第5話王子の悪戯(2)

王子が留守にしていた間俺は彼についての噂を色々と聞いた、いや聞かされたといったほうが正しいかもしれない。

ほとんどが彼の美しさ、剣の腕前など彼を誉めはやすものであったが、1つだけ毛色の違う噂があり、それが唯一俺の関心を引いた。その噂とは、彼の家族関係のものであった。


彼は国王の二番目の妃との間に生まれた子供であり、国王と母親はとても彼を可愛がっていた。しかし、彼が15歳になった頃、国王が平民の女と恋仲になっていたことが発覚し、彼の母は嫉妬に狂って、兵士を派遣しその女が住んでいた村の人々を殺さた。そのあと、妃はなぜ浮気などしたのかと国王に問いただした。しかし、彼は何も話そうとはしなかった。その数ヵ月後に彼の母は事故で死んだ。


これがその噂の大体の内容であった。


それで彼はあんなひねくれた性格になったのだろうか。そう思うと少し気の毒なような気もしたが、あの憎たらしい顔を思い出し大きく首を横に振った。


先程王子が去っていった方向に目をやり、ため息をつきながら柱に背中をあずけると、くしゃっと紙が潰れるような音がズボンからした。不思議に思いゴソゴソとポケットをさぐると、1枚の手紙が入っていた。開いてみるとそこには可愛らしい女の字で、


“ずっとお慕いしておりました。正午に紫の間にてお待ちしておりますので、もしよろしければいらしてください。”


と書いてある。時計を見ると、ちょうど午後1時の5分ほど前であった。そういう浮わついたことに興味はなかったが、待たせるのは相手に失礼かと思い(決して舞い上がっているわけではない)、俺は急いで紫の間に向かった。

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