7 鳥の都
ゆきやまちほーに寄ってから一週間。
今はバードガーデンに来ている。
「なあ、スズ。・・・もう下ろしてくれっ!」
バードガーデンは標高が高いのでスズに掴んでもらって空路を進んでいるのだが
人に見られたくないからと、いつまでも物凄い高度を飛び続けている。
「もっとやってと言いたいところだけど、そろそろ到着よ。
渡り鳥達が使うターミナルを目指しましょう。スズ、高度を下げて。」
少し嫌そうに高度を下げていく。
下の方で誰かが両手を振っているのが見えてきた。
そしてあっというまに地上に着いた。
さっきまで手を振っていたピンク色の鳥のフレンズが近づいてくる。
「私、オオフラミンゴよ。飼育員さんと後ろに隠れてる白い子、よろしくね。」
「オオフラミンゴのフレンズか。始めまして。」
スズは俺の後ろに隠れて様子をうかがっている。
「それとオオタカ!いきなり飛んでくるなんて聞いてないわよ!他のフレンズとぶつかったらどうするの?」」
「今は飛んでくる子居ないじゃない。細かい事は別にいいでしょう?」
「それがいるのよ。ほら、後ろ。・・・危ないっ!」
タカが振り向いた瞬間にベレー帽とマフラーを付けた白いフレンズが胴体着陸してきた。
「キョクアジサシ!?」
キョクアジサシは地面の上を転がりながら近くの池に頭から着水した。
「ミーは南の果てから無休でベリーベリータイヤーデース・・・」
その後のオオフラミンゴの提案で、今は孔雀茶屋とか言う所に向かっている。
「バードガーデンってああいうフレンズばっかりなの・・・?」
着いた瞬間に胴体着陸の洗礼を受けたらこの反応でも仕方ないだろう。
「まあどのフレンズもこんな感じだし・・・ちょっと運が悪かったね。」
「なんだかもう疲れたわ。さっさと孔雀茶屋行きましょう。」
しばらく茶屋に続く森の中を歩いているとスズが急に立ち止まった。
「ねぇ・・・なんだかすごく嫌な感じがする・・・」
いつになく深刻な表情だ。
「どうした?スズ。人か?」
「いえ・・・わからない。」
「しょうがないわね。私が先を見てくるわ。ったくあとちょっとで茶屋に着くってのにもう・・・」
タカが面倒臭そうに飛び上がって進行方向を見渡す。
すると顔を真っ青にして降りてきた。
「どうしたんだ!?」
「セルリアンよ!それも数が多い。クジャクとシロクジャクが囲まれてるわ。」
「なんだと!?よく気付いたなスズ!さあ、助けに行くぞ!俺が囮になる!一匹ぐらいはやれるさ!」
「信じていいのねヒデ。それじゃあ行くわよスズ。クールに行きましょ。」
「わかったわ。」
最近セルリアンが少なくなってきたがまさかこんな所でエンカウントするとは。
しばらく走ると確かにセルリアンの群れが見えてきた。
色とりどりの微生物のような姿をしたセルリアン達クジャク達二人にすり寄る。
あんなに可愛い子を失う訳にはいかない!
「セルリアァァン!!こっちだ!!」
力いっぱい叫ぶとセルリアン達の一部がこっちに気づき押し寄せてきた。
「スズ!タカ!今だ!」
「「観念しなさい!!」」
上空からタカとスズが急降下しながらセルリアンの石を狙って腕を振るう。
そのまま一気に10体ほどが倒され弾け飛んでいく。
「やるじゃないかスズ!」
「ヒデ!後ろ!」
完全に油断していた。
対セルリアン警棒を抜いてそのまま後ろにいるセルリアンに叩きつける。
「・・・!?・・・!!(怒)」
クソ。石を逃した。
いや、逃したのではない。
後ろのコイツは石が無い!
