第178話 雷帝ブラームス
「【
ブラームスの全身で、青い稲妻が音を立てた。
全身から噴き出した青い光は、次第に安定し収束を始める。
一条はその様に、息をのんだ。
まるで雷が人の形をして、歩いているように見えたのだ。
「イチジョウ殿、次はお主が我を援護してくれ」
その瞬間、ブラームスの姿が消えた。
一条までもが姿を見失う。
魔族たちは魔力の波動に集中し、消えたブラームスの姿を探した。
辺りをキョロキョロと、挙動不審な魔族たち。
「あそこだ!」
そして魔族の一人が指差した場所。
それは上空だった。
だが気づくのが遅すぎた。
「【
その時、上空に巨大な魔法陣が現れた。
――放電する青い魔法陣。
そこから無数の青い稲妻が、地上の魔族たちに向かって降り注いだ。
稲妻を浴びた魔族たちは、一瞬にして心臓の鼓動を止める。
そして、痙攣を繰り返し、表面は黒焦げになっていった。
「凄い……」
一条は思わず呟いた。
魔族たちの痙攣は止まらず、すると内部から発火した。
だがその頃には、すでに絶命している。
同胞が大量に息絶える姿を見た魔族たちは、流石に笑うことを止め、するとその表情には怒りが込み上げていた。
魔族の基準は分からない。
一条の魔法に対しては余裕を見せ、ブラームスの稲妻には血相を変えた。
一体、何が違うのか?
だがそれだけ一条が、まだ未熟だということだろう。
魔族たちはそう判断したのかもしれない。
ブラームスの稲妻に目を奪われていた一条は、はっと気づくように、再び魔族に襲いかかる。
だがその時だった。
群れの中から、一つの影が飛び立った。
そしてそれは、真っ直ぐブラームスに向かって食らいついたのだ。
「なっ!」
一条は一度、足を止め、上空を見上げた。
すると、ブラームスの腕と“青い魔族”の足がぶつかりあっていた。
「お主……只者ではないな?」
雷の精霊王ヴォルートの力を借り、浮遊するブラームス。
ブラームスは、青い魔族の蹴りを腕で受け止めた。
「カイゼル・シャステインだ。よろしくな? ――人間」
「シャステイン?……なるほど、王族か」
カイゼル・シャステイン。
以前、政宗が逃がした魔族だ。
「ふんっ!」
ブラームスはカイゼルを蹴り飛ばした。
そして一度、距離を作った。
「精霊を奴隷化、ついでに力を使いたい放題か? 流石、人間様だぜ!」
『あいつ、なんかムカつくんだけど?』
「怒りをお鎮めくださいヴォルート様、ただの挑発です」
『ふん……』
精霊王は叱られたように拗ねる。
するとカイゼルはその隙を見逃さず魔法を詠唱した。
「【
すると魔族の正面に魔法陣が現れ、連続して4つの火がブラームスに襲いかかる。
「くっ!」
それがブラームスの両手足に付着し、灯った。
「なんだこれは? 熱をまるで感じぬが……」
その瞬間カイゼルは、声高らかに気合を込め、火力を増大させた。
「カアッ!」
すると、ブラームスの両手足にあった炎が突然、体に燃え広がり、腕と脚の自由を奪い、磔にされたように手を広げた。
そして抵抗しようとするが……
「執行だ!」
カイゼルがそう言い放った瞬間、突然、ブラームスの足元から凄まじい炎が噴き上げた。
「ハッハッハッハッハッ!」
高笑いするカイゼル。
炎にのまれたブラームスの姿は、もう見えない。
そこには豪快に燃える炎の柱があるだけだ。
だがその時、“柱”の隙間から一瞬の放電が起こると、燃え盛っていた炎が、まるで剥されるように周囲へ散った。
「ちっ!」
悔しそうに舌打ちをするカイゼル。
そこには放電する球体に包まれたブラームスの姿があった。
「いやはや、他の魔族と同じと思い、油断していた」
『あなたの悪いクセよ。そういうところは子供の頃から治ってないのよね~』
「精進いたします」
『無理よ、もう年を取り過ぎたわ。それよりブラームス? あなたちゃんと魔力の配分は考えてるんでしょうね? 熱くなると見境がなくなっちゃうのも、あなたの悪いクセよ? 魔力が尽きたら私の力も使えないんだから、ちゃんと考えてよね?』
「分かっています」
するとブラームスは、カイゼルを警戒しつつ、地上のフィオラを探した。
「フィオラ!」
上空より馬鹿デカい声が響き渡る。
すると別の場所で魔族との戦闘を繰り広げていたフィオラが気づく。
「イチジョウ殿を援護してやってくれ」
「分かりました!」
直ぐに命令を聞き入れ、一条に加勢するフィオラ。
その様子に、ブラームスは一先ず溜め息をつき、落ち着いた。
「人間ってのはひ弱と聞いていたが、中にはヤベえ奴もいるもんだ。こないだの紅い奴しかり、お前しかりな?」
「紅い?……」
ブラームスは一瞬、ニトの仮面を思い出す。
「さあ! 続きをやろうぜ! まだ仕事が残ってんだ! お前を殺して下の奴らも殺して、そんで魔王の娘を捜索だ!」
「魔王の娘だと?」
そこで初めて、ブラームスは魔族の狙いを知る。
だが検討がつかない。
魔王の娘など、一体どこにいるのか?
