銃と剣 6
「では、どうしますか?」
「どうするって……。取あえず、ギャンブル系なのはなし。杖も召喚獣もなしでしょ、普通……」
「了解致しました。それではなにを選択されますか?」
「んー。他に人気の武器は?」
取あえず、長いものには巻かれるべきだし、人気のある武器はそれなりに強いと言う事になる。
参考の一つとして聞いておいて損はないだろう。
「そうですね。やはり剣ではないでしょうか? ギャンブル要素なんてまったくありませんし、剣はどう頑張っても剣ですし」
それはそうだ。
しかし、だ。
「剣か……」
颯太の声は渋い。
「何か剣に問題でもありますか?」
剣と言われて、こんなにも渋る人間を初めてみたのか、ナビ子の方から颯太に声を掛ける。
「剣って、切ったり、刺したりするわけだよね」
「そうですね。後、刎ねたり、引き裂いたりですね」
随分直接的な表現である。
「このゲームってなんだっけ?」
「完全対人体験型選別アクションゲームでございます」
「完全対人って事は、剣の先を向けるのは人なんだよな? 対人ってそう言う事でしょ?」
颯太の問いかけに、ナビ子は目を細める。
「ご察しの通りでございます」
当たって欲しくなかったと言えば当たって欲しくなかったが、プレイヤー同士の対戦を行うゲームは数多く存在する。
この『SSS』と言うゲームもその一つだと言う事だ。
「そうなると、剣って接近戦だよな。近距離で……」
これ以上は言いたくないのか、颯太はくぐっと口を噤む。
「意外と知恵はあるのに、臆病と……」
「え? 何?」
「いいえ。剣が駄目ならば、如何いたしますか?」
ナビ子の問いかけに、思わず颯太が唸る。
「遠距離的なものはないの?」
このゲームにグロがあるかどうかは知らないが、切ったり刺したりなど近距離で出来れば体験したくはないと思うのも無理はない。
彼は、今、ここまで落ちて来た事を体験している。
あれがログインというのならば、あの落ちる瞬間のどれ程のリアルさがゲーム内でも自分に降りかかってくるのか。
考えただけでも身震いする。
出来れば、召喚獣で自分ではなく完全な第三者が戦ってくれる事が望ましいが、その選別たるや運任せ。流石に手放しに飛び込む気にもならない。
ハイリスク過ぎる。
「出来れば、近くでグロいの見たくないし」
「グロなしですよ。最近はグロありじゃ流行らないですし、グロを始めると些か開発者側がついつい本格的にやり過ぎてしまう場合が多い為、当ゲームではグロの開発は禁止されております。切られても固体は何も飛び散りませんし、中身は見えないです。赤いだけです。なので、好きなだけザクザク出来ます」
「ザクザクって……。いや、いいや。でも、対人でしょ? 相手、人なんでしょ? 嫌だよ。だから遠い奴がいい」
いくらグロはなくても、相手は人間なわけである。例えグロテスクな表現はないとは言え、はいそうですかと剣を手にして戦いたいとはこれっぽっちも思わないし、思えない。
「そうですね、そうなると……、薙刀、大鎌、魔法にハムスターとかではないでしょうか?」
「……何でハムスターを遠距離いれるわけ? 俺ハムスター飼ってたから、ハムスターに無体な事されるのすげぇ嫌なんだけど」
「一応、召喚獣の扱いなので。それに、軽さ、サイズ故、投げれば飛びますよ。ハムスター」
「投げねぇよっ」
「まあまあ、それは志賀颯太様次第でございます」
「もうハムスターは無しで。召喚獣の選択は絶対しないから」
しかし先ほどナビ子に上げられた武器の薙刀、大鎌は遠距離と言うよりも中距離だろう。
確かに、比較的剣よりは相手から離れていかもしれないが、さほど剣と変わる距離とは言えなものである。
「出来れば、近くで赤い断面って奴も確認したくないぐらい、もっと遠距離がいいな。何かないの? 例えば銃とか」
流石に、魔法やら召喚獣がある世界観で中々銃と言うものはないかもしれない。あるとしても、魔法銃やらになると、これまた銃の性能がギャンブルだと告げられる可能性だってないわけではない。
そうなれば、自ずと選択肢から離れるほかない。リスクの方が高すぎては意味がないのだ。
