かくれんぼ-7 プレイヤー和志 罠

 残っている花はあと三本。


 一本でも失えばゲームオーバー。


 残り時間は八時間。


 まあまあ、スリルが残っていて面白い展開だ。


 ゲームオーバーの危機に瀕している方が、だらだらと悠長にやっているより面白い。


 これはゲームなのだから。


 ゲームはギリギリクリアする方が爽快感も達成感も良い。


 このゲームでもう俺は勝利者にはなれない。


 だとしたら、選択肢は一つ。


 敗北者にならなければ良い。


 スマホの『各駅停車場所』のアプリを起動した。周りに三人囲んでいる。


 見回してみるが、人影は無い。


 やはりこれは鬼の気配なのか。


 まずは一番近くの矢印へと向かってみる。


 色は赤。


 廊下を歩くと本当に誰もいない。


 夜も深まり、少し肌寒い。服装は制ら変わりない。


 それが更に現実と夢を混同させた。


 赤い矢印のある教室のドアを開く。


 誰もいない。


 整然と並ぶ机と椅子だけがあった。


 赤い矢印はこの教卓の下辺りにある。


 スマホで確認をしながら、覗き込もうとした。


「ダメですよ! それは罠です!」


 後ろから制服を引っ張られた。


 教卓の下からは『俺』が出てきた。


「せっかく捕まえられると思ったのに……。邪魔が入ったか。まあ良いや。あんたを捕まえれば問題ないもんな」


『俺』は右手を伸ばし捕まえに来る。


 俺の左肩に手が乗る寸前で智巳が割って入った。


「ダメです!」


『俺』は智巳の頭を掴み、俺を睨んできた。


「ちっ、こいつで良いか。智巳、見つけた」


 唱えると『俺』は塵と化した。


 間に入った智巳も弘樹の手から落ちて、床に転がった。


「智巳、大丈夫か?」


智己に手を差し伸べる。


「うーん、だ、大丈夫大丈夫です! あ、二回言っちゃった」


 智巳は起き上がり、頭を振った。


 怪我はしていないようだ。


 だけど、それ以上に大事な事があった。


 それを確認しなければ。事と場合によってはゲームの根底を覆す事になる。


「智巳。お前どこにいたんだ?」


 やっと頭が正常に働くようになったのか、目をパチパチさせて俺の質問に答えた。


「私ですか? ずっと逃げ回ってました。でも、何回も捕まりました。さっきので残り二本になっちゃいました。もうギリギリです。和志君はあと何本残ってますか?」


「俺は二本だ。それよりも、お前……。本当に智巳か……?」


 智巳はきょとんとしている。なぜそんな質問をされるのか不思議だ、と言う顔だ。


「本物ですよ。さっきから色んな偽物に会ったんですけど、こうやって本物の和志君を見つけたんです。これもきっと導きですよ」


「ちょっと待て。なんで俺が『本物』だとわかるんだ」


「わかりますよー。だってどれだけ和志君の見てきたと思ってるんですか。パッと見た外見が同じでも、雰囲気や血流だって違うんですから。だから、この人は本物の和志さんだー、って思って走ってきたんですもん。でも、ちょっとピンチ? って感じだったので、これは助けに入らなきゃ! って割り込んだんですよ。ちょっとはお役に立てましたか?」


 智巳はすらすらと元々置いてあった言葉を並べるように言う。


 この発言の内容も凄いのだが、俺にはもっと聞かなきゃいけない問題がある。


「じゃあ、お前……、なんで矢印が無いんだ?」


「矢印……ってなんですか?」


「とぼけたって無駄だ。矢印は前のゲームでもあっただろう。智巳……、お前、もしかして……」


「もしかして……、なんですか……?」


 智巳の口角が上がった。

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