「もたもたしてるんじゃないわよ!」
すんでのところでタカに助けられた。
「サンキュータカ! 残った一匹はどうしようか。」
「だめよ・・・石が見つからないわ。」
万策尽きたかと思ったその時。
「やられてばかりではありませんよ!」「覚悟なさい!」
どこからか青と白の2つの影が飛び出しセルリアンに襲いかかった。
挟み撃ちされたセルリアンは乾いた音を立てて弾け飛んだ。
「危ない所を助けていただき本当にありがとうございます。私はクジャク。そこで孔雀茶屋という茶屋をやっているのでそこで礼をさせて下さい。」
「私はシロクジャク。危機を救っていただきありがとうございます。どうか礼をさせていただけませんか?」
目的地であるクジャク茶屋の店主、クジャクとシロクジャクだった
少々過激な出会いだったがなんとか孔雀茶屋に辿り着くことが出来た。
「改めて助けていただきありがとうございました。こちら、クジャク特製ブレンドのお茶でございます。」
「こちらシロクジャク特製ブレンドのお茶でございます。」
虹色のとてもお茶とは言えない液体とこれまた真っ白のお茶とは言えない液体がテーブルの上に置かれた。
「ところでオオタカ。そこの飼育員さんの隣にいる真っ白な・・・あなたによく似ていますがこの子は?」
「この子はシロオオタカのフレンズ、スズよ。隣りにいるのが飼育員のヒデ。」
「よろしくね?ほら、スズも。」
「よ、よろしく。」
「スズさんは恥ずかしがり屋なのですか?
ところであなたもとても美しい羽なのね。」
「ありがとう・・・シロクジャク。」
「同じ純白の羽を持つ者として仲良くしましょう?
それではちょっと失礼しますよ・・・!よいしょ。」
「シロクジャク!?ここは店内ですよ!?」
変な闘争心を燃やしたのか、シロクジャクが急に飾り羽を完全に展開した。
所々に目玉模様のある巨大な純白の飾り羽。
なんというか、ただ美しい。
「ふわぁ・・・!すごい!きれい!」
スズが予想以上に食いついた。
「少し二人で話しましょうか。」
姿も名前も似た二人はすぐに意気投合し、しばらく話した後三人で茶屋を後にした。
変な色のお茶は普通の味でした。
「シロクジャクと楽しそうだったね。もう大分平気になってきたでしょ?」
「そうね。私も友だちが増えてとっても嬉しい。」
「じゃあ次行くわよ。えっと・・・」
「ねえねえ、そこのフレンズさん。」
急に後ろから声が聞こえた。
振り返ると黒ずくめのスーツ姿の痩せ細った男が立っていた。
「うわ!温泉のときの傷だらけヤクザ!
いや、何でもない。」
「俺はヤクザじゃないぞ。スズの飼育員のヒデだ。」
俺は小さい頃からパークで暴れまわってるせいで体が傷に覆われている。
キタキツネを助けた時の傷、引っ掻かれた傷、フレンズを変なやつから助けたら切りつけられた傷、崖から落ちた傷・・・などなど。
そのせいでたまにそっちの道の人と間違えられなくもない。
「で、どうしたんですか?いきなり人をヤクザ呼ばわりして・・・それでフレンズっていうのはタカか?スズか?」
「ええっと、そっちの白い方。スズっていうのか。ちょーっとお話があるんですよ・・・ ヒヒヒッw」
なんというかいかにも怪しい嫌な奴って感じだ。
「何か変なことでも考えてるの?ガリガリ。」
タカも相当警戒している。
「ヒヒヒwガリガリ呼ばわりとは舐められたもんだ。
まあいい、スズちゃん。その首の鈴キレイだね?近くに来てもっと見せてよ。」
「いやよ・・・!消えて!」
いつもと明らかに様子が違うスズ。
最初会った時のような怯えた目をしている。
「ごめんなガリガリ。スズが嫌がってるからもう辞めてくれないか?実はこの子人が苦手で克服のためにパークを回ってる途中なんだ。
