かくれんぼ-6 プレイヤー恵美 偽物

 この部屋から絶対に出ない。


 私は理科準備室の中で鍵をかけて閉じこもっていた。


 外では誰かが叫び、誰かが追いまわし、誰かが裏切っている。


 私の持っていた花は残り八本になった。


 親友だと思っていた藍子の偽物。話しかけられて、後ろから「見つけた」と呟かれた。


 その後、和志と会った。やたらと身体に触れようとしてきた。それを払いのけて逃げたら、その先にまた和志がいた。


 それだけで、十分だった。


 このゲームには偽物がいる。


 それもいっぱい。


 だったら、誰にも会わないし、誰をも信じない。


 それがこのゲームの真実だ。


 廊下を走る靴の音。


 服の擦れる音にも細心の注意をして、その音が過ぎ去るのを待つ。


 とにかくここにこもって誰にも会わない。


「ねえ、こんなところで何してるの?」


 窓から入ってきたのは、『私』だった。


 逃げようと、理科準備室のドアを開けようとした。


 けれど、施錠をしていたのを忘れ、ガチャガチャと音を立てドアは開かない。


「この部屋にいても無駄だよ」


『私』は理科準備室のドアの真上にある、カメラを指差した。


「あれで、私たちには君たちの事は筒抜けなんだから。あなたの全てが筒抜け……」


「嘘……」


 ドアが背中に当たる。


『私』はどんどん近づいてくる。私が手を伸ばしてくる。


「こっちの方が面白そうね」


『私』はドアの施錠を解いて廊下に出た。


 その後を追いかけるように私も廊下に出る。


 廊下には弘樹君と藍子がいた。


「弘樹君! 藍子も! あっちに私の偽物がいるの」


『私』が指を差してくる。


 藍子も弘樹君もその言葉で視線が強くなった。


「恵美ちゃんの偽物?」


「そう。さっきそこの教室で隠れてたらいきなり出てきて。逃げよう」


 三人が走り出すところで、私はその背中に呼びかける。


「ちょ、ちょっと待って。私は偽物じゃない。その子が偽物よ」


 弘樹君と藍子が振り返る。


 何か訝しんだ表情を浮かべている。


 その後ろににやにやと笑う『私』がいた。


「恵美は、本物……なの?」


「そう! なんだったら、藍子の秘密を全部言えるわよ」


「そ、それは、ちょっと……」


 もごもごと口ごもっていく。


「じゃあ、こっちの恵美ちゃんは偽物、って事? そう言う事なの?」


 弘樹君が『私』に振り返り見た。


 にやにやと笑っている姿は変わりなく、弘樹君も藍子もその異様さに勘付いた。


「なるほど。僕たちを仲たがいさせて捕まえようって事か」


「ごめんね、恵美」


 私の横に弘樹君と藍子が並んだ。相変わらず表情を変えない『私』は言う。


「ちっ、もうちょっとだったのになぁ。もうちょっとで、捕まえられたのになぁ」


 本性を現したのか、口調が変わっている。


 夜の深まる学校は不気味で、自分の分身やら偽物が現れるのはやはり異常な空間だった。


「逃げよう」


 弘樹君が私の背中を押す。


「恵美も早く!」


 藍子が手を伸ばしてくる。


「うん」


 その手を取った。


 すると、二人はにやりと笑った。


「見ーつけた」


 二人は言葉を発し、塵となって消えた。


 後ろから声が届いてきた。


「駄目だよ。そんなに気を抜いてちゃ……」


 振り返ると『私』がもう目の前にいる。私はもう逃げることすらもしなかった。


 やがて、『私』は私の目の前まで駆けてきて、私の肩に手を当てた。


「もう降参しちゃうの? つまんない」


 もう、どうでもいいよ。信じられるものなんてないんだもん。


「恵美……、見つけた」


『私』は私の目の前で塵となって消えた。

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