第4話 崩壊の目撃者

 ...今日も物理部は平和であった。


 だがしかし、突然の爆発音。


「え、何?」

 一年の勝影三觜かつか みはしが驚く。

 だが、遠いこともあってか、恐怖はない。

「...爆発?」

 三年の滝環美世たきわ みいせも続けて驚く。


 すると、真が何かを察したかのように、冷蔵庫の中の弁当に伸ばそうとしていた手をさっと、ゼリー食品に変え、ぐっと掴むと、ばっと冷蔵庫を閉じ、スタッと走って物理室を出た。


 ────────────────────




 ────これは、神の力────


「なんだぁ!お前ごとき一般人に、この神気ちからをどうにかできるとでも?」


「...一般人...それはどうかな...」


 海守が手のひらを上に向けた。

 すると、


 シュゥゥゥゥ....


 と音を立てて、海守の手の周りに水蒸気が浮かび始めた。


「きっ貴様!まさか!」

 男が驚く。


神気ちからに目覚めたとでもいうのか!」


「あぁ、これが俺の神気ちから...」



みずかみ、だ!」


 海守がそう吠えると、一気に周りの水蒸気が集まり、手のひらの上に水の塊を作り出した。そしてそれを男に投げつけた。


 びちゃっ


 あっけない音が響いた。



「はっ、そんな神気ちからの初心者じゃ俺は倒せないぜ。」


「くそっ、漫画のようにはいかないか!」


 海守は期待を失いつつも打開策を考えた。

 ──俺の神気ちからは、水(化学式H₂O)の形質と移動を自由にできる力──

 神気ちからを得たときに脳に入ってきた情報を整理する。


 ──それなら!


 海守は手のひらを男に向け、ふんばった。


 ...だがなにも起きない。


「なにをしようとしてるか知らんがそんな段階レベル1のお前じゃ何もできない」


 ──そうだ、段階レベルによってできることが限られるんだ。


 神気ちからには個人で段階レベルがあり、それに応じてできることが変わってくる。これも神気ちからを得たときに入ってきた情報だ。


 海守がしようとしていたのは、相手の体内の水を操ることだった。


「まぁいい、お前もとらえて研究材料にさせてもらう!」

 男の手には大きな黒い物体が。海守が一人で立ち向かっていた間にそのおそらく発火源であろう物体をためていたのだ。


「食らえ」


「くっ」

 海守はとっさに彩海を抱えてマンションの塀の外に転がった。


 ドガァァァァアアアアン


 今までで一番大きな音を立てて爆発した。


 少し赤みがかった煙にのまれながら彩海が言う

「海守君の神気ちからって水を操れるんでしょう?」

「なら私も戦う。」

「彩海の神気ちからは?」

「私の神気ちからは、うみかみ、自由に水を作り出せるの。」

 海守は察した。二人はうなずき、立ち上がる。


 煙の中から男が出てくる。

「にがさねえぞ」

 男が二人を睨みつける。


「いくよ!」

「ああ!」

 二人はそう言って、再び頷いた。


 彩海が手を空に掲げると、小さな水の玉が現れた。

 それは次第に大きくなっていき、直径が彩海と同じくらいにまでなった。


「今までのお返しだ!食らえ!」

 海守が水の玉に手をかざすと、リンクしたように海守の手の動きに沿って弧を描くように水の玉が男に直撃した。


「くっ、当たっただけか?」

 男は拍子抜けのように言う、だが

「うっ、ウボ、ッボボッ」


 飛び散ったかのように見えた水は再び男の頭を囲って、男は息ができない状態になる。


「この人死んじゃうよ」

「追ってきたのはこいつの方だ」

「お願い死なせないで」

「わかったよ」


 海守は彩海のお願いを聞くように、男が倒れる前に水の操作をやめた。


「ゲホッ、ヴホッ」


 男が苦しんでる間に、二人は逃げる。



「海守クン...」

 誰かが海守の日常の崩壊を目撃した。


 ...真だった。






 二人は、急いで神誕かみた駅と書かれた駅に来て、ホームのコンビニに入る。

「何をするの?」

「有り金全部持ってく。」

 そう言いながらコンビニのATMからざっと10万円程を鷲掴みにし、すぐさま駅の切符売り場で課中かなか行きの切符を買い、二人はそのまま改札を抜け、電車に乗った。


「どこに行くの?」

「俺の祖母の家、あそこなら田舎だし、ある程度は安心できる。」


 鷲掴みにしていた紙幣をポケットの財布にしまいながら、そう海守が彩海の問に答えると、

「それに、俺のおばあちゃん優しいし。」

 と付け加える。



 二人は電車の窓から観える景色を眺めた。


 広大な青く輝く海の上に、1つ大きくたたずむ太陽。空は茜色に包まれていた。それはただ二人の状況を忘れさせるほど、美しい眺めであった。





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