7-4. Battle of Two Dragons ②
不死者の王はその間を逃さなかった。
すばやく動き、左側からデイミオンの右脇腹めがけて、剣を両手で持って切りかかった。身長に合わせて、やや小ぶりの長剣だ。
デイミオンは、それをたやすく受けた。両方の刃がぶつかって、甲高い音がした。二の太刀を受けとめ、三の太刀が続き、それから一歩前進し、また打ちあい、もう一歩前進した。間合いを取ってにらみ合う。
「同胞を盾にしたのか」
青年に非難されても、ダンダリオンに痛痒を感じている余裕はない。必死に考え、挑発になる材料がないかを探す。「
そう、思い違いをしている。盾になどしていない。どの駒を、いつ使うかの計算があるだけだ。変成中だったあの同胞も、王である彼自身も、今はデイミオン・エクハリトスを殺すために盤に置かれた駒だった。
「最高の兵器も、扱うのは主人の器量だ。それに……
「時間稼ぎはやめろ」
デイミオンは後ろ足を踏んばって前に飛び出しざま、体重を乗せた剣を振り下ろした。王が左に避け、まわりこんだ彼を追ってデイミオンはさらに左から胴めがけてすさまじい速度で切りかかった。
ダンダリオンは二本の剣で防ぎ、かろうじて受けたが、デイミオンとの体重差で吹き飛ばされ、柱に激突した。衝撃音とともに、石のかけらがぱらぱらと落ちる。転がりおちながらくるりと回転して立ちあがったところを、すかさずデイミオンが切りつけてくる。とっさにしゃがみこんでそれをかわし、彼の剣が柱にめり込んでいる間に、体重を乗せて思いきり横腹を蹴った。だが、不意を突いたはずなのにデイミオンはよろめきもしなかった。やはり体格差がありすぎて、体重の軽いダンダリオンの不利はあきらかだった。
深々と突き刺さった剣を抜く膂力も、目を見張るものがある。
(見事な若者だな)と、一瞬、場にそぐわない感心をしてしまう。竜騎手の長にふさわしい堂々とした体格と、それに見合った膂力。自分が竜騎手として能力の最盛期にあった頃でも、デイミオン・エクハリトスを打ち負かすのは難しかっただろう。
まして、今の自分は老いて、身体も脆くなっている。外見からはそう見えないが、再生能力の低下は確実に王の身に迫ってきていた。
(長引けば、その分不利になる)
決意して、前方へ飛び出す。同時に、短剣を逆手に持ち替え、防御と同時に攻撃できるように構えた。
デイミオンは、低い位置からのすばやい攻撃を長剣で難なく受けると、接近したその間合いで強烈な頭突きをくらわせた。金色の頭はよろめいたものの、蹴りを入れようとしてきたので、脚をつかんで砲丸投げのように投げ飛ばした。王は再び柱に激突し、今度はうまく受け身が取れず、ずるりとすべり落ちる。
その隙を逃さず、青年は駆けよって両手で剣を振り下ろし、王の右肩に切りつけた。骨がつぶれるグシャッという鈍い音が響いた。青い目が衝撃と痛みに見開かれたが、次に悲鳴を上げたのはデイミオンのほうだった。脇腹に走った鈍痛は短剣によるものだ。デイミオンの手から長剣が落ち、王はそれを足で遠くへ蹴りやった。
「どうした? 半死者と一対一でやりあうのははじめてかね?」
はあはあと荒く息をつきながら、ダンダリオンが挑発した。
彼は血の混じったなにかを、ごぷっと吐きだした。致死のケガを負っても動けるのは半死者の数少ない特権だろう。予想外の攻撃に、デイミオンは片膝をつくことは避けたものの、脇腹をおさえてうめいた。
あと一手。
どうやったらこの若者を倒せる? せめて、ほんのいっとき足止めするだけでも――
なにか使える情報はないのかと、ダンダリオンは忙しく頭を働かせた。そしてふと、息子イオの言葉を思い出した。
『オンブリアの新しい王、あれは、デーグルモールだ』
デイミオンの長剣が届かない位置から、注意深く呼びかけた。「おまえたちの王は、デーグルモールなのか?」
青年がはっと身を固くしたので、ダンダリオンにはそれが正しい餌であることがわかった。声を低め、タイミングを見計らって言う。
「おまえたちの王は、私の娘だ」
デイミオンの目が大きく見開かれた。
一瞬、それは王の言葉に驚いたからのように見えた――だが、その手がわななき、足がたたらを踏み、そして腹から長剣の先が見えていた。
ダンダリオンには、それが副官ニエミの剣だということがわかっていた。
「ああ……一対一、は違ったかな」
苦し紛れの作戦が功を奏したことに心から安堵しながら、彼は黒竜大公の腹にもう一本の短剣を突き刺した。
王とニエミは青年の大柄な体を前後から挟むようにして刺し貫いた。ついにデイミオンが倒れると、その後ろからニエミが荒く息をついている姿が見えた。「ニエミ、助かった」
ダンダリオンほどでもないが、ニエミも小柄だ。体格に優れたライダーを、二人がかりでも倒したとなれば僥倖に違いない。はぁはぁと肩で息をしながら、地面に倒れた青年を見下ろす。これで十分だ。なんとか、かろうじて。
黒竜大公は、まもなく腹からの出血によって死ぬだろう。
「おまえは種族のなかの
ダンダリオンは自嘲を込めた言葉を残して、よろめきながら出口へ向かった。
「頭領。さっきの言葉は――」通路を抜けていると、ニエミが聞いてきた。
「オンブリアの王が、あなたの娘だというのは」
「はったりだ。
「ですが、かつて私たちは、ケイエで彼女に会ったのでは?」
デイミオンに言ったのは、油断を誘うための口から出まかせだった。だが、一片の真実がないでもない。
かつてダンダリオンは、エリサと逢瀬を持ったことがあるのだ。古くからの仲間であるニエミはそのことを知っていた。
「いくらあの女が常人ばなれしていたといっても、
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