45 蝕む者

「ああっあああぁぁぁぁぁぁぁぁ…」

「大丈夫だ。誰も怪我はしてないから安心するんだ、ヒデ君」


 例のスズに病室を吹っ飛ばされた自称パークで一番やさしい医者…


「名前を伺っても」

「マイケルです」

「…は?」


 そういえばこのオッサン、流暢な英語で来園客と話しているのを見たことがある

 あまりに別人だったのでその時は無視したがまさか本人だったとは


 オッサン…マイケルはタカの点滴を慎重に交換するとどこかに歩いていった

 その背中には歴戦の医者の面影が少しだけ見えた



「うっ、うぅ…」

「大丈夫か? お前、ヘドロみたいなやつに虐められてたけど平気なのか」


「大丈夫です。ご心配なく」



 振り返るとヘビクイワシが小説を読みながらこちらに歩いてきた

 昨日わけのわからないやつに襲われて気を失っていたはずなのにピンピンしていて、疲労の一つも感じられない



「オオタカさん、起きれますよね」

「うんしょ、…おお、行けるわ。それに何だかいつもよりも動ける気がする。どうしてかしら」

「おいお前ら正気か? さすがに今日だけは寝とけよ、動けるって思って動くと後で響くぞ。一応スポーツ選手なんだから自分の体には気を使え」



 しかしフレンズ達はイマイチ自覚がないらしく、ぽかんと口を開けて自分の手を見つめていた



「ヒデ、私達はとってもグッドなコンディションよ。だから心配しないで、あなただって止められても無理して今まで生きられたでしょう? 今年こそスカイインパルスが連続優勝を果たして私達が強いってことを知らしめてやるわ!!」


「連続なんてさせないわ!! スカイダイバーズこそ優勝して会員を増やすのよ! フフ、フフフフ……そしたらみんなを崖から突き落としていい顔を見せてもらうの… まさに天国よ、フフフフ…」



 もう休むどころではなくなり、二人の間で明らかに火花が散っている

 もっとも片方のは火花と言うよりなのだが


 すると病室にいつぞやの副所長が入ってきた

 流れるように火花を散らす二人を引き剥がし、いとも簡単に黙らせるとタカをベッドに寝かせて眠らせた



「オオタカさんはもう少し寝てなきゃダメです。二人も喧嘩してないで心配してあげて。全くもう、放っておいたらすぐこれなんだから。

 あとこれからとても大事なお話をするから、スズちゃん、オオタカさんとヒデさんと私以外は部屋から出ていってくれませんか?」



 フレンズたちは一言も言わずにぞろぞろと病室から出ていった


 さすが副所長、だれも反抗しない

 俺がやってもハクトウワシに馬鹿にされて終わりなのに!!!



「ああ、最後にフクショチョーさん」

「ん?」

「スズはいつ起きるの…?」

「そのうちきっと起きますよ。だから心配しないで、いつ目覚めても良いようなヒーローになって待っていてください」



 ハクトウワシはそれを聞いて少しだけ微笑むと、静かにドアを閉めた



「はあ~あったかい、それに羽もやわらかいですね~~! 」

「ね、ねえ話をしに来たんじゃないの? ねえ、ちょっと」



 副所長は今の数秒で眠りに落ち、タカに抱きついたまま静かに寝息を立て始めた

 近寄って覗くと目にはしっかりとクマが刻まれていてあまりよろしくない勤務状況を察することが出来た


 ていうか副所長、なんだか生態がミライさんに似ている気がする



「…そのまま寝かせておいてやれ。お前もついでに休んだほうが良い」

「そうするわ。少し暑いけど……」



 結局副所長に抱きつかれたままタカも眠り、俺もスズの布団に入り込んで仮眠をとった

 人払いしていたので起こされることはなく起きたときには12時を回っていた



 _____________________



「ご、ごめんなさい! まさか仕事中に寝ちゃうなんて私」

「気にしないでください。顔色も悪いし寝てないんですよね? 我慢するくらいならこっちのほうが良いですよ」



 副所長は深緑の髪を軽く整えると深く座り直した

 すると急に目つきが変わり、淡々と喋りだした



「シコルスキーと言いましたね……警察と連携してロシアの戸籍まで調べたところ、一応それらしい戸籍は見つかりました。ただ名前以外の何もかもが偽物で、現住所の場所は現在工場というレベルなので解決の糸口にはなりそうにない」


