本編

18 襲い来る襲撃者再び

ああ、蒸し暑い・・・


閉め切った地下室で俺は目を覚ました。

今が朝なのか夜なのかも分からない。


とりあえず体を起こすが意識が朦朧としている。

目覚めは良いほうだとは思っているが諸事情あって昨晩は全く眠れなかったのだ。

ちなみにその犯人は俺の横で寝息を立てている。


そう、犯人はスズだ。

犯罪的なまでの美少女が1m圏内で寝ているという事実に脳みそと下半身が追いつかず結果的に睡眠不足になってしまった。

童貞殺しである。


ていうか寝顔が天使だ。

こうやってまじまじと見つめたのは森で初めて会った時以来だが、いつ見ても怖いくらい目鼻立ちが整っている。

動物の時クチバシだった黄色い前髪は汗で額に張り付いている。

血色の良い薄い唇からは暖かい吐息が漏れ出す。


グレイトスーパーデリシャスエロかわいい犯したい


飼育員になる前の学生の自分が目の前にいたら、俺は音を置き去りにした拳で殴り飛ばされていただろう。

俺は今世界一幸せだと思う。


とは言っても未だLOVEの方の好きの感情は湧くことはないようだ。

反応するのは下半身だけなので取り返しは着く。

こんな可愛い子を仕事と割り切って付き合うのは地獄である。


・・・まあ俺は学生の時に一度も女子に惚れたりしなかったのでそのへんは心配なさそうだ。


ーーーーーー


二人の男が図書館へ続く道を歩いていた。

博士と助手が作ったなぞなぞ迷路に苦戦しイライラが募っていく。


「ったくなんだこりゃ・・・動物の生態なんぞ知ったことか。

はやくこんなクソ暑い森から抜け出すぞ!!」


タンクトップ姿の大男が迷路の壁に蹴りを入れるが頑丈に絡まったツタが衝撃を吸収する。


「おめえ汗くせぇよ。少しは冷静になれ。

・・・あそこの職員に聞いてみるか?」


痩せぎすの男が迷路の壁を手入れしている職員を指差す。


「バカ俺らの存在を余計に広めてどうする。ちゃっちゃとコレで奴を気絶させて鈴だけ奪って帰りゃ終わりだ。」


男がポケットに手を突っ込んで広げると黒光りする何かがちらりと見えた。


「テーザー銃とは随分やる気だな。

俺は金には興味はねぇ。だから鈴の強奪は手伝うが手柄は皆お前のもんだ。」

「言ってる意味がいまいち分からん。お前は何しに来たんだ?」

「鈴が奪えたらお前に渡すからさっさと逃げて報酬を受け取れ。

俺は残って持ち主のフレンズを味わうのさ。

飼育員も抵抗するだろうし色々と罪が重なって長期間豚箱に入って組織の手から安全に逃げられる。俺は失うものはないが死ぬのはゴメンだからな。

服役が終わったら足を洗ってドロンさ。

お前も金が稼げるからって組織にこれ以上留まらないほうがいいぜ。」


大男が大きなため息を付いた。


「こういうことを言える立場じゃないがお前ってクズの鑑なのかもしれないな。」

「そんなに褒めるなよ。さあ、行くぞ。ヒヒヒw」


二人の男は気味の悪い笑い声を上げながら迷路を抜けていった。


ーーーーーー


図書館の隣の炊事場では助手とハクトウワシが朝食を作らされていた。


「ケモノ使いが荒いのです。どうして長の私に料理をさせるのでしょうか。」

「じゃんけんに負けたからでしょう・・・というかあなたは昨日私達がカレー作ってる前で博士と一緒にふんぞり返ってたんだから少しは手伝いなさい。」

「助手のワシてき部分が目覚めてしまいそうなのです。しゃーなのです。」


文句を言いつつも野菜をザクザク切り刻んでいく。

いつも三人で自炊しているハクトウワシはその倍近い速さで作業を進めている。

負けじと助手も作業速度を上げる。


「うん・・・グッド!でも無理して怪我するのはNGよ。」

「そんなこと常識・・・ああああ痛いのです!」


助手が包丁を投げ出して指を咥えた。

鋭い痛みに顔をしかめる。


「hahahahahahahaha!!! HOLY SHIT !!

