第12話 深まる溝

パトリックはその後、政宗とは会っていない。

政宗も、パトリックには近づこうとしなかった。

そして、2人の間に少しずつ、溝が生れる結果となった。

もちろん、その理由はトアもネムもスーフィリアも知らない。

トアが尋ねても、政宗は言葉を濁し、話そうとしなかった。

だからトアもそれ以上は聞かなかったのだ。


そして問題は解決されぬまま、時間が経ち、トーナメント戦の日がやってきた。

第一試合、第二試合と進み、そして、

――パトリック対アリスの試合が、今、始まろうとしていた。


客席にはトアたちの姿があった。

だがそこに政宗の姿はない。

政宗は1人、別の場所から試合を観戦していたのだ


――ここは言わば、VIPルーム。


対戦者などの名前が表示される魔光掲示板の真下に位置する部屋である。

政宗はそこからガラス越しに、パトリックの試合を観戦していた。

ところで何故、政宗はここにいるのか?


「待たせて申し訳ないわね」


「……いえ、俺も今来たところです」


それはサブリナが政宗を、ここへ呼んだからだ。


「それで、話とは何ですか?」


「大した話ではないわ、今はね……」


政宗は疑問符を浮かべていた。

するとそこで、試合が開始される。


サブリナは政宗から2つ席の離れた隣に座った。

そしてしばらく何も言わず、ただ試合を観戦した。


「流石ね……彼」


するとサブリナは口を開く。


「何がですか?」


「とぼけるつもり? 彼が今つかっている精霊魔法のことよ」


政宗はここへ呼び出された意味を理解していなかった。

だがパトリックを見つめ、「流石」といったサブリナの言葉で、気づいた。


「あなたの仕業ね?」


「――――――」


「言っておくけど、あれも禁術よ?」


そんなことは政宗も分かっている。

あれはそもそも禁忌の部屋から持ち出した力なのだから。

そして、無論、サブリナはそういう意味で言ったのだ。


「風の精霊、水の精霊、土の精霊……精霊にも色々あるわ。でも、あれは……精霊王は別よ」


どうやらサブリナは、サラが『サラマンダ―の王』であることに気づいているらしい。


「彼を失格にしようかどうか迷ったわ。そして今も迷ってる。あなたの返答次第では、今すぐにそうしてあげてもいいのよ?」


「……あれはパトリックの力ですよ。失格になる理由はない。あれはあいつが求め、そして手に入れた力です。それに、“禁忌の部屋に入ってはいけない”という校則はないはずです。それは先生の怠惰ですよ」


「怠惰?……どういう、意味かしら?」


「先生はあの部屋に入れるものなどいないと、そう思ったんですよね? でもそれは、慢心ですよ。あの部屋の結界にしろ、あのハイルクウェートの杜撰な魔法にしろ……」


「ちょっとまって……ハイルクウェートの魔法って……あなたまさか……」


この時、サブリナは気づいた。

『生贄の誓い』が解呪されていることに。


「その話はどうでもいいんです。つまり先生は慢心からそう判断し、校則にもどこにも、立ち入り禁止とは書かなかった。生徒たちは暗黙の了解をしただけですよ。つまり、あの部屋は『入っても良い』とは言われていない、ただそれだけの部屋です」


「だから……怠惰だと?」


「そうです。慢心……すべては怠惰。これは先生の怠惰が招いたことです。パトリックに罪はない。それとも先生は、向上心を否定するつもりですか? これは先生の問題ですよ?」


するとサブリナは、またしばらく黙った。

校則に記載がないにしろ、無断で部屋に入った2人に、罪がないはずはない。

言ってみればただの不法侵入。そして窃盗だ。

だが彼らを罰する規定がどこにもない上に、サブリナの慢心であることも事実なのだ。


――強引に退学とすればいいだろうか?


だが一度、精霊が宿ってしまった以上、もう取り返しはつかない。

契約破棄は互いの意志がない以上、行えない。強制はできないのだ。

そして、何より精霊王の存在が、サブリナを悩ませていた。

あれはただの精霊ではない、他の精霊とは根本的に違うのだ。


「今回は不問とします。だけど……あんたは知っていて、彼に精霊王を授けたのかしら?」


するとサブリナはおかしな質問をした。

もちろん政宗は疑問に思った。


「知っていた? なんのことですか?」


「……そう。知らないのね」


政宗は客観的に見られるのが、嫌いだ。


「はっきり、言ってくれませんか?」


「精霊とはそもそも――」


政宗は苛立ちながら、そしてそれを誤魔化すように、試合を観戦する。


「――アダムスの遺物なのよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る