「そもそもあいつらのやっていることが謎すぎて解決と言われても何をすべきかもわからないですよ! 人工的に作ったサンドスターなんか使ってスズを生み出して、なぜかしばらく手を出さず今になって急に破壊活動を…」



 急に自分を睨むような鋭い視線を感じた

 そういえば、大事な人に大事なことを話すのをずっと忘れていたことを思い出した


 どうやら俺は話すタイミングを見誤ったようだ


 タカ… 怒ったような悲しむような、何かの感情で溢れた表情で俺を睨みつけると一気にまくし立てた



「ねえ、作り物ってどういうこと? スズはフレンズでしょ? 違うの?」

「ごめん。最近になってやっと分かったんだ。…でもちょっと特別なサンドスターでできてるってだけでお前と変わらないフレンズなんだ」

「一緒だったらこんなことにならないでしょ!! せっかく仲間ができたのにこのままずっと起きなかったら…」


「オオタカさん。スズさんがフレンズじゃなかったとして、気持ちに何か変化はありましたか? 自分と違うからって変なことでもあるんですか? 自分と同じように考え生きるのに何か、困ることでもあるんですか? 違いますよね」



 タカの顔色が悪い…


 結局何も言わずに窓を開けるとどこかに飛んでいってしまった



「あっもうあんなところに! もう!」



 窓に駆け寄るがもう遅く、タカは既に雲のところにいる

 諦めた副所長がタカの寝ていたベッドにばふっ、と音を立てて座った



「あの、喧嘩とかしたわけじゃないんですよ。あんなにイライラしてるのを見たのは初めてで…… あとで叱っておきます」


「もう影響が出ているのかもしれないわ。だとしたらとっても…深刻よ」



 病室の入り口から大人びた声が聞こえ、振り返るとカコさんが立っていた



「カコさぁん!」

「影響?」



 ______________________





「とてもショッキングかもしれないけど私にはこのことを伝える義務がある。そしてあなたには聞く義務がある」

「構わないです」



 俺の目の前に座って前かがみになったカコさんの腕の間からかなり豊満なあんなものやそんな物が見えている

 目のやり場に困るのでこういうの早めていただきたいと思う


 余計なことを考える俺と反対にカコさんは真剣な眼差しでいくつかの資料を取り出し、話を始めた



「人工サンドスターは……大きく3つの性質を持つの。

 一つは天然のサンドスターと同じ、輝きや情報をコピーし保存、複製すること。この性質を使ってパークを襲撃した人間は自由に拳銃を出したりスタンガンを出したりした。


 そしてもう一つ、人工サンドスターは天然のサンドスターに紛れるの。わかりやすく言えば人間にとって一酸化炭素は、酸素よりも結びつきやすいから一酸化炭素で充満した部屋にいると中毒になって最悪死に至る。


 それと同じで、サンドスターを使うような場面で人工サンドスターが存在しているとサンドスターを押しのけてフレンズやセルリアンの体に結びついちゃうからとってもとっても……良くないことになるわ。


 さらにもう一つ。人工サンドスターは主に無機物が複雑に結びついてできているのだけれど、天然のサンドスターを吸収し増殖する性質があるの」



 長い話が終わった頃には鏡で見なくても分かるほど自分の顔が青ざめているのがわかった


 ジャパリパークにおいてサンドスターは天候の調整、物質や輝きの触媒、フレンズの体、外の世界との分離など数え切れないが欠けてはならない機能を司っている



 ……そこで一つ、に気づいてしまった



「あの、じゃあ人工サンドスターが天然のサンドスターで構成されたフレンズの体に入り込んだら……」



 聞きたくはなかったが聞かずには居られなかった


 そしてカコさんの口から出たのは想像していた通りの答えだった



「人工サンドスターがたった1でもフレンズの体に入り込んだなら、内臓や筋肉、けものプラズムを作るサンドスターを指数関数的に食い荒らしながら増殖するでしょうね……そのフレンズのサンドスターが完全に尽きて、動物の姿に戻るまで。


 フレンズの体内のサンドスターの粒子は1兆とも10兆とも言われてるからすぐにってわけじゃないけど……」



 すると病室の窓を何者かが蹴破り、破片とともに見知った顔のフレンズが病室に入ってきた



「キタキツネ!?」

「たっ、たすけて!! お、温泉が出ないんだよ! ギンギツネも居ないんだ!!」

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