宝探し-10 プレイヤー藍子 裏切り
残り一時間というところでこのゲームに参加しているであろう、プレイヤーが揃った。
コンビニでは話しにくいため、場所をファストフード店に移した。
「さってと、五人のプレイヤーが揃ったところで整理しようか」
和志君が指揮を取り話し始めた。
「俺と弘樹は同じ学校の友達。んで、藍子ちゃんと恵美も友達だよな。んで、智巳は……、さっき言った通りの……、アレだ」
「アレって何よ! さっさと認めなさいよ! 浮気相手でしょ」
和樹君は恵美にがくがくと揺さぶられている。
「ま、まあまさか和志もここにいるとはね。それから……、あなたも……」
弘樹君は私に会ってからずっとこの通りだった。
ビクビクと怯えているようにも見える。
和志君や恵美や智巳さんには普通なのに、私にだけはよそよそしい。
まあ、会って間もないのだから仕方がないといえばそうなのだろうけれど。
「あの後、大丈夫でしたか? あの……、電車の……」
私が弘樹君に話しかけると、弘樹君はあいまいに笑った。
「ああ、まあ、色々と……ね。まあ、大丈夫……かな……」
明らかに大丈夫ではない声音と態度だった。
俯きがちになり、暗い声をしていた。
「まあ、いいんじゃないか? そういう嫌なものもこのゲームで勝てれば解決するんだし」
和志君は軽く言う。まあ、その通りなのだけど。
「っていうか、この子。大丈夫なの?」
恵美は智巳さんを指差した。怪訝な顔が恨みつらみを持っていることがわかる。
「えっと、私の事ですか? それとも、そちらの藍子さんという方ですか?」
「藍子なわけないじゃん。あんたよ。信用出来ないって言ってるのよ!」
キッと繭尻を上げた恵美は私が今まで見た中で、一・二を争うほどの怖さをもった表情だった。
「あー、私ですか? それなら、大丈夫ですよ。私は昔から余計な事は言わないようにしてきましたから。それに、今日もこんな世界で和志君と出会えるなんて、夢のような出来事があった日なんですから。私は幸せです。幸せな気分の時に余計で信用の出来ない事を言うなんてあり得ますか?」
「あんただからあり得るように思えるのよ!」
「なんでですか? これでも、和志君の幸せを望んでいるのですよ? あなた以外は完璧な和志君の傍にいるのです。そんな和志君の前で、余計なことはしませんよ」
恵美はため息を吐いた。
「突っ込むのも面倒になってくるわね……」
その様子を見て苦笑いを浮かべるしか出来なかった。
「まあまあ、そんなところで良いだろう?」
和志君が割って入ると、恵美がキッと睨む。
「あ・ん・た・のせいでしょ?」
「ははっ、きっついなー」
それでもなお、和志君は笑っていた。
すると、弘樹君が緊張をほぐすようにため息を一つ吐き、口を開いた。
「それで、和志。どう思う?」
その問いに和志君は何かを察知したようだった。けれど、恵美は弘樹君に絡んでいった。
「どう思うって、この智巳って子は完全におかしいでしょ? 誰が見たって怪しいに決まってるじゃない」
「恵美。そういう話じゃないみたいだよ」
和志君は口元に手を当てて何かを考えている。
問いかけた弘樹君は腕を組んで和志君の言葉を待っていた。
「ちょっと……、いや、前提からおかしいな」
「そうだよな。だとしたら、どっちが嘘だと思う?」
「弘樹はどうだ? 色々と試したんだろう? 俺と同じく」
私も恵美も智巳さんもやり取りを聞くだけになっていた。
特に恵美はイライラとした態度すらも見せていた。
「今のところはどちらとも……。だけど、敗北者はこの世界に入ってすぐに出た。それを考えてみるとちょっとおかしいな」
「やっぱりな。俺もそれは疑問に思ってた。だとしたら……」
二人がどんどん話を進めていくところを、恵美が遮った。
「で! 二人が話してる内容が全然見えないんだけど。さっきから話してるのは何?」
この問いには和志君が答えた。
「あーっと、ここにいるのが全員プレイヤーだと仮定して話すと、この世界に来てすぐに敗北者が出ただろ? どうしてだと思う?」
