19 鳥籠とヘルパー 

タカと博士の目の前に広がるのはまさに惨状・・・


汗まみれの大男が手足を変な方向に曲げて頭から血を流しながら倒れており、その上でヒデが顔から血を流しながら折り重なって気絶していた。


二人の奥ではスズが横たわっている。

先程までスズに風を送っていたであろう扇風機はカバーと羽がボロボロになって火花を散らしていた。


「よく分からないけど救護班を呼びましょう。結構ひどい怪我だから私達だけじゃ無理よ博士。電話はあるかしら?」

「固定電話はここには無いですがヒデの電話があるのです。」


そう言い博士が懐から携帯を取り出し慣れた手付きでジャパリ病院に連絡をとった。


「どう?どのくらいかかるの?」

タカが心配そうに携帯を覗き込む。


「来るには来るらしいのですが暑さで来園者が大量に倒れて入れるかは分からない、とのことなのです。治療のできるフレンズを集めているそうですがこれでは・・・

それにお前も気をつけるのですよ。」


博士がコートを脱ぎ捨てるとコートは砂のように崩れ、虹色の結晶が散っていった。

タカは肩に背負ったやせぎすの男を乱暴に投げ捨ててから、同じように上着を脱いで空中に投げると同じように崩れ散らばっていった。


「さっきから気になっていましたがその人間は何なのですか?」

博士が尋ねるとタカが「これ?」と言いながら首元を掴んで持ち上げる。


「見て察してほしいわ。さっき管理センターにも連絡すればよかったわね。」


持ち上げられた男は頬に赤い手形が痛々しく刻まれ、腕と胸には羽が刺さって血が滲んでいる。


「最近は素行の悪い客が増えてきて管理センターも大忙しなのです・・・

私は救護がくるまで少し世話をするのでお前はそいつを見張ってるのです。」


しかめっ面で嫌そうに承諾した。

博士がスズを背負ってどこかに飛んでいく。

タカだけが一人図書館に残された。


「なんだか不穏な感じね。こういう人間ってセルリアンよりよっぽど面倒だわ。

・・・なんだかガリガリを思い出すわね。」


足元に転がるやせぎすの男を見下ろす。

自分がフレンズとして生まれてからこんな人間に会った事が無い。


そういえば最初に出会った人間はだれだっけ・・・

確か園長だった気がする。

サーバルキャットやギンギツネ、ミライさんを連れてホートクに突然やってきた。

レースで輝きを奪われた時は取り戻すのも協力してくれて、バードリアンを倒すのも手伝ってくれた。


とても優しい目をしていた。


思わず足元の男と見比べてしまう。比べ物にならない・・・か。

奥の大男にも目を移す。あんなんじゃない。

そして・・・血を流して気絶しているヒデ。


何度もパークに来るたび迫ってきてそのたびに張り倒した。

だけど体を張ってフレンズを守っているところを何度も見たことがある。

その度にああやって血を流していた。


タカはなんだか懐かしい気持ちになってフフッと微笑む。

そしてヒデの元へ向かおうと立ち上がった時・・・



「動くな。声も出すな。死にたくはないだろう?」

首筋に冷たいものを感じる。


「この・・・」

「喋るな。いくらフレンズでも太い血管をやられたら終わりだろう。

くそ・・・羽なんか刺しやがって・・・」


自分が捕まえたやせぎすの男が目を覚ましてしまったらしい。

首元に小型のナイフを当てたまま体に刺さった羽を抜いていく。


「手を後ろに回せよ・・・」


その時タカが隙を突いて殴りかかろうとしたが二の腕を切りつけらて血が滲む。


「首だったらどうなってたかな?」


タカは手を後ろに回した。すると男がすぐに紐で手際よく縛っていく。

