20 大捜索

「オオタカさんが!?」


管理センターのオフィスにミライさんの声が響き渡る。

何があったんだ、と複数の職員が集まってきた。


けもの病院の前から急いでここまでひとっ飛びし、事務所に着くなりミライさんに怒号ともよべる状況報告をした。

そうして今に至る。


「オオタカさんはかなり戦闘には慣れています。

可能性としては変異セルリアンか・・・自然災害か・・・

最悪のパターンとしては人に・・・」


ミライさんは少し考え込んだ後、屈み込んで足元のラッキービーストに声をかけた。


「ラッキー。今すぐ図書館周辺とその周りの森にラッキービーストを送れるだけ送って隅々までパトロールしてちょうだい。予備用のラッキー50体も全部解禁よ。

災害レベル2よ。お願い。」


「通信中・・・通信中・・・接続完了。

ブロックV-10カラ1010マデノ範囲ニ特別警戒巡回命令。

現地ノラッキービーストニ発令完了。

予備倉庫開放完了。

ジャパリパーク災害レベルヲ「レベル2」ニ引キ上ゲマシタ。」


ラッキービーストが耳と目を赤色に点滅させながら、ミライさんの命令を的確に各地のラッキービーストに伝える。

この個体は最高権限を持っているらしい。


命令を終えるとミライさんが立ち上がり俺の方に向き直った。


「現在変異セルリアンの目撃情報は一切ありません。

そしてスズさんを狙う組織が同じタカでありいつも近くにいるオオタカさんを狙ったという可能性も捨てきれません。

とにかくすべての可能性を考慮した上で管理センターが全力を尽くして探し出してみせます!」


ミライさんの目は自信に満ち溢れていた。

いつもの変態とはうって変わってできる女・・・という感じだ。


すぐにデスクに着くと片手でどこかに電話をかけながらもう片方の手でタイピングし始めた。


「サンキュー・・・ミライ。信じてるわ。私達も頑張ってきっと見つけ出す。

きっとタカは帰ってくるわ。絶対によ。」

「一日で見つけ出してやるさ!フレンズに遅れを取るなよ管理センター。」

「タカ・・・早く帰ってきて・・・お願い!」


三人の声を聞いたミライさんが一瞬こっちを向いて微笑んだ。


「みんな・・・行こう。一分一秒でも早く。」

「ええ。」「ああ。」「うん。」


そして四人で管理センターを出た。



すると圧巻の光景が広がっていた。


どこを見ても鳥のフレンズしかいない。

ちらほらと鳥じゃ無いフレンズも混ざっているがほとんど鳥の子だ。


するとその集団の真中から白と茶色の毛皮を着たフレンズが現れた。


「博士!助手!どうやってこんな呼んだんだ!?」

「良いですか?話をする前にまず行動開始なのです。もうひとりの男も一緒に消えた以上悪い人間が絡んでる確率が大いにあるので。」

「悪い人間の好きにはさせないのです。」


やべぇ・・・迫力がヤベェ。

管理センターの窓からも何事かと職員が顔を出している。

すると博士が叫んだ。


「目の利くフレンズは上空から、それ以外の飛べるフレンズは木々の間を慎重に飛ぶのです!鳥じゃないフレンズは枝を飛び移るなりするのです!頭を使うですよ!

