銃と剣 24
アイツがいない世界のはずなのに。
思わず、颯太は唇をかみしめる。どれだけ後悔しても、遅いと言うのに。
「取りあえず、うちのクランはこんな感じ。他に質問とかある?」
「あ、あの、Fさんに入団テストがあるって聞いたんですけど、それって武器の使いが慣れているとか見るんですか?」
「え? ああ。そうだな。ある程度は自分の武器を使いこなせているかとか。基本的な事ばかりだよ」
そう言って、Nは笑うが颯太は自信なさげに自分の銃を見る。
「何か心配事でも?」
「えー……。ちょっと、恥ずかしい話なんですが、俺、まだこの銃使った事がなくて……」
「え?まだその銃使ったことないの?」
「そうなんっすよ。怖くて、撃てなくて……」
そう、颯太は素直にNに自分の悩みを手放しに話していく。
Nは沢山の話を優しく聞いてくれて、いつしか、颯太の心の壁を取り除いたようだ。あれだけ警戒に警戒を重ねていた颯太だが、Nに対してはすっかり毒気を抜かれてしまったらしい。
幼馴染に似ていると言う事もあるが、Nの誠実さが十分過ぎる程この短期間で颯太に伝わったのだ。
その様子にFは小さく笑う。
彼女は今、小悪魔の顔をしているのだ。
「うーん。気持ちはわかるけど、銃って、剣とかよりも間接的でやりやすいと、私は思うんだけどなぁ。一回も撃ってみていのは、ちょっと心配要素。君自身が戸惑うと思う」
「確かに、最初は誰でもそうさ。気に止むことではない。取りあえず、Fが言う通り撃つ方法がわからず撃てませんでしたってのは、いざとなった時に君自身が困ると思う。手あたり次第に壁とかに撃ってみる練習とかしたみた?」
どうやら、NとFが登録した際には銃の実装はまだなく、彼等は銃のデメリットを知らないみたいだ。
「ありがとうございます。でも、確かに一発ぐらいは撃ってみたいんですけどね。でも、三十発限定と言われると……」
そう。弾の数は決まっている。
下手に撃ってしまった場合のリスクを考えるとどうしても戸惑ってしまうのは仕方がない事だろう。
「あー。一丁につき十五発だっけ? 十五発ってのは、確かに少ないよね。一発脳天に当てても、三十人しか倒せないし。こうやって、試しに撃ってみれば、って簡単に言えないし」
「かといって、他にガンナーがいないなら事実上、弾の補給は無理だしな」
「例えガンナーがいても、同じ直径の弾とも限らないしね。アイテムとかで何かないかな?」
矢張り、弾の補給はこの2人から見ても絶望的らしい。
かと言って、撃たずに終わればこのまま弾はきっと次回に持ち越しだ。
「俺の持ってるアイテムでも、それらしいものはないっぽいな」
「私も」
「他に方法があればいいんですけどね」
アイテムで解決するならば、それはそれで嬉しいが、そんなに都合がよく物事が運ぶわけがない。あれでもない、これでもないと2人が言いながら腰に付いてる鞄を物色する。
あれ?
ここで、颯太は一つの疑問点が浮かび上がった。明らかに、その鞄はこの世界に持ち込める規定予定よりも大きなものだ。
「あの、それ、体から5センチ以上離れてませんか?」
そう颯太が言えは、Nがああと笑う。
「これ、持ち込みじゃなくて、この世界のアイテムなんだよ。武器とかと一緒の扱いになるから、この世界にログインした時に勝手について来るんだ。主にアイテムとかを入れておくものって感じかな」
「そうそう。これ結構便利でさ、しかもレアレベルが低いから結構簡単にドロップするの。あ、君もいる? あげるよ?」
「え? いいんっすか!?」
「いいよね? N。これ、凄く余ってるし」
「ああ、いいよ。初心者だし、瓶爆弾も入れておいてあげるね。危なくなったらこれ投げつければ爆発するから」
やっぱり、Nさんめっちゃくちゃ良い人だなぁと、颯太は羨望の眼差しでNを見る。
なんたって、瓶爆弾。そのレアリティの話は前回十分過ぎるぐらいにFから聞いているのだから。
「あ、ルーキー君。Fが言った通り、余ってるだけだから、恩には感じなくていいよ」
そう言って、Nは颯太の腰に鞄を付けてくれる。瓶爆弾が数個既に場所を占拠しているはずなのに重さは全く感じない。
「ありがとうござます。でも、凄く軽いですね、これ」
「魔法のアイテムみたいな感じだよ。見た目以上に入るからさ」
「うん。見た目以上に入るけど、アイテムは百個までしか入らないから気を付けてね。君、結構うっかりだし、忘れちゃ駄目だよ」
「そこまでうっかりしてないっすよ」
颯太が口を膨らませながら言えば、FもNも楽しそうに笑った。
「さて、じゃあ、皆んなそろそろ集まるから、ルーキー君の紹介でもしようか」
「そうだね。あ、ちゃんと山犬からFが保護したって言ってよ!」
「はいはい。うるさい奴だなー」
その時だ、遠くから悲鳴が聞こえる。
「!?」
これは確かに、人の声だ。
FとNは同時に戦闘態勢とばから武器を構えた。
「伏見方面から?」
Fの目が鋭くなる。
「……白川公園方面は他のクランの占拠地なはずだよな? あそこから流れてくる奴なんていないはずだが……。おかしいな。F、様子を見に行くぞ。 ルーキー君はここに居ていい。嫌な予感がする」
そう言うと、先程までの柔らかい雰囲気は忽ち煙のように消え去り、一気に纏う空気が冷たくなる。
この時、颯太の頭の中には昨日の情景が浮かび上がった。もし、この悲鳴の原因があの、山犬であったら……? あの女だったら? 二度と会いたいとは思わないが、もう一度、しかし、颯太はどうしてもあの女の動きを見たかった。
「俺も行きます!」
「最悪死ぬぞ」
「大丈夫です! 絶対邪魔なんてしませんから!」
そう言うと、NとFは顔を見合わせ、諦めたようにため息をついた。
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