かくれんぼ-12 プレイヤー恵美 本物と偽物

 もうすぐでゲームが終わる。


 私は誰にも見つからないように、空き教室に隠れたままだった。


「誰も信じない……。誰も……」


 信じるという行為が、自分を不幸にする。


 それは、このゲームに入る前からもわかっていた事だった。


 和志の浮気もあったし、藍子とのやり取りもどこかずれを感じていた。


 誰かを信用すればするほど、返ってくるのは信用ではなく裏切りだった。


 裏切りは、痛い。


 心っていう場所が痛くて、栄養が足りなくなって最後には枯れてしまう。


 私なんかいなくなっちゃえばいいのに、って考えた事は何回もあった。


 それを考えるたびに、もしもそうなった場合誰かの生活に支障があるのかな、なんて考えた。


 和志は……藍子は……、私のいない世界でも普通に生活を送るんだろう。


 そんな事を考えるたび、怖くなった。


「このゲームの中で私が死んだらどうなるんだろう……」


 言葉が口を通った瞬間ぞっとした。


 禁断の呪文を唱えたように、緊張と恐怖感がわいた。


 そして、頬を伝ってきたのは涙だった。どこから出てきたのか、何に対して出てきたのかはわからない。


 だけど、誰かを思って泣いたわけではないという事は確かだと思う。


 私は誰かを思って泣けるほど、優しくも清らかでもない。


 不純があり自分を蔑んでいる心があり、美化している部分もある。


 誰かに助けてもらいたい。


 だけど、誰も信じたくない。


 相反するものが心を占めている。


 教室の中は静寂だった。風も穏やかに流れ心地よい。


 スマホを見ながら、自分の周りの状況も確認する。


 未だに『各駅停車場所』のアプリは使えない。


 コード認証なんてどこにもヒントすらもない。


『読書感想文』のカメラは私を映している。


 君が悪いけどそれを気にするほど今の状況は穏やかじゃなかった。


 廊下を歩く音が聞こえてきた。少しずつ、近づいてくる。


 誰にも気づかれないように。誰にも裏切られないように。


 足音は教室の前で止まった。ゆっくりとドアが開かれる。


 そっと机の隙間から覗き込んでみる。そこに立っていたのは、和志だった。


『ぴんぽんぱんぽーん。勝利者、イチ名。タイムリミット、一分。タイムリミット、一分』


 スマホから警報が鳴る。


「あ、れ? 恵美。こんなとこにいたのか」


「和志……? あんた、本物なの……?」


 和志はくしゃっと笑いながら聞いてきた。


「ありゃりゃ、もしかして不機嫌?」


「良いから答えて!」


 和志は少し宙を見て答えた。


「俺が本物でも偽物でも、どっちでもよくね? 中身と外見が一致してたら本物、とか、一致してないから偽物、とか。面倒くさくね? どっちでもいいよ。恵美の思う方で良いだろ」


『五・四・三・二・一……。制限時間終了。勝利者、イチ名。敗北者、ゼロ名。継続者。サン名。継続者、移動開始』


「お、次のステージか……」


 視界が光に包まれ、和志の声は遠くからこだまして聞こえた。

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