スカイレースの経験を活かしてさあ!行くのです!!」


一斉にフレンズ達が飛び立って行く。

砂埃が巻き起こり木々の葉がざわめいた。

地面が虹色に染まりそうなほどサンドスターが散らばっていく。


「ヒデ。私達も行くわよ。」

「了解だ。さあ行くぞ!!」


ぐんっと引っ張られる感覚とともにぐんぐん上昇していく。

夜風が顔に当たって少し痛いがそれどころではない。

あっという間に雲の近くまで到達した。

今度はそこからグライドしていく。

タカは水平飛行で80kmでるので今もそのくらいの速さだと思う。


「砂漠を越えるのはイヤよ・・・なにか良いルートは無いかしら。」

「飛行経路でお困りのようですね?」


声が聞こえたほうを見るとおっと・・・

俺の真下をかなりの美人が飛んでいるじゃないか。

少し和風な白と黒と基調としたコートとスカートを履いていて、腰までとどく白いロングヘアと黒いマフラーを風にたなびかせている。

頭には2つの立派な白い羽。


その美人は少し胸を張る姿勢をしたかと思うと一瞬で俺とスズの横にぴったり付いた。


改めて顔を見るとやはり美人だった。

赤い前髪が特徴的。

この子は・・・タンチョウ。


「始めましてタンチョウさん。なにか良いルートがあるんですか?」

「わたくしの事をご存知だったのですね。以後お見知りおきを。

それはそうと砂漠を避けるルートは2つございます。」


美人で好みな子は下調べして頭に叩き込んである。

逃げられると思うなよ。


「そうなの!?早く教えて教えて!」


超清楚で敬語もっりもりのタンチョウさんと話した直後にスズと話すとなんだか安心したような寂しいような気持ちになる。

いつか一応敬語も教えておこうかな。


「一つ目は森の上を通るルート。2つ目は平原の上を通るルート。

平原は近道ですが海風や陸風が入り乱れ乱気流が大量に発生しております。

森は安全ですが少々遠回りとなっております。

わたくしは飛ぶのは不得手なもので森の上を選ばせていただきます。」


確かにタンチョウだと乱気流を越えることは難しそうだ。

しかしスズにはタカに教えてもらったウイングタックがある。


「俺達は平原から向かいます。ありがとうございましたタンチョウさん。」

「乱気流ならウイングタックね!一気に行くわよ!」

「おいおい・・・まだ平原はずっと先だ。」

「フフフ、仲睦まじいご様子で。それではわたくしはこの辺で・・・」


タンチョウが体をひねるとあっという間に離れていき姿が見えなくなった。


「さあ、教えてもらったことだし行くか。」

「今思ったんだけど砂漠突っ切るのは・・・」

「ダメだ。砂漠の夜は寒すぎる。目的地に着く前に体力を奪われたら元も子もないだろ。いくらタカが大切でもそれじゃ俺たちが迷惑かけちまう。」

「タカ・・・どこで何をしてるの・・・」


スズの俺の脇腹を掴む力が少し弱まった。

しかしどうして急にタカが居なくなったんだろうか。


セルリアンに輝きを奪われてどこかで転がってるか。


既にに動物に戻ってしまったのか。


事故にあってどこかで血を流しているのか。


悪い人間に囲まれて・・・


考えるだけで頭が痛くなる。

あいつの顔が脳裏に鮮明に浮かび上がった。


思えば初めてタカに会ったのはスズに会ったのより10年以上も前の事だ。

