かくれんぼ-8 プレイヤー恵美 拒絶

午後はとっくに過ぎ去って、もう午前二時になっている。


ただでさえ怖いのに、こんな時間にこんな場所だと余計に怖くなってくる。


『各駅停車場所』のアプリはコード認証とか表示されて見られないし、『読書感想文』の映像は常に私を監視しているようで怖い。


もう二度と開かない、と決めた。


何も情報がないのが怖い。


私の中には怖いしかない。


さっきの『私』と出会った時から、どこかの教室に隠れるという事をしていない。


とにかく廊下を歩いて、誰にも会わないようにしている。


この世界では出会う人を信用してはいけない場所だからだ。


それが再確認出来たから。


例えば、そこの角を曲がったら、藍子がいるかもしれない。


でもそれは藍子っていう殻を被った、偽物の藍子。


それが和志でも弘樹君でも、あのよくわからない子でも、同じ。


もしかしたら、『私』の可能性もある。


この世界はそう言う場所だ。


角を曲がる前にその先を確認する。人影は無い。


安堵のため息を吐いて先に進む。


廊下を歩くと靴の音が反響する。


その反響音も誰かに自分の居場所を知らせているのかもしれないと思うとそれさえも気になってしまう。


気がかりが多ければ多いほど、注意も増えてくる。


一度立ち止まり、周りの音を窺う。


よく聞いていると、後ろから足音が聞こえてきた。


靴音は二つ。警戒して構えてしまう。


角から曲がってきたのは、藍子と弘樹君だった。


「恵……美……?」


藍子は少し戸惑った様子で尋ねてくる。私は語気を強めて尋ねる?


「あなたは藍子? 証拠はある?」


「恵美さんも、やっぱり偽物に?」


弘樹君は眉尻を下げて聞いてくる。


「もう、何人も来たわよ。あんたたちの偽物も、私の偽物も。だから、あんたたちも本物とは限らない」


「ちょっと待って。そんな事を言ってたら協力してい……」


「協力なんていらない!」


藍子の言葉を遮り叫ぶ。自分がこんなに大きな声を出せる事に今やっと気が付いた。


「でも、恵美さんも協力していけたら、この裏切りの……」


「いらないって言ってるでしょ! もう……、もう……、裏切られたくない……」


気が付くと、視界がぼやけ、地面に水滴が滴っていた。


怖い。私は裏切られる事が、怖い。


あんなに他人を批判してきたのに、本当は自分の元から去っていかれるのが、怖い。


あんなやついなくなっちゃえばいいのに。私の事なんか忘れちゃえばいいのに。


そんな風に思っていた。


それが私の平凡な日常だった。


だけど、いざこうなってみると、私は誰かに寄りかかっていた。


そして、その寄りかかっていたものに、完全な安心を求めていた。


だから、心を許して裏切られるのが怖い。


「恵美……」


藍子がそっと右手を伸ばしてきた。肩に手が触れた瞬間、私の中の何かが拒絶した。


「触らないで!」


咄嗟に藍子の手を振り払った。


「ご、ごめん……」


藍子は戸惑った表情で見つめてくる。


その視線を避けるように振り切り逃げた。


頬を雫が零れていく。


私はもう、裏切られたくない。


だったら、信じなければ良い。


そうすれば、裏切られないから。

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