HOOOOOLY SHIT!!!!!!! hahahahahahahahahaha!!!!!!」


ーーーーーー


「こうやって大人数で食べるのもいいものなのです。助手。」

「そうですね。準備は大変でしたが。」

「助手の指・・・包帯巻いてるけど大丈夫?」

「切っちゃったのか。まだ初心者だな。」

「なっ・・・お前らは黙っているのです。昨晩楽しんだんだから今は食べるのに集中して栄養をつけるのです。」


ちなみに俺とスズはついさっき解放されたばかりだ。

閉じ込めた理由を聞くと「好奇心」だそうだ。

俺たちはフレンズ一人の好奇心によって監禁されたらしい。


そして暑い地下室に閉じ込められていたので食欲が無く箸が進まない。

何故か大量のフライドポテトがあったので何本か口にしたっきりだ。


「そういえばスズ。お前は不思議な力を持っていると聞いたのですが本当なのですか?気になるのでもう一晩閉じ込めて研究したいのです。」

「地下室は二度とイヤよ。それに私じゃなくて・・・これよ。」


首輪を外して助手の前で鈴を揺らしてみせた。

錆びているのでカラカラと乾いた音が鳴る。


「なんだかすごい輝きの塊なのです。博士。」

「それに不思議な模様なのです。しかしどうして錆びているのですか?磨かないとバチあたりなのです。」

「それは私も思ったわ。だけど磨いても絶対に落ちないの。」

「これはあくまでけものプラズムで出来てるというだけなんだ。金属じゃないから錆びることはない。錆は見た目だけだよ。」


今まで何度かスズの許す範囲で洗ったり叩いたりしてみたが何をやってもびくともしなかった。

ただ一つジャパリ図書館で変態中年をふっとばした時は錆が取れてピカピカになっていた。

一応博士と助手に説明すると少し目を輝かせた後俯いて黙り込んでしまった。

シーサーに授けられた紋章の事も残さずだ。


「守護けものの紋章・・・不思議な力・・・強い輝き・・・」

「何か思い当たることはあるのか?」

「はっきりとは思い出せませんが何かあった気がするのです。」


この二人に会えて良かったと思った。

スズも興味があるようでテーブルの上に身を乗り出している。

物知りなフレンズのおかげでだんだん真実に近づいている。

まだスズが隠していることもあるが。


朝食を食べ終わると二人はせわしなく図書館の中を飛び回りながら本を読み漁っていた。


「これも違うのです・・・これも・・・助手ぅぅぅ!!もどかしいのです!」

「喉の途中ぐらいまでは出かかっているのですが・・・」


一時間ほど飛び回った後「ジャパリ図書館に行ってくるのです!」とだけ言い残し飛び去っていってしまった。

しかし熱心になって調べてくれるのは嬉しいが二人が帰ってくるまで軟禁状態となることを意味している。


その隙にスカイインパルスも逃げるように帰ってしまった。




・・・暑い。とても暑い。

キョウシュウはパークの中でも南の方に位置しているので平均気温が高めだ。

この図書館は壁がぶっ壊れているので日差しが直に入ってくる。


「スズ大丈夫・・・あっ。」


スズは顔を真赤にして図書館の端っこで横たわっていた。

運動した後かと思うぐらい息が上がっている。

このままだと熱中症まっしぐらだ。


「悪く思うなよ。お前のためだ。」

「い・・・いや、私は大丈夫だから・・・あっ!」


無理して起き上がろうとしたので床に押し倒した。

変な意味は無きにしもあらず。

そのまま上着を脱がせて靴ももぎ取るとタイツをスルスルっと脱がせていく。


ちなみにタイツを脱がせたのはちゃんと根拠がある。

鳥は汗をかけないので呼吸する時に気道から水分を蒸発させるか、羽毛の生えていない足の指に血液を大量に送り外気に触れさせることで体温を下げる。

人間の姿になった今は足の指はどうだか知らんが全体を空気に触れさせたほうが良さそうだったのでこの選択をした。


「こんな時に何を考えて・・・あっ!」押し倒し

「信じてくれ。変なことはしない。今日は気温が高いからここで夜まで安静にしてるんだ。」

「うん・・・よく分からないけどありがとう。」

「なんかよそよそしいからやめてくれよ。無言で抱きしめてくれれば十分だ。」


なにか汚いものを見るような目で睨まれてしまった。

前髪を撫でると再び優しい目つきに戻る。


「ん・・・落ち着くわ。」

「そうだろそうだろ?なんか本能的と言うか体が覚えてたんだ。こうすればスズは落ち着くってな。」

「・・・気持ち悪い。」


そんな事を言いつつ顔は微笑んでいる。

今度は頭の羽根の根本を撫で回す。

なんとも嬉しそうな顔だ。

堕ちたな(確信


その時。


「あ゛あ゛あ!!!クッソあっちいなゴルア!!」

突如叫び声とも怒鳴り声ともとれる野太い声が図書館に響いた。


少しパニック気味のスズを落ち着かせてから入口の方を見ると、一人の大男がかなり苛ついた様子で汗を拭いていた。

横も縦もすごい。あと汗臭い。


「こんにちは。何かお困りですか?」

博士と助手はここでいろいろな人の悩みを聞いてきたらしいので一応それっぽいことを言ってみる。


「なんも困ってねえわ。それより冷房は付かねえのか?

・・・壁に大穴開いてんじゃねえかクソが。建物直す金もねえのか?」

「・・・博士と助手がこれを好んでるだけなんです。」


初対面の相手にひどい態度だ。

絶対友だちになりたくないタイプの奴だ。

コンビニでバイトしている時のこういうやつほど殺意の湧く物はない。

さっさと出ていって欲しい。


「ん・・・お前、この図書館の職員か?」

「私はただの飼育員です。

この場所はアフリカオオコノハズクとワシミミズクのフレンズに管理されてますね。今は不在ですが。」

「ほう・・・そうか・・・」


男の口元が怪しく歪む。

なんなんだコイツは・・・?