育ての母がまだ物心付いてすぐの俺をパークに連れて行った時初めて会ったフレンズ。

それから今まで毎年パークの年パスを買って行きまくってきた。


その過程でおきつね一家やスカイインパルスのメンバーとも仲を深めていった。

月に二回以上は確実にあいつの笑顔を見てたし、小学生ぐらいの時は毎回のように怒られていた記憶がある。


最早あいつは俺の姉のようなものだったのかもしれない。


どうか元気で見つかってほしい。



さっきからスズの飛ぶスピードが少しづつ落ちてきている。

乱気流も無いのに上がったり下がったりして揺れがすごく、酔いそうだ。

まさかと思いスズの手を触るとものすごく熱い。


「おい・・・おい?眠いのか?」

「いやぁ、だいじょぉぶらからぁ、はやくたかをぉ、みつけないとぉ、わたしがんばるぅ・・・zzz」


こんな時に・・・

しかし図書館で大男と争ったのが昼前で病院に着いたのが10時過ぎだ。

つまり病院の前から図書館まで行こうとするとスズの足じゃなくて羽で少なくとも翌日の朝までは余裕でかかってしまう。

それに乱気流も越えなくてはならないため、今は寝かせる事にした。


「今は寝とけ。他のフレンズと管理センターの力を信じよう。」

「・・・たかぁ、あいたいよぉ・・・」


閉じたスズの目元が月明かりを一瞬反射して輝いた。

俺は完全に落ちたスズを背中に担いで、夜の森を走り出した。


ーーーーーー


夜が終わり朝日が登っていく。

サンドスター火山の頂上の結晶に光を乱反射させながら登っていく太陽が徐々にパークを照らしていく。


しかしとても気持ちの良い朝と呼べるものではなかった。


「ほぅら、起きな。」

「むぐ!うう、うう・・・」


男が起きて早々タカの唇を奪う。

強制的に目覚めさせられて意識が朦朧とし、なんとか目を開けるがうめき声が出るだけだった。


「もっと抵抗とかしないと好きにされちゃうよ?いいのかなぁ!?」


男がスカートの中に手を突っ込んで下腹部をまさぐる。

触ったのは腰の辺りだけだったが流石に危機感を覚え完全に脳が覚醒する。


冗談では済まないラインに踏み込んでくる・・・!


「それだけはやめて!お願いだから!」

「流石にまずいって事は分かるよねぇ!でも時間の問題さ・・・!

そうだね、余計な事した事が分かったり既に居場所の目星が付けられてるって分かったらその瞬間に純潔とおさらばさ・・・!ヒャヒャヒャ!」


汗をあまりかかないはずのタカの額に冷や汗が大量に浮かぶ。

ただひたすら恐ろしい。


今すぐ羽を飛ばして頸動脈など太い血管を切断するのもありだがそれではこの男が絶命するまでに少し時間がかかる。

そして縛られている以上手足が全く動かせないので男が首にナイフを刺したりすれば自分も道連れにされてしまう。


「そんなに首元を睨んで何を考えてるのかは知らないけどぉ・・・

頸動脈を切られれば俺くらいの体格なら意識を失うまで10数秒。

最後までは無理だけど純潔を奪うだけなら間に合う。しかも助け出されるまで動けない君は血まみれの俺の死体と一つになったままなのさ!!


つまり!


君は!


もう俺の物も同然なのさ・・・!!!フハハハ!!!!!


むさいスナイパーや殺し屋に殺されるのは嫌だけど君と一緒なら!


