かくれんぼ-10 プレイヤー恵美 不安

 誰も信用できない。


 誰に話しかけられても、誰にも触れられないように。


 そうやって、避け続ける事が正解なんだ。


「後、三時間……」


 私は藍子と弘樹君と出会ってから、誰に出会っても接触する事無く逃げ回った。


 逃げて逃げて、自分をどこにも存在させないように、誰にも見つからないように、隠した。


 こうやって考えてみると、このかくれんぼっていうゲームは、そういう意味を込められているんじゃないのかな、って思った。


 隠れて逃げて、生き残る事が正解。


 それは現実でも同じなのかもしれない。


 誰も自分の本当の姿なんて見せないし、嘘で塗り固めたような生活をしている人の方が圧倒的に多い。


 それは私も例に漏れない。


 藍子にも言っていない事もあるし、和志に内緒の話もある。


 だから、私は消えたくなった。


 みんなの中から消えたくなった。


 そう願っていた時、あの少年が誘ってきた。


 夕暮れでオレンジに染まっていく駅のホームで一人、ベンチに座っていた私に。


 私のいらないものって何だろう。


 私の欲しいものって何だろう。


 考えても考えても、答えは浮かばない。


 きっと、目の前に提示されて初めて気付くんだと思う。


 私は私の事を誰よりも知らない。


 薄暗い学校の廊下を一人歩いていると、不安になってくる。


「ここで、私が消えたら……、誰か悲しむのかな……」


 言葉にしてみたら、現実感が増し不安は孤独以上に大きくなっていった。


『ぴんぽんぱんぽーん。勝利者、イチ名。敗北者、ゼロ名。タイムリミット、三時間。タイムリミット、三時間』


 静寂の廊下に間の抜けた音声が鳴り響いた。


 勝利者が出た……、という事は誰かが何かをした、って事なのかな。


 この世界のゲームについて何も知らないから、どうやったら勝利者になれるのかもわからない。


 そういえば、学校内なんたらかんたら、ってやつがあるって言ってたっけ。


 タイムリミットまで、三時間を切っている。


 どうするべきだろう。


 今更そんなのを見ても無駄な気もする。


 それだったら、このまま隠れて逃げて、誰にも会わないでやり過ごす方が良い気がする。


「迷っているの?」


 考え事をしていて気が抜けていた。


 前から、『私』が近付いてくる。


「また、あなた? もういい加減にしたらどうなの? 『私』がそうやって現れても別にもう驚きもしないわよ。それとも、そうやってこっちの意識を逸らして、その隙に触れてくるのが目的なのかしら」


「何をそんなに不安がっているのかしら?」


『私』は「ふふっ」と鼻で笑いながら言ってくる。


 その切り返しに苛立ちが増してくる。ただでさえ苛々してくる状況なのに、もういい加減にしてほしい。


「だから、言ったじゃない。何をそんなに迷い不安がってるの? 本当は信じて欲しい、って思ってるだけで動かない、甘っちょろい子娘の癖に」


 明らかに挑発してくるのが苛々のボルテージを上げていく。


「あんたには関係ないでしょ。いい加減消えてよ」


「『私』はあなたよ? 口数が増えて不安が目に見えてるわよ。ふふっ」


 喉の奥がせき止められる感覚がする。言いたい事はある。だけど、それを言ってしまえば全てがこの『私』の言う通りになってしまう。それも腹立たしい。『私』はゆっくりと近付いてくる


「さっさと決めなさいよ……。もう勝利者も出ているのだから……。ま、こんな調子じゃ誰にも構ってもらえないで負ける事になると思うけど……」


 言葉に言い返せず、睨みで返す。


「あー、怖い怖い。まあ、せいぜい頑張るのね」


 更に近づき真横に立ち止まると、『私』が耳元で囁く


「孤独しか残らない未来なら、望まなくても手に入るわよ」


 言い終えると、私の真横にいた『私』は塵となって消えた。


 私は……。


 私は……?

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