銃と剣 28
潤一は逃げるように、颯太の前から走り去った。
しかし、颯太には潤一を追う気はもう既にない。
あの辻斬りは、本当に潤一で、でも、そんな事をする奴ではなくて……。何か気の迷いなのか? それとも、何かあるのか? 寝ていない颯太の頭は纏まらなく、彼は額を抑え、立ち尽くす。もう都合のいい答えだけを探すことさえ、彼は出来なくなったのだ。
その日、颯太は全てが上の空だった。授業中でも、帰り道でも。
何気なく、現実世界でのゲームの場所を歩いた。
現実世界には人もおり、近くのコンビニには人影が見える。ここで、潤一は何を思って、あの刀を握っていたのか。何を思って、自分の首を撥ねたのか。
その答えはいつまで経っても導けない。
それは何故だろう。
ぼやっとした頭で自分自身に問いかける。
「何で俺、わかんないんだ……?」
あいつの親友じゃないから?
あいつが俺の事嫌いだから?
いや、違う。もっと現実的で、もっと常識的に考えれば……。
「そっか。情報が足りないからわからないんだ」
はっとして、颯太は顔を上げる。
そうなのだ。自分には圧倒的に情報が足りないのだ。
何故、あのゲームに潤一がいるのか、何故、潤一が辻斬りの様な真似をするのか、何故、潤一はアイテムを捨てたくなかったのか。
「そっか、わかるわけないよな……っ!」
乾いた笑いを颯太は漏らすが、寝ていない頭で導き出したそれは決して正解だとは言いにくい。
しかしながら、寝てない頭にしてはよく頑張ったと花丸を上げてもいいとは思わないだろうか?
「考えろ、考えろ。俺。えっと、自決のメリットは……」
FとNの会話を聞く限り、自爆時には回収したドロップのロスがない。あの二人が真っ先に上げるメリット。それ以外は通常のログアウトだと、Nは颯太の背中を摩りながら教えてくれた。
だとすると、他のメリットは無いのかもしれない。でも、かもしれないだ。
人を倒せば、同じクランではない限り、アイテムのドロップが発生する。勿論毎回ではないが辻斬りをする理由、自爆と呼ばれるセルフキルを行う理由、全てはアイテムによって結びつく。
「アイテム……」
潤一はアイテムを集めていた?
それは一体、何の為に……?
何か欲しいアイテムがあるのか?
しかし、レア度が高いものは倒した人の毎月変動するランキングによってドロップ率は比例して行く。
レア度が高いドロップを狙うのであれば、手当たり次第狩った所で効率は酷く悪い。かといって、レア度が低いアイテムを回収しているのであれば、FとNと戦う理由はない。普通ならば撤退すればいいだけだ。
少なくとも、すぐには気付かなくても、あのコンビネーション技を見せられた段階で引くはずだ。現実世界でも足が速いのだ。あの世界には入れば、追いつける人間は少ないだろう。
しかし、潤一はあの2人との交戦を選んだ。
逃げられないと思ったのか? それとも、逃げる事自体をプライドが嫌がったのか?
いや、二人を倒した後のドロップが欲しかったのか? 勝てる可能性があるのなら、あわよくば回収。無理だったらセルフキルを行い今まで回収したアイテムを持って強制ログアウト。となると、潤一は手当たり次第アイテムを集めていることになる。レア度なんて関係ない。アイテムと言う存在のみ。
一体それは、何の為に?
「アイテムがキーになってるってのは、わかるんだけどな……」
どれもあやふやな回答が、まだあの世界を理解しきれていない颯太にはどうしても多くなる。
ただ、確信を持って、疑わずに言えるのは一つ。潤一は理由もなくそんな事を絶対にしない男だ。
そうとなれば、この穴開き状態の解答に足りない所をまずは、埋めなくてはならない。
情報収集からだ。
アイテムを集めるには理由がある。どんなアイテムでもいいなんてことは、どんなゲームにも無いことだ。
「どんなアイテムでもいいって理由でまず考えられるのは……」
換金機能。
アイテムの売買で金を生成する方法である。しかし、あの世界に通貨なるものがあるのだろうか? Fからは聞いてはない。もし、無いとすると、換金の金の部分はリアルマネー。
つまり寝リアルマネートレードを潤一はする為にアイテムを集めていると言う事となる。
勿論、一つの仮説と言うだけだが。
しかしながら、金のいる趣味なんて潤一にはない。服にも興味すらない奴だ。ゲームも漫画も貪るほどのやる気はない。
「違う気がするな。んー。換金以外だと……」
何か武器や新しいアイテムを作る為の材料を集めているのか?
一昨日Fが拾い上げた宝石の様なアイテムを思い出す。
しかし、持っているだけでいいのか?
集めた後の工程がわからない。少なくとも、あれ程の状態にも関わらず、潤一がアイテムを使っている素振りは皆無。
あれ以上の戦いでしか、アイテムを使わないとか? いや、戦闘スタイル的に考えて、Fの様にアイテムを使う様には思えない。
しかし、最初に登録した武器から変更は無理だと告げられた所を見れば、武器の生成が認められていると考えにくい。強化すら、あるのか疑わしいぐらいだ。
そう、颯太は頭を動かす。
しかし、どれだけ頭を動かそうが、ここで出来るのは推測だ。
推測は証拠を持って初めて事実となる。
ならば、次に動かすのは、体だ。
「よしっ」
そう声を出せば、颯太は早速携帯を手に取る。
やる事は決まっているのだ。
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