だから今だけは引いてくれないか?」
このガリガリに会ってから急にスズの様子がおかしくなったし、こいつは確実にやばい奴だ。これ以上話したくない。
余計な争いは起こさずさっさと退避したいのだが・・・
「ヒヒヒwそういうわけにもいかないんだ。ちょっとだけでいいから・・・」
「しゃーしぃうるさい・・・!そろそろしつこいわよ!」
「もう良い、行くぞ。スズ。逃げるが勝ちだ。」
「二度と顔を見せないで!」
「あ・・・飛ぶなんて卑怯な・・・!」
ガリガリを無視しどんどんと高度を上げていく。
どんどんとガリガリの姿が小さくなっていく。
「あいつなんだったんだ・・・?」
「最近素行の悪い客が増えてるみたいね。セルリアンが少なくなったと思ったら次は人が敵。なんだかとっても嫌な予感がするわ。」
「もういやよ・・・!何なの?」
スズの俺の脇腹を掴む力が少し強くなる。
せっかく良いところまで行ったのにあのガリガリのせいでスズが元気をなくしてしまった。
二度と奴を近づかせたくない。
奴の情報を管理センターに送る。
「ねえ、スズ!」
横を飛んでいるタカが急に声を上げる。
「どうしたの?」
「あなた・・・オウギワシとヘビクイワシに鍛えてもらったらどう?
あなた戦う時ほぼ切り裂くか羽を飛ばすぐらいしかしてないでしょ?
それじゃサンドスターの無駄遣いよ。
体を鍛えればさっきのガリガリみたいなのに絡まれた時、必要以上に傷つけずに捕まえられるわ。
ストレスも解消できるでしょ?
せっかくガーデンに来たんだし二人の所に寄って行きましょう。」
オウギワシとヘビクイワシは元動物でもかなり破格な強さを誇っているだけにフレンズ化した後は更に強さに磨きがかかっている。
拳と蹴りでお互い全く違うものを磨きあっているらしい。
「え、えええー・・・」
「そうだよ!それなら精神面も強くなれると思うんだ。寄っていこう。」
「ええ・・・ええー・・・」
二人の修行場は大きな滝の近くらしい。
さっそく滝に向かい出発する。
「ねえ、なにか聞こえない?」
「なんか・・・ドンドン響いてくるような気がするな。」
「二人がおっぱじめただけよ。気にしないで。」
「いやどんだけ強いんだよ。」
滝壺の横に降り立つとさっきより鮮明に地響きが聞こえてくる。
「一体何をしてるんだ?」
「今にわかるわよ。ほら・・・」
いきなり目の前にある大木の幹にセルリアンがぶつかって砕け散った。
「ひぃっ!?」
「一体何をしてるんだ・・・?」
「来たわ。」
「「え?」」
「うおおおらああぁぁぁあ!!!逃すかあああ!!!」
「はあああああああああぁぁぁ!!」
二人のフレンズがものすごいスピードで、さきほどセルリアンがぶつかって砕けた大木の幹に突っ込んできた。
片方は拳を、もう片方は足を大木に叩きつける。
ものすごい轟音が辺りの森に響き渡った。
「もう砕けていたか。残念だ。」
「これでは勝負が付かないでありましょう。」
「ところで二人共。木がやばいんだけど。」
「え?」「ん?」
腕利きのフレンズ二人に全力で殴られ蹴られた大木は、攻撃された場所がボロボロになっている。
そこからだんだんと傾いて・・・
「あっ・・・」
「・・・」
「私何も見てないわ。」
「時すでに遅しだな。」
「もう遅いわね。」
バキバキメキメキと大きな音を立てながら大木が倒壊し、滝壺へと吸い込まれていった。
「・・・以上演舞だ。」「これは実にいい結果です。記録しましょう。」
「二人共木が大きく育つのに何年かかるか知ってる?」
「すまん。」「申し訳ございません。」
ここにはまともに登場できるフレンズはいないのだろうか。
一応スズのことを話すと快く承諾してくれた。
「そういうことなら任せてくれ。猛禽フレンズは羽の能力にかまけてる奴が多いからな。