男が図書館の中をぐるりと見回す。

そして一点に釘付けになった。スズだ。

今は地下室にあった扇風機を引っ張り出して涼ませている。


「あいつの担当か?」

「そうです。シロオオタカのスズです。

今は暑さでやられているのであそこで休憩させてます。」


男は既にスズに向かって歩きはじめていた。

体格差がすごすぎて止められない。

ついに横たわって休憩しているスズの前まで来てしまった。

スズの全身をじろじろと舐め回すように見つめている。


「ヒデ・・・この人、だれ?」


スズが首を上げて少し怯えた目で男を見つめる。


「まだ動いちゃダメだ。寝てろ。

この人は・・・まあ・・・お客さんだ。」

「へへ・・・なかなか美人じゃねえか。タイツと上着をこんなとこに放りやがってまさか事後か?ヒヒヒ・・・」

「じ・・・ご・・・?」

「すいませんがお客さん。今休憩させてるんです。話なら明日でも出来ますから今はお引取り願いませんか?お願いします。」


男が俺を睨みつける。

肌が痛くなりそうなほどに空気がピリピリしている。


「ハッ・・・つまんねえ奴だ。とりあえずお前は邪魔だから・・・

下がってろや!」


男が勢いよく俺を突き飛ばした。

ギリギリで受け身をとったが少し頭を打ってしまった。


「ヒデ!なんでそんな・・・」


更に男がスズの足首を掴んで押さえつける。


「警告・・・ですよ。今すぐ離れてください。通報しますよ!」


男は俺の言葉など聞こえないような態度でさらにスズの足を掴む手に力を込める。

熱中症気味で体力が落ちているスズは抵抗しようとして体を起こすが力が入らず崩れ落ちる。


なんと男はもう片方の手を首にかけた。

さらに足を掴んでいた手をポケットに突っ込むとテーザー銃を取り出しスズの顔面の前でちらつかせた。

見た目がほぼ拳銃なので見せるだけでも効果がある。


「おい!やめ・・」

「邪魔だ眠ってろ。」


顔面に蹴りを入れられ再び地面に叩きつけられる。

俺はそのまま地面に倒れたまま動かなくなった。


「ヒ・・ヒデ・・・!お願いやめて・・・!」

「こんな簡単に終わっちまうとはなあ!!??バカがいちいち失敗するから難しいのかと思ってたがこれで俺は大金持ちさ・・・!

雑魚な飼育員と都合よく弱ってたお前のおかげでなぁ!!」

「ああ・・・はな・・・し・・・て・・・!ヒ・・・デ・・・」


スズの首を絞める手に更に力を入れる。


「お前あの飼育員がそんなに大切なんだな・・・!鈴を奪ったあとで仲良くあの世に送ってやろうか!!??ハハハ!!!!!」

「い・・・や・・・」


鈴がぼんやりと光るが何も起こらない。

紋章がいつもより明るく輝き、表面の錆が無くなっていた。


「妙に熱いし手に変な感じがしやがる。悪いがここらでお別れだ。

起きた時飼育員と一緒に居れると良いな。」


男がテーザー銃をお腹に押し付ける。


「じゃあな。」


「この・・・クソ外道がっ!!」


俺は痛む頭と震える足を押さえつけながら、完全に油断していた男の後頭部に畳んだパイプ椅子を叩き込んだ。

声にならない声を上げて男が倒れ込む。

もう一発頭に叩き込んであの世に送るのもいいが正当防衛どころじゃなくなるので二発目と三発目は手首に叩き込んだ。


「こ・・・この・・・クソが・・・」

「まだ喋れるのか。これで最後だ。」


四発目と五発目は膝に。

体を伸ばしてからすべての筋肉を使って勢いをつけ、振り下ろす。


「ぐああっ!!がああああ・・・・・」


膝蓋骨が完全に逝ったようだ。

こいつは良いとしてスズがやばい。


「おい・・・おい!」


急いでスズの元へ駆け寄る。

足元に柔らかい感触があるような気がするが知ったもんか。

口元に手をかざすとちゃんと息をしている。


「良かった・・・!」

「私が・・・死ぬわけ・・・ないでしょ・・・」

「分かったから寝て!ちゃんと寝て!」押し倒し


今なら・・・誰も見てないよね?

もしかしたら息うまく出来てないかもしれないしぃ・・・

俺が手伝ってあげないとダメ・・・だよね?


俺の中の衆議院と参議院は満場一致でその作戦を可決させた。


さあ、公布と施行一気にやっちゃいますよ~!


目を手で塞いでからゆっくりと顔を近づけていく。

あとちょっと・・・

あとちょっと・・・


「嫌な予感がしたから帰ってきたら・・・これは何なの?」

「図書館で飼育員が狩りごっことは世も末なのです。」


そこには動かなくなった痩せぎすの男を担いでいるタカと、大量の本を抱えた博士が立っていた。


「来るんじゃねえええええええええぇ!!」


そう叫んだが最後、俺も限界を迎えたのか意識を失って倒れてしまった。




ーーーーーー


余談だがその日は40度を超えていたらしい。

サンドスターの管理下での異常気象ということで少しだけ話題になった。





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