「ありますよ。現実の、普通の銃ですが」
「……え。あるのっ!?」
なんともまあ、魔法やら召喚獣がいると言うのに、現実的なゲームである。
「はい。銃でも弓でも、勿論ご用意してございます。大きくなく操縦系でなければそれなりと」
ナビ子は表情一つ変えずに、コクリと頷いた。
「じゃあ、俺、銃っ! 銃使うっ!!」
このチャンスを逃すまいと、颯太はナビ子に向かって大きな声で返事を返す。
「了解いたしました。では、銃の種類をお選びください」
「えっと、めっちゃ強くてカッコいい奴」
「種類を言え、種類を」
これがナビ子の素なのか、若干、先ほどの口調から大きく変わっている。
「いや、だって考えてよ。急に銃の種類言えって言われても、分かるわけないじゃん」
普通の高校生には無縁のものだ。それこそ、その道に詳しい者ではないと、さらさらと種類やらなんやらが出てくるはずがない。
サバゲーで触った事はあるが、そんなもの一、二種類程度。その銃で問題ないかすら颯太の知識では判断は出来ない。そうなれば、下手に決める方が明らかな悪手だ。
「はぁ。それもそうですね。わかりました。ではこちらで決めさせて頂きます。ハンドガンなど、どうでしょうか?」
「ハンドガン? いいねっ。 こうやって、両手でバンバンやの、カッコいいし」
「両手、ツーハンドカンズでございますね。了解致しました。では、志賀颯太様の情報に武器が追加されました。後に、武器の登録は変更出来ませんのでご了承下さい。また、銃に使用する弾の実装は、毎回ログイン時に補充されますが、弾数は十五発掛ける事の二丁分しか御用意できません。共に十五発ずつ装弾できるハンドガンですので、既に弾が装弾された状態での再配布となります。弾数がこれより増えることはありませんので、ご利用は計画的に。それ以上銃弾が欲しい場合は、ご自分での調達でお願い致します」
なんとまあ、多い情報量だろうか。
「取あえず、質問なんだけど、自分で調達するってどうやって?」
何処かに他のゲームの様に店やらが構えているのだろうか。その場合、通貨は何かと等の事は聞いておきたい。流石に完全体験型と謳っているが、まさか日本円が通貨だと言い出すのだけは勘弁願いたい。
残念ながら、彼は何処にでもいる金のない高校生だ。
「そうですね、銃を使っている人間を倒して、奪う、ですね」
「流石に、横暴過ぎないか?」
「ご安心して下さい。やりたくても出来ないですので。皆様、先ほどの弾数の注意時点で銃を選ぶ方はいらっしゃらなかったので、現状では志賀颯太様お一人が、このゲーム内での唯一のガンナーとなります」
「……は?」
思わず、間抜けな声が出てくる。
「ちょっと、えっ!? 聞いてないんだけどっ!」
それは、詰まる所、銃弾を補充する術がない事を指す。
「ちょっと、待って! 銃やっぱりやめるっ! 俺も剣にするからっ!」
「先ほども申し上げた通り、残念ながら変更はできませんので」
なんとも、無慈悲にナビ子は颯太に告げる。
こんなの、あんまりだ。
「説明不足だろっ! そっちの過失じゃんっ!」
「いえ、私は志賀颯太様がお聞きになった質問には、全てお答えしました。聞くか聞かないかは、全て志賀颯太様の判断ですので」
「そんなチュートリアルがあって……」
たまるかと、叫ぼうしたした口を、ナビ子の指でそっと抑えられる。
「チュートリアルなんてないですよ。選定はもう既に始まっているのですから。では、楽しい楽しい完全対人体験型選別アクションゲーム、『SSS』の世界をどうぞご堪能下さいまし」
ナビ子が声を上げると、ぐるりと世界が入れ替わる。
今まで頭から落ちていたのに、今度は足から落ちていく。いや、登っていると言った方が正しいのかもしれない。
「ちょっと、まだ話がっ!」
終わっていないと言うのにっ!
落ちているのか、それとも上がっているのか。最早自分でもわからないのだ。自分だけが、ただただ加速していく。
「終わってないだろっ! ナビ子おぉぉっ!!」
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