私はオウギワシ。スズの拳を鍛えてやるぞ。さあかかってこいスズ。
ヘビクイワシはそこで見てるんだ。」
「了解ですオウギワシ。」
「ええ!?嘘でしょ?本当にやるの?大木をぶっ壊すようなフレンズよ!?」
「加減してくれるから大丈夫だって。俺とタカは見てるからほら、オウギワシが待ってるぞ。」
「ねえ・・・!あそこ・・・!」
唐突にタカが小声で囁いてきた。
「また1km先の話か?」
「違うの。あそこの木の下。」
指差す方を見てみるとなんとガリガリがいた。
「なあ、オウギワシ。悪いが修行は今日以外で頼めるか?ちょっと変なやつに追われてるんだ。」
するとオウギワシが間髪入れずに
「よし!じゃあその変なやつをいい感じにぶっ倒してこい!」
「それ良いんじゃないかしら!私もあいつ嫌いよ!クールにやって来なさい!」
「何かをされたわけじゃないしさすがにひどいんじゃ?」
「一応来園客ですし暴力は犯罪でございましょう?」
「構わん!私が許可するぞ!思い切り拳を振るってこい!」
「嫌よ!もうあいつの顔見たくないわ!」
オウギワシに頼んだのは間違いだった。
もうしーらね。
「おーい!変なやつ!こっちだ!」
オウギワシが叫ぶ。
ガリガリが目を血走らせて走ってきた。
「やっと見せてくれる気になったか?」
「ちょ・・・なんで呼んじゃうの!?さっきせっかく逃げたのに!もう!」
「ヒヒヒw動くなよ?絶対動くなよ?」
ガリガリがじりじりとスズに歩み寄る。
スズは野生解放し、肌がピリピリするほどの殺意を放っている。
よくみるとガリガリの手にはスタンガンが握られていた。
どうしてここまで執着するのかわからんがスズの身が危険だ。
「まずい!逃げろスズ!スタンガンだ!」
「ヒヒヒwもう遅い。もうやけくそだ。お前だけでも・・・」
しかし次の瞬間スズの拳がガリガリの顔面にクリーンヒット。
するかと思ったが掠っただけであった。
「ほうほう?なかなかやるでねえかスズちゃん。しかし・・・」
スタンガンをバチバチ言わせながらスズに近づけていく。
攻撃直後のスズは避けられない。
感電してしまうかと思ったその時。
キョクアジサシがガリガリの背中に突っ込んできた。
「お客サーンベリベリソーリー。まだミータイヤーデース・・・」
ガリガリは吹っ飛びそのまま動かなくなった。
地面の上でキョクアジサシと一緒に伸びている。
「はぁ・・・はぁ・・・もうなんなの!変な人ばっかり・・・!」
伸びているガリガリの後頭部に蹴りを入れた。
「なんかすっきりしたわ。」
「えっと・・・とりあえず連絡はしたからコイツをセンターに持っていこうか。」
その後オウギワシとヘビクイワシに別れを告げバードガーデンを去った。
運んでいる途中でガリガリが目を覚ましたが、雲の上まで高度を上げたら一瞬で黙った。
センターに身柄を届けるとすぐに取り調べが始まったのだがこの男は経歴が不詳で名前すら分からなかった。
何が目的なのかも吐くことはなく、結局傷害未遂として警察に身柄を拘束された。
「今日ごめんな。キョクアジサシが突っ込んでこなかったらやばかった。もし助けがなかったら俺は・・・」
「変なこと言うんじゃないわよヒデ!奴は運悪くフレンズに体当たりされた上警察に捕まった、それだけのことよ。もう余計なこと考えなくていいじゃない。」
「なんだか色々とスッキリしたし私は満足よ?シロクジャクとも仲良くなれたし。」
「そうか。それなら良かった。それじゃあ疲れただろうし俺の部屋で添い寝だ。タカもだ。やっと修理が終わったらしいんだ。」
「落としていい?」
「すいませんでした。」
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