「そんなの、その敗北者だかなんだかがすぐにルールを破った? とかしたんじゃないの? そんなのいちいち気にする事?」
恵美は面倒くさそうに言った。
それに弘樹君が補足した。
「それが、気にしなくちゃまずい事だと思うんだ。まず、このゲームの敗北条件。それが滅多な事でもしない限り『ゲームオーバー』にならないって事だから」
「えっと、それはなんでなんですか?」
私が問いかけると、弘樹君は少したじろいだ。ちょっと傷ついてしまう。
「俺が四本の花……いや、正確には五本の花を失ったのは知ってるよな?」
私と恵美は黙って頷く。
智巳さんはぼーっとしている。
緊張感があるのか、言動の通り天然なのかはわからない。
「あれは、この世界の違和感を確かめていたんだ」
「違和感?」
「そう、違和感。さっき話してわかったのは、弘樹も試していた通り、この世界の外に出ようとすると花が枯れ落ちる。それは、このゲームの自分のライフのように見えた。で、ここからが重要なんだけど、完全に『ゲームオーバー』する条件は何だ? という事だ」
恵美と私は視線を交わした。当然というか、当たり前のように答えが浮かんだので私が答えた。
「花が無くなったら? じゃないの?」
「じゃあ、二人に聞くけど、花が一本になったところでまたルール違反をすると思う?」
「あっ……!」
そうだ。もう一本でゲームオーバーになってしまうところで、わざわざルール違反はしない。
というか、出来なくなる。
「僕と和志は試してみた。その工程で花は少し減ったけど、ゲームオーバーはしなかった。それは、ちゃんとその辺りを考えての行動だったからなんだよ」
「あー、そう言えば和志君、何もないところから出てきてましたよね」
智巳さんは唐突に口を開いた。
「あの踏切の事か? まあ、試してみないと始まらないからな」
「そう、このゲームは敗北者がそうそう出るようなシステムじゃない。それなのに、始まってすぐに敗北者が出た。そして、もう一つ……」
弘樹君は言いにくそうに顔を少ししかめた。それを見た和志君が先を説明した。
「もう一つの矛盾だ。それは俺たちにとって最悪の矛盾だ」
「なんなのよ……。さっきからゲームオーバーだとか矛盾だとか……。もう嫌! あんたたちといると嫌な事ばっか! 藍子、行こう? 一緒にいれば安全だよ」
私は自分の中で一つ、気になっている事があった。
こうやって、五人が揃ってやっとわかった事だけど、それは言ってしまえばその先が怖くなる。そんな事だった。
「もしかして……」
みんなの視線が私に集まる。
「裏切り者……ですか……?」
弘樹君は俯き、和志君は腕を組んで頷いた。
「そう、この中に裏切り……、とまではいかないか……。まあ、嘘吐きはいるな」
恵美はその言葉を聞き思わず空気を裂く様な声を上げた。
「な……、なんで?」
「説明は簡単なんだ。まずは、敗北者はこの世界からいなくなる。ルールの一つでもある。この世界に来た段階で、プレイヤーは五人。敗北者はいなくなって、四人になっているはずなんだ。だから、ここに五人いるという事自体が矛盾しているんだよ」
弘樹君は整然と答えた。和志君もその通りだと頷いている。
「もう一つ付け足すと、各駅停車場所のアプリも、四人しか認識していない」
「誰? 誰なの? その裏切り者って……」
恵美の問いに誰も答えない。
答えられない。
この場にいる全員に迷いが巡っている。
そんな空気を吹き飛ばすように、全員のスマホが叫び鳴らした。
『ぴんぽんぱんぽーん。敗北者、イチ名。タイムリミット、一分。タイムリミット、一分』
「さって、そろそろ時間か」
残り三十秒からカウントダウンが始まった。
『五・四・三・二・一……。制限時間終了。勝利者、ゼロ名。敗北者、イチ名。継続者。ヨン名。継続者、移動開始』
一瞬、光が広がった。
目を瞑り、目を開く。
また新しい、『ゲーム』が始まった。
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