5-4. 温室の密会
デイミオンはすっと目を細めた。
「――あなたは竜族の男に対する口の利き方を、もう少し学ぶべきだな。ご自分の品位を落としておられる」
ぎすぎすした雰囲気をたっぷりと周囲にふりまいてから、彼らは連れだって退出した。
二人を見送って、廷臣たちがひそひそと話をはじめた。
「デイミオン卿は陛下と結婚して、共同統治を考えておられるものだとばかり思っていましたが。いや、邪推でしたかな」
「そうそう、後見の白竜公に求婚のうかがいに参られたとかいう噂もありましたしなぁ」
「いやいや、そううまくはいきますまいよ。なにしろ、陛下はあのとおりのはねっかえりでおられるし、閣下は自分が主導権を握れないような女性はお好みでないでしょう」
「そうだとすると、我々にも、
エサルは組んだ手の上にあごを乗せ、じっと出口の方を見つめていた。
♢♦♢
デイミオンは彼女の先に立って、石段を下り、見たこともない中庭を横切り、野生のバラが頭上を覆いそうな小径に入った。館からは使用人たちの勢いの良い声や、食器が鳴る音が聞こえていたが、温室に着く頃にはそれらも遠くなっていた。扉の前に立っているのが見知った顔の竜騎手だったので、おそらく彼はすべてをあらかじめ計画していたのだろうと思う。
彼女と会うために。
扉を開けて中に入った途端に視界が暗転し、熱く湿ったもので唇がふさがれた。ドンッと大きな音が響いて、自分がガラス窓を背に押しつけられたのだと知る。デイミオンにキスされていることに、頭が追いつくのに少しばかり時間がかかった。首が痛くなるほど上向かされ、息もできない。
身体じゅうが、どくどくと脈打つ欲望のかたまりになったかのようだった。リアナもキスを返し、舌で彼の奥深くを探った。デイミオンは彼女の腰を手でつかみ、前かがみにならずにすむように目の高さまで持ちあげた。
彼の腰に脚を巻きつけると、二人を隔てる服をとおして彼を感じとることができた。リアナは唇を離してかろうじて息を吸おうとしたが、デイミオンはそれを許さずに、さらに姿勢を変えて腰を押しつけてきた。壁がまた音を立てて揺れて、扉の前の騎手がびくりとする気配が伝わってくるようだ。
「……デイ……」荒く息をつきながら呼びかけるが、彼はまだやめるつもりはないらしく、非難するかのように下唇を軽く噛んだ。
デイミオンは彼女を壁に押さえつけたまま屈んで、広くあいた襟ぐりの縁に唇を押しあてた。リアナは小さく身震いした。
「デイミオン」リアナはため息のようにつぶやいた。やめてほしいのか、続けてほしいのか、自分でもよくわからない。欲望のために動悸が速くなり、体中が心臓になったかのように脈打っていた。〈
首を甘く噛まれながらリアナがぼうっとなっていると、デイミオンが「クソッ」とつぶやいた。暴れまわる竜を抑えるように、〈
「デイ、あなた、なにを考えてるの?」
「やめろ」
「
「やめろと言っている」
片手で彼女の腰を抱き、もう片方の手で襟ぐりの縁を下に押し下げることに夢中になっていては、低い声も威厳があるとはいいがたい。なおもくすくすと笑っていると、また口づけられ、今度は少しばかり穏やかになった。どうやら、自制心を取りもどすべく嫌いなものをいろいろ頭に思い浮かべていたらしい。そんな男が愛おしくなって、リアナは太い首に腕をまわして引き寄せた。
「……会いたかった」
ようやく目と目が合う。デイミオンは苦い顔をしている。「会いたかった? のんきなことを言う。こっちは、おまえの〈
リアナははっと身を固くした。「ごめんね」
あの結婚式の夜、デーグルモールの頭領の息子だという男と出会って、自分も彼らの同類かもしれないという不安はほとんど確信に変わった。イオはあまりにも彼女に似ていた。腕にだけ現れる黒い樹の紋様、触ったものを凍りつかせる能力。それがあまりにも恐ろしくて、不安でたまらなくて、リアナは彼に助けを求めたのだった。
でも、そのことにはいまは、触れたくない。こんなふうに、デイミオンの腕のなかで安心していられるときには。
「ずっとこうしたかった」
彼女の好きな低い声が、耳の近くでかすれて聞こえた。「会議中も……」
「そんなふうには見えなかったわ」
リアナは笑い、デイミオンもつられたように笑った。それで少し気が紛れたのか、ため息をついて彼女を抱きおろし、乱れた髪を撫でつけてやる。
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