアから湧き出るアイテムを交換するのが主。が、個人では中々ある事はないらしい。それよりも、無法地帯と呼ばれる解放されていないエリアで人を倒した方が早いと言う。
ここで、このゲーム内では個人において、アイテムに対して早々重要点ではない事を颯太は知った。
Fみたいな特殊な戦い方をするのならまだしも、そうでないのであれば稀にしかアイテムの使用はしない様だ。
団体戦であればそれなりに威力を発揮するが、個人戦が主なこのゲーム、回復剤ならまだしも、消費系アイテムを使うぐらいピンチならログアウトした方が早いと言う。倒される前にログアウトを行う。
確かに、ログイン時から狩っていたドロップ品は手放す事になるが、結局はドロップするアイテムである。諦めも早いらしい。
『でも、弱いクランは違うかも』
と、1人が言った。
弱いクランはアイテムを多用に使用して、戦う傾向にある。PIOは頭二人がずば抜けて高く、中を固めている幹部も上二人の化け物じみた強さはないが、決して弱くはない。
安定したアイテム供給もあるし、強みも多い。だが、弱小クランだとそうはいかない。
まず、安定したアイテム供給がない。アイテムは確かに重要ではないのだが、他クランとの交友、または同盟を結ぶのであれば大きな要因の一つである。言わば、保証だ。
そして、次に団体戦、詰まる所、イベント時に大きな力を発揮する場合が多い。弱小クランがポイントを稼いでランキングをのし上がるためには、イベント戦は何が何でも数を倒さなきゃならない。クランの知名度はそのままランキングにも反映される。
そして、クラン名だけで、回避できる戦いがあるのだ。
その恩恵を大きく受けているのがオオガミのクラン。山犬達のエリアは誰一人狙わない。クラン名を見るだけで、普通の感性を持ち合わせているならば、回れ右をするのが常だ。近寄ったら最後。山犬による、山犬達だけの宴の食物にされるだけ。
「換金説も可能性がない……。と言う事は、だ」
そうなると、潤一は自分のクランの為にアイテムを稼いでいるのか?
正直、この答えが一番正解に近いと颯太は思った。
面倒みがいい彼の事だ。誰彼構わず自分のクランに入れて、誰にも知られず何食わぬ顔で支える。彼がしそうなことである。いつだって、潤一は自分がやったとは言わないし、認めない。それが皆んなの為であればある程、相手の負担を考えて、決して言わない。
しかしながら、その答えが不正解だと言うことはすぐにわかってしまう。
次に聞いたのは辻斬りの話だ。
辻斬りはどのクランにも属していない野良であると、誰かが言った。
クランに属しているものは、目印の様なものがあり、大抵は武器や持ち物に刻まれる。つまりは何処に所属しているか、名札替わりと言う事だ。
確かに思い出してみれば、山犬の鎌には狼が。FとNには柄の部分にクラン名が掘られていた。それに対して颯太の銃には確かに何一つ取って付けた様なマークも文字もない。それは、辻斬りの日本刀も同じだと教えてもらった。
だとすれば、クランに貢献の可能性も消える。
では何故だ?
「……駄目だ。全然わかんねぇ」
結局、解答の穴埋めは終わっても正解に辿りつけずにこの日は終わった。しかしながら、彼は諦めたわけではない。次の日も、次の日も、かれは『SSS』に時間の限りログインを行い情報収集に当たった。
未だに人をこの銃で倒した事はないけなど、どれ程とゲームには似つかわしくない行動をしていても。
彼はこのゲームに入り、来る日も来る日も潤一を探した。
しかし、彼らはすれ違う事はない。
そう。この時迄は。
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