第335話 王都集結!

 アーノルド王を先頭に一団がラズハウセンに到着したのは、あくる日の正午のことであった。


 門の前で彼を出迎えたのは、現ラズハウセンの国王であるパトリックである。

隣には妻――アリスの姿もあった。


「父上……」


 死んだはずの父親の姿に、パトリックは安堵からその場に両膝をつく。


「出迎え感謝する、国王よ」


「ご冗談を……」


 父と子の久しぶりの会話だった。


 王都の大通りには民衆が集まっていた。

 それぞれは初めそれが王とは気づくかず、だが歓声が上がるまでにそう時間はかからなかった。


 大歓声に迎えられながら、アーノルドは馬にまたがり路地を進んだ。

 その先には懐かしの城があり。


「シエラ、戻っていたのか」


 王城の開いた門の先――大階段を下りたところにシエラの姿があった。


「無事ご帰還されて何よりです、陛下です」


「既に隠居の身、陛下ではない」


 だがアーノルドは気付いた。

 パトリックやアリス、シエラから漂うただらぬ事態を感じさせる空気に。

 それぞれの顔色は浮かない。

 会話にはおかしな間があった。


「どういうことだ、何かあったのか」


「父上、まずは玉座へ。そこでお話ししましょう、急を要する事態です」


 アーノルドが玉座の門をくぐると、そこはまるで集会所と化していた。


 バノームに点在する小国の王たち。

 同盟を一方的に破棄したはずの龍の心臓の一団。

 魔王ルシウス一行。

 ゼファー、カリファ、アドルフの元龍の心臓一行。

 獣王ミネルヴァと護衛のカユウ。

 ミネルヴァは故ウィリアム・ベクターらが政宗を王にすべく創設した自治区アノール・フェリアの領主として来ている。


 久しぶりの広間を見たアーノルドは、ゆっくりと部屋の中央に向かって歩いた。

 懐かしい雰囲気にひたった。


 ふと窓際の椅子に腰かける、やつれた男の姿を見た。

 すぐには誰か分からなかったアーノルドは、しばらくして気付いた。


「シュナイゼル、なのか……」


 かつて国を捨て姿を消した豊王――シュナイゼル・ダームズアルダンの姿があった。

 今では老いた老人のようだ。


「おお、アーノルド、おお、おお……懐かしいな、いつぶりか……」


 こけた頬がゆっくりと動き、頼りない声が聞こえた。

 アーノルドはそっと近づき、彼の手をとった。


「兄上、お久しぶりです」


「アーノルド、まだ私を兄と呼ぶか、血すら繋がっておらぬのに、このような姿になった私を」


「もちろんです」


「……うむ。悪くない。それだけで十分じゃ、もはや私にできることは何もない。もうそなたと会うつおりもなかった。ひっそりと眠るつもりだった。だが私は知ってしまったのだ。息子がなぜ死んだのか、なぜ国が一夜にして滅びたのか」


「どういうことですか?」


「話を聞くのだ、あのお方から」


 シュナイゼルは玉座の前に立つ一条を見た。


「あの青年が?」


 だがシュナイゼルが見ているのは一条でないことはすぐに分かった。

 彼の隣に幼い子供の姿があったからだ

 表情から一切子供の気配を感じない子供。

 アーノルドはすぐにその異様さに感づいた。


「どうやら集まったようじゃな」


 口調までもが子供のものではなかった。


「あなたは?」


 その時には既に、アーノルドは目の前の子供を子供とは思っていなかった。


「お主はアーノルド・ラズハウセンじゃな、質問は少し待て。すべて説明する」


「……分かりました」


 アーノルドにとってそれは説明しがたい感覚だった。

 自分でも知らない間に目の前の子供を敬っていたのだ。

 他国の王と語らう時よりもはるかに。


 子供は広間に集まった告げた。


「――注目してくれんか」


 声は子供のものにしては行き届いた。

 彼の周囲には待った魔法の気配はなく。


「儂の名はアダムス。世間では創生の魔導師――アダムス・ラド・ポリーフィアと呼ばれておる者じゃ」


 その言葉に室内がざわつく。

 アーノルドのように冷静なままの者もいれば、なんだあの子供はと見抜けない者もいた。

 そのすべては小国の王たちのものだ。

 自分たちは何のために集められたのかと、そればかり知りたがっている。


「俺の名は一条幸村、6年前グレイベルクにより召喚された勇者だ!」


 一条の声に、冷やかしの笑みを浮かべていたものが振り向いた。


「ここにおられるのはお前たちが古くから崇め続けているアダムス様だ。観察者の命により、お前たちを救うべく参られた。人々の繁栄をここで終わらせたくないなら、彼の話を聞け!」


 一体何の話だ――。

 誰もがそう首を傾げた。

 一切表情を変えない周囲の身元不明な元たちの姿に、小国な王たちはじき笑うことをやめた。

 ルシウスや龍の心臓の面々、ゼファーらは一切笑っていなかった。


「何から話せばよいのか……八岐の王にしてもそうだ。あれは深淵をより見つけやすくするため、儂が大陸に張り巡らせた網の一つに過ぎん。じゃがエルフの王にも、俗世はちときつかったようじゃ。上手くはいかなんだ」


 幼い声で語られる話に、一同は耳を傾けていく。

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