縛り方が素人のものではないとすぐに分かった。全く動けない。


「ここで一騒ぎするのも野暮だ・・・場所を移そう。飛んでもらうからな。

後ろを向いて足をこっちに出せ・・・」


タカが膝立ちになると片手でしっかりナイフを首に当てながらもう片方でしっかりと結んだ。

手と足を結ばれて体の自由が制限される。


「俺の言う場所まで飛べ。助けを呼んだらすぐに殺す。命令してない変なことを始めても同じだからな。お前らは何をしでかすか分からん。

さあ・・・飛べ。ゆっくり低くだぞ。丁寧にやらんと首がどうなっても知らないからな。」


そしてタカはゆっくりと飛び立つ。炊事場で博士が何かをやっていたのでバレないようにこっそりと回っていった。


「ハクトウワシとハヤブサが待ってるのに・・・」

「お前の運が悪かったからだな。どっちみち誰かは犠牲になってたんだ。

さあ・・・黙って飛ぶんだ。」


ーーーーーー


博士がスズを連れて戻ってくると何故かタカと男が一人居なくなっていた。

そしてすぐ救護班が到着した。


「男性二人とフレンズ一人・・・うち飼育員一人。これで大丈夫ですか?」

「ま・・・まあ・・・いいのです。感謝するのです。」


男性の看護師らしき職員が声を掛けると担架に乗せられた三人がどこかに運ばれていった。


博士はその三人を見送ると図書館の周りを飛び回った。


「タカ~!どこに行ったのですか!!」


そう叫ぶが全く返事がない。

博士の声だけが山に響いて帰ってくる。


「困ったのです・・・勝手に居なくなるとは全く問題フレンズなのです。」

「ただいまなのです。叫んでどうしたのですか?博士。」

「助手ですか。おかえりなさいなのです。タカが急に居なくなったのです。奴に限って居なくなるなんてことはないと思うのですが・・・」

「大丈夫なのです。奴はタカなので。それよりジャパリ図書館でスズについての収穫がなかったことは本当に残念なのです。」

「そうですね助手。研究の続きをするのです。」


「「我々は、賢いので。」」


ーーーーーー


白い天井と消毒液の匂い・・・

スズの担当になった日を思い出す。


しかし今はスズは居ない。

かわりに俺を殴った大男が包帯だらけで向かいのベッドに寝かされていた。


「ヴォエ!」

「ヒデさん大丈夫ですか!?吐気がするんですか!?

それならパップはいかがですか?」

「ヴォエ!」


隣にはコアラが立っていた。

心配そうな顔でこっちを覗いている。


「スズはどこですか?」

「下の階にいますが大丈夫ですー。お水飲んだら回復されました。」

「良かった・・・」

「とりあえずー。何があったのか教えてください。」


俺は事の顛末をすべて話した。


「スズさんが言ってたことと全く同じですねー。ということであの人は治ったらケーサツ行きですー。

悪い子!めっ!」


コアラがベッドで寝ている男に強めの手刀を入れた。


「えっと・・・ヒデさんは脳震盪と鼻に切り傷があっただけなのでもう退院になるみたいですよー。怪我の範囲が広かったのでこーせーざい、とかいうのもあげちゃいます。」

「ありがとうコアラちゃん。それじゃあ、ありがとう。」


こういう時陽キャは「君の顔が見たいからまた怪我しちゃおうかな?」とかいうんだろう。

そんな事を考えながら受付に行くとすぐに携帯を返された。


「スズはどこに居ます?」

「シロオオタカさんなら先ほど出ていかれましたよ。」

「ありがとうございます。」


そして自動ドアを開けると冷たい夜風が吹いてきて目が覚める。

スズはどこに居るんだろう・・・?

