かくれんぼ-11 プレイヤー弘樹 違和感
このゲームは人を信用するのが前提のゲームだ。
そう確信できたのは藍子さんがいたからだ。
僕だけでいたら、きっと誰も信用しなくなっていただろう。
目の前に偽物がたくさん現れて僕たちを騙そうとする。
それこそ、手を変え品を変え、という表現の通りだ。
僕はここにいるのに、自分の偽物もたくさん出てきた。
藍子さんが偽物だと言う偽物もいた。
僕たちはその度、お互いに触れ確認をしていた。
あるとすれば、絶対に離れないようにする、という事だった。
それだけは徹底的にしていた。
廊下を歩いて回っていた僕たちは休憩をしようと、教室に入り椅子に座った。
すると、藍子さんから話を始めた。
「このゲームって勝利者になるには『花を九輪残す』っていうのと、『探し人を見つける』っていう方法しかないんだよね」
「うん、そうだね。攻略にはそう書いてあったから間違いないだろうね」
「って事は、誰かが『探し人』を見つけたって事なのかな」
さっき、スマホの音声で勝利者が一人増えた事を教えていた。
それが気になっているのだろう。
僕も同じように考えていた。
勝利者になるほうほうがどんな方法なのだろうか、と。
「『探し人』ってなんだろう。やっぱり今まで会ってきた偽物の人とかの中にいたのかな。でもそれだったら、理由……って言うのかな。そういうのがどういうものなのかもわからないし。うーん、難しいね」
藍子さんは困ったように笑う。
それにつられて僕も笑ってしまった。
多分、似たような顔で笑っているのだろう。
「残り二時間か……。何か方法を見つけないと……」
右手を顎に当てて考える。
スマホや壁などに視線だけを動かして、空間に考えを置いた。
この姿勢も考えの仕方も、癖のようなものだった。
感情を入れ過ぎず、論理的に考える時には決まってこの形になってしまう。
すると、後頭部を何かで叩かれた。
振り返ると藍子さんがスマホを持っていた。
「えっと……、何かな?」
藍子さんは頬を緩めて笑った。
「一人で背負い過ぎだよ。考えるのは良いけど、全部自分でやろうとし過ぎ。それこそ、私も恵美も、和志くんも智巳さんだっているんだから。みんなで考えてみんなでクリアしようよ」
そう言っている藍子さんは強がりでもない様子だった。
「凄いね。この場面になって……。ここまで色々な偽物に騙されてきたのに、まだそんな思考になれるなんて……」
「違うよ」
「え……?」
「弘樹君が……、なんか、苦しそうだから……。色々あったのは私も同じだけど、弘樹君を見てると、殻にこもって考えてるみたいだから。それをみんなで考えれば、もっと良い答えに辿りつけるんじゃないかな、って思って。って、なんかごめんね」
そう笑う藍子さんを見た時には時には遅かった。
僕は卑屈だ。
卑屈で自分を小さく捉えるしか出来なかった。
こんな風に言ってくれるのに。こんな風に考えてくれるのに。
「……その、ありがとう」
そう言うと藍子さんはちょっと照れてしまった。
「え、あ……、こちらこそ……」
微妙な空気に笑いを堪え切れずに吹き出してしまった。すると、藍子さんも同じように笑い出した。
「じゃあ、どうしようか?」
僕は藍子さんに問いかける。
「今は考えるしかないのかな。情報、って言える程のものは無いけどね。さっき弘樹君が考えてたのってどういう事?」
「うーん、そんなに進展のある事は考えて無かったけど、まずは情報をまとめようかな、って。今のところあるのはスマホの情報。次にあるのが探し人。この二つが大きく占めている、って事かな。逆を言えばこの二つを考えていけば、答えに辿りつけるはずなんだけどね」
この二つの謎を解くしかない。
藍子さんもスマホを取り出し、二人で考えた。
すると、藍子さんが何かに気付いたように、辺りをきょろきょろと窺った。
「あれ? なんか、変だよ」
「何かあったの?」
藍子さんは小首を傾げスマホと向き合う。
「『読書感想文』の映像が違う……? でも、同じなのかな……。うーん」
僕も急いで自分のアプリを開いた。
『読書感想文』のアプリに表示されたのは、斜め上から映された藍子さんの後頭部と僕の顔だった。そこまで確認すると、何も変化が無いように見えた。
「ちょっと見せてもらっても良い?」
「うん」
藍子さんのアプリを確認する。
映っていたのは、斜め上から映された藍子さんの後頭部と僕の顔だった。
そこで違和感を覚えた。
教室を見渡してみると、確認出来るだけでカメラは五台はある。
なぜ……、僕と同じ映像が映し出されているのだろう。
本当ならば、僕の斜め上にあるカメラが映し出すはずだ。
「どういう事だ……?」
困惑していると、手に持っていた藍子さんのスマホと僕のスマホが鳴り出した。
『ぴんぽんぱんぽーん。敗北者、ゼロ名。勝利者、イチ名。タイムリミット、残り一時間。タイムリミット、残り一時間』
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