こんなに嬉しいことはないさ・・・!!」


男が気味の悪い笑顔でタカの下顎を掴んで引き寄せる。

三日月型に開いた口から舌を出して再び口づけする。

今度は舌をうねうねと動かして口の中を舐め回しながらタカの舌を絡め取る。


「んむぅ!?むぐ・・・ふん!」

「えべっ・・・!!いった・・・」


舌を噛まれ口の端から血を流しながら尚、不敵な笑みを浮かべ続ける。


「ハハッ、やってくれたねえ!そういう気なら俺もお返ししてあげないと借りが残っちゃうよねぇ!?」


サンドスターで修復したシャツを破り、今度は戸惑うこと無く下着すらもちぎり取った。

一糸纏わぬとまでは行かないが、上半身には無残に破れたシャツの一部と下着の一部しか残っていない。


その布きれに、もはや意味など無かった。


首を曲げようとするが男に押さえつけられる。胸を隠そうとして腕を閉じようとするが縛られて動かない。

意を決して野生解放するが結果は同じだった。


「嘘・・・嫌だ!嫌だ!離して!!!」


縛られた所が擦れて血が滲み出す。


サンドスターと体力がどんどん消費されていき、代わりに乳酸が溜まっていく。




10分ほど経っただろうか。


ついにピクリとも動かなくなってしまった。


タイツが破れて露出した親指の先から汗がポタリと垂れた音を合図に。


飢えたケモノが無慈悲に襲いかかった。


ーーーーーー


今森の中を自動車をゆうに超える速度で駆け抜けている。

だんだん夜が明け朝日も見えてきた。


「二人担いでいる感じがしませんね~。スズさんとっても軽いです。」


スズを担いでいる俺を更に担いで走るモウコノウマがそんな事を口走る。

実はスズが落ちてしばらくは一人で走っていたのだが、偶然森の中でセルリアンと戦っていたモウコノウマと鉢合わせ、事情を話したらこうなった。


「走るの得意じゃないとか言ってたけどめちゃくちゃ速いじゃないか。」

「ええ~。他のウマさんは競争すると私でも全然歯がたたないんですよ。私は速さより力仕事が専門なんですからね~」


モウコノウマでも追いつかないって・・・


「よいしょっ!」

「「うわっ!?」」


突如目を覚ましたスズがモウコノウマごと持ち上げて飛び上がった。


「私はこのままじゃお荷物になってしまうのでここらへんで。」


モウコノウマが身を翻してスズの手から逃れると、地面に忍者っぽいポーズを取りながら綺麗に着地した。


礼を言うと手を振ってくれた。

再びすごい速さで走り始める。


「今の人、誰?」

「モウコノウマだ。お前が寝てる間森を走ってくれた。おかげでほら。」


目の前にはどこまでも続く平原が広がっている。


「この平原を超えたら少し海の上に出る。海は小さいからそこまで来れば一瞬だ。」

「分かった。じゃあ、しっかり捕まっててね。遅れを取り戻すわよ。」

「いつでもOKだ。」


スズが目に野生の輝きを灯すと、先ほどと比べ物にならない速さで飛び出した。


ーーーーーー


「陸が見えてきたわ!図書館も見える!」

「え・・・どこ・・・」


平原の乱気流はとてもひどいものだった。

しかし何とか乗り切り今は海の上を飛んでいる。

スズの言葉通りすぐに陸に到着した。


「スズ!ヒデ!やっと来たわね。あなた達は三番目よ。

早く捜索に移りましょう。」


ハクトウワシだ。

しかし目の下に隈が出来て若干元気がない。

俺は職員用の鞄からパウチに入った携帯サンドスターを3つ取り出した。

もしもの時のため五個ほど常備することになっている。


「これ。ハヤブサにも分けてやれ。あとスズも。」


ハクトウワシが自分の分を飲み干すと礼を言ってからどこかに飛んでいった。


俺もスズに雲の近くまで上昇させてから捜索を始めた。

スズはこんな高さから裸眼で落ち葉の様子まで見えているらしいが俺は持ってきた双眼鏡で地面をくまなく見渡す。

どこを見ても木・・・木・・・木・・・


もしタカが人間に閉じ込められているとしたら木のうろか小屋だろう。

木にできたフレンズの住処にいるかも知れない。



その時携帯が緊急事態を知らせる着信音を鳴らした。

パーク内職員への一斉送信だ。


「その音嫌いだわ。」

「そりゃそうだろう。緊急だから耳に残る音じゃないと。」


そして携帯を耳に当てた。

ミライさんのかなり焦った声が聞こえてくる。


「重大・・・重大です!重大な事実です!!

キョウシュウ地方のジャパリ図書館にて複数の血痕が発見されました。

精密検査をした所・・・


その血痕はいずれもオオタカさんのものである事が判明いたしました!!」


嘘だろ。


「ねえ・・・とても怖い顔よ。どうしたの?」

「図書館でタカの血が見つかったんだ!!」

「血って!?そんな!嘘でしょ!?」


スズの顔から血の気が引いていく。


しかし図書館で血が見つかったということは、どこかに出ていって事故にあった可能性が無くなったという事だ。


残る可能性は大きく分けて2つ。


タカが人に切りつけられて連れ去られたか。

人と一緒にセルリアンに襲われたか。



再び携帯が緊急の着信音を鳴らした。

とんでもない声量でミライさんが叫び出した。

その声色には焦りしか感じられない。



「続報ですっ!


図書館でオオタカさんと同じく行方不明になった方が争ったような足跡が発見されました。

先程の血痕はここで見つかっています。

何故か足跡の最後は整った歩幅でオオタカさんの斜め後ろに人がピッタリとくっついた状態で見つかっています。


更に!!!!!


図書館の壁にオオタカさんの羽が不自然な形で刺さっているのが見つかりました!


細かく3つ、幅をとって3つ、また細かく3つです!!


これはモールス信号で!!


S!!!!!!!!!


O!!!!!!!!!


S!!!!!!!!!


くぁwせdrftgyふじこlp!!!!!!!!!!!!!」




最後の方は音割れしすぎて聞こえなかったが。


可能性は一つに絞られた。



タカは人間に連れ去られてしまった!

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