かくれんぼ-1 プレイヤー藍子 読書感想文

  暖かな風が肌に触れる。


 さっきまでいた灼熱の日差しはどこにもなく、風は凪いでいた。


 目の前には学校があった。私は学校の校門に立っていた。


「あれ……? みんな……?」


 周りには誰もいない。一瞬、目を瞑っただけなのに、何もかもが消え去った。現実離れする現象に少しずつ慣れてきている自分が少し怖かった。


 学校の時計の上に『かくれんぼ』と垂れ幕があった。


「あっ!」


 慌ててスマホを取り出す。スマホはカバンの中に入っていた。


 電源を入れて開いてみる。すると、二つのアプリが見つかった。一つは『各駅停車場所』。前回に使っていたアプリだ。


 これでみんなの居場所がわかるはず。


 そう思い、アプリを開いてみると、『コードを認識して下さい』と出て、みんなの居場所はわからなかった。


「あらら。使えないみたいだね」


「また、後で使うのかもしれないですね……」


 こちらのアプリが使えないとなると、もう一つのアプリを起動させてみる必要があった。


 もう一つのアプリは『読書感想文』という名前のアプリだった。


「読書感想文……?」


 恐る恐る触れてみる。一瞬だけ画面は暗転してアプリが起動した。


「え……、どういう……?」


 画面に映ったのは、斜め上から見た私の姿だった。


 映っている方向を見てみると、カメラのようなものがあった。


 スマホと見比べると、やっぱりあのカメラに映っている事は明白だった。


「あのカメラ、私たちを監視しているんでしょうかね?」


「だろうね」


 私の横には和志君が立っていた。


「さってと、今回のゲームはなんだろうね」


「なんでそんなに楽しそうなんですか?」


 和志君は嘘を吐くように笑った。


「だって、楽しいじゃん。藍子ちゃんは楽しくないの?」


「楽しくないですよ。早く帰りたいです……」


「ふーん。俺には帰りたいようには見えないけどね」


 お見通しのように言ってくる。


 確かに、帰ってもまた同じ日々を繰り返すのかもしれない。そう考えると、本当は帰りたいなんて思っていないかもしれない。でも、この異常な世界からは早く出たい。


「あー、じゃあさ。早く帰りたいなら、さっさとゲームオーバーしちゃえば? そうすれば帰れるんじゃない?」


「で、でも、ゲームオーバーしたら」


「うん。いらないものを取られるね。でもそれがなんなの? だっていらないものでしょ。じゃあ、別に取られても良いんじゃない?」


 そう言われてみればそうかもしれない。私にとっていらないものなんだから、取られても困る事は無い。


 大事なものを取られるとなれば、それはまた別の問題になる。和志君の言葉は私の心を大きく揺さぶってくる。


「そうかもしれないですね。でも……」


「んー?」


「やっぱり私、ゲーオーバーはしたくないです。私にとっていらないものがなんなのかも知ってみたい。それを知った上で、いらないもの、として捨てたいと思います」


「ふーん、なるほどね。それはまた面白い事を言うね。だから藍子ちゃんはかわいいんだね。面白い考え方に、面白い発想。恵美には無いものだ」


「恵美は……、関係ないですよ。私と恵美を比べないで下さい。恵美に失礼です」


 和志君は可笑しそうに笑った。こういう表情に騙されてしまう人は多いんだろうな。


「やっぱり、藍子ちゃんは面白いね」


 私が変な事を言っているように取られている。この件で悪いのは和志君だと思うんだけど。


 けど、和志君が同じ場所にいてよかった。一人でいる時よりも緊張がだいぶ違う。それだけでも救われた気がする。


 少し緊張が和らいだところへ、不協和音を奏でるように学校から音が広がってきた。


『校内放送。校内放送。本日の天候。曇り。本日の参加者、ヨン名。スタート時刻。午後九時。タイムリミット。午前九時。学校内広報新聞にて、ゲーム内容の配布。十五分後、ゲームスタート。現在の勝利者、ゼロ名。本日の敗北者、ゼロ名』


「始まったか」


「はい。今度は何をするんでしょう」


「まずは『学校内広報新聞』ってやつを見ないと、だな。とりあえず、学校に入ってみるか」


 和志君が前を進み、私はその後を付いていった。

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