見回すとベンチに座っているのが見えた。


「おい・・・あっ。」


疲れているのか背もたれに寄りかかって寝息を立てていた。

起こさないように抱き上げようとしたがさすがに起きてしまった。


「こんなところで寝てると風邪引くぞ。帰ろう。」

「遅いわ。熱中症の次は風邪なんて最悪よ。」

「悪かった悪かった・・・」


そう言いスズを降ろそうとしたが掴んできて離さない。

子供のようだ。


「どうしたんだ?歩けないか?」


一瞬の沈黙。


俺の首の後に手を回して・・・

ぎゅっと抱きついてきた。


「ありがとう・・・」


俺は更に強い力で抱き返す。

数秒の時間が何時間にも感じてしまう。


スズの目を見ていたらついにダメな感情が湧いてきてしまった・・・


「無事で良かった。俺はそれだけで十分だ。さあ、帰ろう。」


そうは言いつつ頭の後ろに手を回す。

だんだん近づいていく唇・・・




二人は幸せなキスをして終了。

こうして禁断の恋は実り二人はいつまでも幸せに暮らしましたとさ。


二人の恋が実ったのでここで古びた鈴は完結となります。

短い間でしたがご愛読ありがとうございまs


「あああああああっっっっっ!!!!!!!ヒデ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


「うわあああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


ハクトウワシとハヤブサが鬼の形相で飛んできた。

ここまで慌てている二人を俺は見たことがない。


ていうかそろそろキスしようとしてるのを邪魔すんのやめろ焼き鳥にすっぞ?


「とりあえず何があったのか教えてくれないか?

あと落ち着いてくれ。」

「落ち着けるわけ無いでしょ!?」

「くそ・・・!なんでよりによって・・・!」


過呼吸気味だ。

それにハクトウワシは若干目尻が赤くなりかけている。


「ねえ・・・何があったの?ハクトウワシ、ハヤブサ。」


ハクトウワシがハヤブサと目を合わせる。


「タカが・・・」

「いなくなったんだ・・・」


「は?」「え?」


ーーーーーー


タカもよく知らない森の中をゆっくり飛んでいく。

男が首にナイフを当てて牽制している。


森の深みにどんどん入っていくほどに暗くなり、人もフレンズも全く見なくなってきた。

脳裏にハクトウワシとハヤブサの顔が浮かぶ。


「お、あそこの小屋でいいだろう。降りろ。」


指示通りゆっくりと降りていく。

管理されず所々に苔やツタが生えているボロボロの小屋だ。

男に持ち上げられ中に入ると、意外と中は綺麗で雨も凌げそうな感じだった。

ただの四角い空間に所々木の実の種や皮が落ちている。

じゃぱりまんの包装紙も落ちていたのでフレンズが昔使っていた住処だと分かった。


「よいしょっと・・・やっと着いた。ほら、お前も楽にすればいい。

まあ縛られてるから動けないか。ハハハ!」


男が床に座りタカを縛ったまま寝かせた。

男が鞄からバーベキューで使うようなライトを取り出し付けると小屋全体が明るく照らされた。


「鈴が目的なら私は何も知らないわよ。」

「鈴なんか興味ない。もうひとりの奴は欲しかったらしいが俺は最初から金目的じゃないからね。頭の良い君ならこんな事すぐに分かるよね?

スカイインパルスの参 謀 さ ん ?」


本当の目的はタカにもなんとなく分かっていた。

この男の自分を見る目がいつものヒデの自分への目と似ている。

それどころかもっとドス黒くて気味の悪い感じもした。


しかし恐ろしくてそれを認めることは出来なかった。


「フレンズは美人しか居ないんだね・・・特に猛禽の君のような目が・・・

怯えて歪んでるのも最高だよぉ・・・」


殺意を込めて睨みつけた。


「そういう反抗的な目も大好きさ・・・!でも抵抗したらダメだよ。

・・・そうだ。俺の仲間が集団でパークにやってきてあの飼育員も君の友達のフレンズも全員誘拐しちゃうかもしれないから・・・命の保証もないよウヒヒヒ!」


男のでまかせも、冷静さを失い判断能力が欠如した状態のタカには相当効いてしまった。

タカが縛られた状態でなんとか頭を回転させる。


今すぐここから逃げないと・・・だけど逃げられないし抵抗したら皆の命が危ない。抵抗せずされるがまま・・・?そんなのありえない。


いつもならこうやって考えれば良い作戦が思いつき、スカイインパルスを優勝に導いてきた。


私なら・・・できるのに。


そんな希望も儚く、自信は男に踏みにじられた。


「ずいぶん焦ってるけどもう手遅れなんだから素直になすがままにされな。

往生際が悪いぞ・・・!」


早業で手の紐を天井にくくりつけると男が強引に唇を奪った。

あまりの屈辱に表情が歪む。


「アハハハ!!甘い!柔らかい!!!これが人の姿をとった動物・・・!

