1-7. でも、それがあなたの戦争なら、知りたいの
「もし俺が〈
「デイミオンみたいに?」
「デイミオンみたいに」フィルはまた繰りかえす。
「俺たちは同じ母親から生まれたのに、一人は〈
――同じ一つのものを欲しがるなんて、想像したこともなかったな」
「フィル、」今の言葉には、なにか含みを感じる気がする。
「……もし自分にも〈
どこか甘い声がおもしろそうに問う。リアナはまじめに首を振った。
「……いいえ、フィル。あなたはあなただわ」
「……ありがとう」
そのあとは、もう重い話にはならなかった。炎がぱちぱちと
「秋になるとウナギ用の仕掛けを作ってね、昼のあいだに河底に設置するんだけど……雨が降って河が濁ったりすると、よく獲れるんです。メスを仕掛けに誘いこむのに、いろんな餌をためしてみたりしてね」
「ふーん、メスを?」
含みのある目で見ると、フィルは首をすくめた。
「オスにはあんまり価値がないんですよ。小さくて弱いし」
「料理はどこで覚えたの?」
「自己流ですよ。戦時中、毎日毎日、革靴みたいな乾燥肉と携帯パンばっかり食べていて、本当につらくてね。その頃、これが終わったら二度と乾燥肉は食べないと決めたんです」
「だから、温かいシチューが好きなのね。コールドスープは好きじゃない……」リアナは微笑んだ。
「見ていたんですか」
フィルは好き嫌いを表に出すことはめったにないが、一緒に食事をするときに、コールドスープの皿を前に情けない顔をするのを見たことがあったのだ。でも、そんな彼に気がついていたのは自分一人ではないかと思う。
「戦争中のこと……いつか話してくれるって言ったわ」
洗い物を終えたふたりは、暖炉の前に移動した。物入れを兼ねた固い椅子にフィルが座り、リアナは床のラグの上に座った。そして、彼を見あげる形になる。
フィルは目をふせた。
「面白い話じゃないですよ。雨と泥と
「でも、それがあなたの戦争なら……知りたいの、フィル。過去は関係ないと人は言うけど、わたしもそう思うけど……、でもときどき、あなたを遠く感じる。
あなたは国を救った英雄なのに、誰にも助けてもらえないの? 誰かに荷物をわたして、楽になることはできないの? ほんの
「俺の荷物を、あなたが持ってくれる?」
フィルは少しばかり皮肉げに聞いた。「どれほど重いかもわからないのに?」
「……ほら、やっぱり壁がある」リアナはほのかに笑った。優しげに見えて、秘密がある。それが、彼女の知るフィルバートだ。
「でも、わたしだってあなたの荷物を持てるわ、フィル。王様業だって一生懸命やるつもりだけど、でも、腕は二本あるのよ」
あまり寝ていないのと、よく動いたあとで食事をしたせいで、リアナは眠気を感じてきた。床板の上にじかに座り、ソファに頭をつけてうとうとしはじめる。
「あなたが苦しんでいるのは、デイミオンのせい?」フィルがそっと尋ねた。「彼を愛しているから?」
「……うん」リアナは目を閉じて答えた。
フィルの指が、彼女の髪にわずかに触れた。乱れた毛の筋を整えるだけのような動きだった。
「デイが好きよ。だから、彼がほかの女の子と寝ていると傷つく。眠れないの。夜――彼がベッドでやっていること――、わかるの。最低の気分」
「〈
「ええ。……こんなもの、なければいいのにって毎日思ってる。せめて、相手がデイじゃなければって。でも、好きになる相手は選べないのね」
「そうだね」
フィルはソファに座ったまま、リアナの髪にだけ手を触れている。眠気のなか、もっと強く触れてくれればいいのにとリアナは思った。デイミオンの熱のせいで、自分までおかしな浮かされかたをしているのかもしれない。しっかりと抱きしめて、大丈夫ですよと甘やかしてほしい。だが、自分でも子どもっぽい望みなのはわかっているので、口に出せなかった。自分だけではなく、フィルもまた、
「フィルは好きな人はいる? こういうこと聞かれるのはいや?」
「いいえ。これは後ろの質問について。最初の質問は、そうだな、いますよ」フィルは面白がっているような口調で言った。「……もう眠ってしまいそうなのに、俺の恋愛話が気になるの?」
「もちろんだわ。……どんな人?」
触れるか触れないかの指の感触と、思ったより近くで聞こえる甘い声が心地よい。
「俺が好きなひとは……」
その続きを聞くことなく、リアナは短い眠りに落ちた。
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