「まさか、あの会場に魔王の娘が?……」
だが考えても分からない。
「また油断か!」
すると再び、2人の戦いが始まった。
一条はその様子を窺っていた。
「イチジョウ殿! 一旦、下がりましょう!」
「はい!」
フィオラの提案で、一度、魔族と距離を取る。
ブラームスは精霊王を召喚し、魔族の群れを一掃するはずだった。
だがカイゼルに足止めされ、その計画は破たんした。
「どうやら俺たちでやるしかないみたいですね?」
「初めからそのつもりです」
流石はSSSランク冒険者の仲間だ。
怯むことを知らない。
だが一条は、何も怯んでいるわけではない。
だが魔力もいつまでも続か分からず、戦えば戦うほど状況は悪くなる。
しかし攻撃を止める訳にもいかない。
誰もが悪循環の中にいた。
「よそ見してんじゃねえよ!」
その時、そこに一矢が飛んできた。
一条は反応が遅れ、左肩に矢を受ける。
「ぐっ!」
左肩から血を流し、後ずさりする一条。
その様子に魔族たちは馬鹿笑いしていた。
圧倒的にこちらの方が、余裕がない。
数の暴力は相手の精神を簡単に打ち砕くのだ。
その証拠に、他の魔導師たちは、徐々に数を減らしていった。
攻防一体の魔法を繰り広げていた魔導師たちだったが、魔力も精神も、長くは続かなかったのだ。
肩に矢を受けた一条の前に入るフィオラ。
するとフィオラは、両手に光を灯し、それを正面でくっつけると、引き延ばした。
そしてそこに弓が現れる。
フィオラは素早く弓を構えると、右手で弓をなぞり光の矢を出した。
そしてフィオラの攻撃が始まる。
「イチジョウ殿! 大丈夫ですか?!」
フィオラは矢を放ちながら、一条の安否を確かめた。
「問題ありません」
その言葉に一先ず安心するフィオラ。
するとフィオラはさらに矢を連射した。
以前、政宗がシャオーンからもらった剣術の中に、【リント】というエルフの剣術があった。
フィオラが今行っている技もリントの一つである。
リントとは、主にエルフが用いる古武術だ。
剣術しかり弓術しかり、効率の良い立ち回りや力の入れ方など、つまり体の使い方だ。
戦闘時に置いて、もっとも効率よく敵を仕留める戦闘スタイル。
それをエルフは長きに渡って研究してきた。
その集大成がリントなのだ。
その時、一条が左肩の矢を引き抜いた。
一条は立ち上がり、もう一度エクスカリバーを召喚する。
そして、フィオラと共に、一条は再び戦場へと戻っていった。
一方、オズワルドは、そんな魔導師たちを庇いながら、戦場を走り回っていた。
先ほど密かにブラームスから借りた巨人を操り、魔導師たちの援護に回らせている。
だが巨人も既に武器の柱を失っていた。
周囲の森にSランクモンスターがうじゃうじゃいる魔国では、SSランクなど対して珍しくはない。
人間相手ならまだしも魔族相手では、召喚魔法もそこまでの効果は得られなかった。
この巨人に驚いていたのは、結局のところ、身内だけだったのだ。
「オズワルド!」
その時、サブリナとパトリックが戦場に合流した。
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