これがタカの唇なのか・・・!クチバシはどこ行っちゃったんだ!?」

「ッ・・・!」

「あは!これかな!これなのかな!」


男が黄色い前髪を口に含んで見せつけてくる。

逃れようと首を振るが押さえつけられる。フレンズなので純粋な力の強さはタカの方が上だがなぜか逃げられない。


男が前髪を味わい尽くすと口からぬるりと吐き出した。

水分を含んで重くなった前髪がべちゃりと額に落ちる。


「いっ・・・!」

「ああっ・・・いい音じゃあないかっ・・・!最高だよっ!」


縛られた両手首と足首が擦れてひりひりと痛い。

だがそんな痛みなどかき消すほどに・・・気持ち悪い。

今度は男が首筋に人差し指と中指を這わせる。


「暑いからって上着脱いじゃってさ・・・!女の子って自覚ないのかなっ!」


今タカは白い制服を脱ぎ捨てていて上は茶色のシャツだけになっている。

男は指をうねうねと這わせながら動かしていきシャツの上から胸を撫で回した。


「やっぱ猛禽だからそんなにおっぱいは無いんだね。でもとっても柔らかくって最高だよ・・・!いやぁ、夢を見ているようだ・・・!」


「もうやめて!!!!」


ついにタカが声を荒げる。

しかし男は好機とみたのか再び唇を奪った。

そして・・・シャツのボタンに手をかける。


「あぁぁあ・・・・」

タカの目から一筋の涙がこぼれ落ちた。

男がすかさず舐め取る。



男がにやりと笑ったかと思うと・・・



シャツを思い切り引き裂いた。




「アハハハ・・・・・あれ?」


整っているタカの顔は恐怖から涙まみれで、目と鼻は真っ赤になっていた。

しかし目の前の男は急にがっくりと肩を落とす。


そして腕の拘束を一瞬外すと床に結びつけた。

じゃぱりまんを口に咥えさせられる。


「それ食って寝な。毒は入ってないからな。

・・・ノーブラかと思って期待してたんだけどな。続きは明日するから寝て回復しろ。」


タカは目の前で目まぐるしく変わる状況に頭が追いつかなかったが、今日は自分はなんとか助かって寝かせてもらえる事になったことまでは理解した。


腕で涙を拭うとそのまま横になった。


ヒデ・・・スズ・・・誰でも良いから助けて・・・!


ーーーーーー


「どういうことだ!!」

「だから、居なくなったのよ!!タカは絶対10時までには住処に帰って来るのに今日は一向に帰ってこないの!!」

「こんなことは一緒に暮らし始めてから一度もない。それに今日はスカイレースに向けて鳥のフレンズで集合する予定だったんだ。結団式のようなものだ。

それをあのタカが忘れたりサボるなんて絶対ありえない。」


どうやら思ってたより大分重大らしい。


タカは自信にあふれていて決めた目標は絶対諦めないタチだが、反面他のことが見えなくなったり油断や隙が多いのが短所だ。

セルリアンに襲われたか鈴を狙う組織が人質作戦に出たか・・・


今にもあいつの叫び声が・・・


「クソが!」

怒りに任せて足元の石をけとばす。


「スズ。」

「どうしたの・・・?」

「一緒に探そう。管理センターにも連絡するぞ。最悪の事態だけは回避するんだ。」

「分かったわ。タカが居なくなるのは絶対にイヤ。それにヒデに恩返しもしたい。

どこまでも着いていくわ。」


まっすぐにこっちを見つめてくる。


「力が抜けるからやめろ!とにかく行くぞ!!」


ーーーーーー


※やせぎすの男の声は子安武人さんでお願いします。

※あと過激すぎる性描写や胸糞悪い展開は嫌いなのでそこは安心してください。

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