深紅き斜塔のリズ
さる☆たま
第1話 深いまどろみの中で……
わたしは
意識はもうろうとしていて、ただ忘れていた何かを探し求めるように。
不意を打つように、眩い光が眼前に広がっていきました。わたしは眩しさの余り、一瞬だけ眼を瞑ります。
ややあって、光に目が慣れてくると、そこには――
窓から差し込む日の光は暖かく、わたしにはとても心地好いものに思えました。
あまりに気持ち良いものですから、ついまた夢の中へと召喚されそうになります。
あぶない、あぶない。
気がつけば、もう朝が始まっていたのですね。いやはや、驚きです。
日差しの角度からして、現在時刻は「
わたし達の住む大陸では、一日を大まかに四つの「
つまり「火熾しが風の刻」とは、火にまつわる詞で表された「風の刻」というわけです……て、やっぱり解りませんか。えっと、要するに朝ってことですよ。ちなみに、この時間になると、どこの家でも朝ごはんの煙がモクモクと立ち昇り、美味しそうな匂いを運んできます。
ああ、今朝はスモークサーモンとワカメスープかな。
サーモンの芳ばしい香りが、わたしの鼻先を掠めていくのです。これは堪りません。
まだ若干寝ぼけて思考が
わたしはクローゼットの引出しを開けると、純白のブラウスと赤と黒のチェックのスカートを取り出します。それから引出しの上、観音開きになっている方を開け、中に掛けてある紺の
あ、乙女の着替えを想像なんてしたらいけませんよ?
着替えてから、わたしは法衣を腕に抱えて視線を辺りに巡らせ……
「あった、あった」と手を伸ばしたのは、法衣の上に羽織る深紅のマント。
襟首のところがフードになっていて、リボンで結んであって可愛いのですよ。
いつもは部屋の入口にあるマント掛けにかけているのですが、昨夜は遅くまで調べ物をしていて、机の椅子に掛けっ放しだったのでした。
いや、昨日は寒かったものですから。
階段を下りると、ダイニングの方から美味しそうな香りが一層強く漂ってきます。匂いに釣られながらアーチを潜ると、そこには予想通りのメニューの他、トーストにベーコンエッグとサラダまで並んでいて、思った以上に豪華な朝食でした。
じゅるり。
おっと、いけない。
わたしは慌てて口元を拭い、それから左右を確認。
おっし、母さんは台所で父さんはまだ寝ているのか、ここにはいない……と。
一息ついてから、わたしは何食わぬ顔で席に着こうとして、
「あら、起きてたの。リズ?」
「はひゃっ!」
突然の母の声に、全身が奮い立ちました。
ちなみに、リズというのはわたしのミドルネーム。ファーストネームは……ないしょ。
「どうしたの、変な声出して?」
問われて振り替えると、そこにはわたしと同じ亜麻色の髪を後ろに束ねた母の姿。
「い、いやあ、何でもないよ、何でも。あははは……」
「あらそう、それなら良いけど。それより、何か言うことは?」
「え、言うこと……ですか?」
一寸何かの不安を覚えつつ訊き返すわたしを、母は怖い顔でにっこりと見つめると、
「リズちゃん、おはよう」
ズズズと迫る母の顔に気おされて、わたしも反射的にご挨拶。
「お、オハヨウゴザイマス。母上様……」
こうして、わたしのいつもの一日が始まるのでした。
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