錆びつく桃花
韮崎旭
錆びつく桃花
特に不生活への恐怖感は妄執じみた異常な関心や情熱が見られた。明らかに一線を越えていた。いたるところに病害虫を見出し、かさねて踏み殺し、加えて焼き殺し、全ての心臓をピンセットと杭で貫いて回った。特に悪魔憑きの神父には容赦が一切なかった。殺人も辞さないのは当然。腸弦の原材料としては毎晩尖塔の上でおぞましい旋律をかき鳴らし、質の悪い空気を揺り動かした。
街は屍臭で充ちていた。生ぬるい雨は常に硝酸の味がした。引き抜いた下の裏には害虫の卵が立錐のよりもなく産み付けられていて、気が動転するより早く喉を裂いてビニール袋に隔離して廃棄物処理センターへと運搬する一方で、舌も同様の処置に付した。空気は常に喉を焼き、発音するたびに発声器官をはじめとした我々の腐りやすく柔らかい肉を深く裂いた。錆びついた金属の爪ででもあるかのように、棘のある雑草を踏み抜いたように。
あらゆるものは害毒とみなされ、処方箋は嘘発百の安い免罪符であり、売る方でもさして価値など見出していないから二束三文でそれらは投げ売りされた。
床の上に嘔吐した。本日においては三度目の事象であった。蛆や、名の知れないワームの類がその中で身を躍らせてはいないかと身体の不快な熱を移したその吐物を、いったん放置してからゴム手袋などで身を装い、その上で件の粥状の物体を精査する。次亜塩素酸ナトリウムなどで消毒を過度なほど適切に行う。
結核感染が原因で死亡した曽祖父を思い出す。それが原因でまた吐きそうになるのをこらえる。
近年では……もういつ頃からかはわからなくなってしまった……架空の言語と思われるものが頭蓋の中で響くようになった。それは狂人であり、理性そのものであり、そして、アジテーターだった……。表音文字で以て書き写してみたこともある。その文字群を読むことは奇妙に感情を高ぶらせる効果を持っていたが、肝心の意味内容の方は全く言語的に理解することができなかった。
ああいつか、名の知れないワームどもやカリカリと音を立てて物を齧る甲虫共の苗代にこの身体のあらゆる組織はなるに違いない……。私自身がもっとも忌み嫌う者どもを利する腐肉に私は寄生という形態から昇華される。
いつにもましておぞましく響く弦楽器の調べはまたの虐殺の予期を呼び起こさずにはいられない。しかし街の人々は死んだように無関心に過ごし、あらゆるものへの関与に一切の感情を持たないまま、おのれらの肉を貪り食った。
ここには夏も冬もない。雨季の音色はまた新しい地獄を運んでくる。
錆びつく桃花 韮崎旭 @nakaimaizumi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます