6 雪の宿
今スズとタカと三人でゆきやまちほーに来ている。
スズの事とかがあって最初の目的だったゆきやまちほーの訪問が叶ってなかったからね。
それにキタキツネとならスズとも仲良くなれそうな気がする。
「とても寒いわ。ここ冷え過ぎじゃない?それにさっきから全く客もフレンズも見ない。この先に温泉宿が本当にあるの?」
「え?そうかしら?あんまり寒さは感じないけど・・・?
それにしても旅館遠くないかしら?」
「スズは寒いとこの動物だったから平気なんだね。
タカだって結構立派な羽毛生えてるし大丈夫じゃない?宿はこの先のはずだよ。もうすぐ着くから辛抱だよ!」
とは言ってみるが自信はない。おかしいな。
「タカ!なんか臭いわ!」
「え!?私・・・!?・・・たしかに臭いわね。でも私じゃないわよ。」
「お!これは硫黄の臭いだよ。つまり温泉が近いってことさ。もうすぐだよ!」
「そうなの!?やっと休めるわ・・・!」
「・・・」
タカはシャワー事件があってから俺にだけ口を利いてくれない。
「ねえタカ、ヒデ。何かあったの?」
「何もないわ。」
「実はおれがだな?タカあいたっ!!??ったく物騒な・・・」
背中に刺さった羽を抜きながらタカの方を見ると、目を合わせずに静かに中指を立てている。
小高い丘のような所を越えると建物が見えた。
「着いたぞ!」
雪山に佇む小さな温泉宿。
キツネの姉妹が女将をやっていることで有名で、毎日多くの客が訪れている。
創業時は温泉ぐらいしか無かったらしく、今の姿は改装工事を経た後のものである。
入り口ののれんを三人でくぐる。
「おいでませ極楽浄土~」
アカギツネが出迎えてくれた。
「きっしゃああぁぁぁ・・・!!!」
野生解放して威嚇するスズ。
「ひいっ!」
元動物的にもスズに威嚇されるのは随分応えたらしく、アカギツネが腰を抜かしてへたり込む。
「あああ・・・!ごめんねアカギツネ!・・こらスズ!謝って!」
「しゃぁぁ・・・!!はっ! ごめんなさい。つい・・・」
「い、いいんです・・・いいんです・・・ふふふふ・・・」
「ごめんね。難しい子なんだ。本当にごめんね?」
手を取って立たせてあげた。
「うわあぁ・・・ヒデが今度はアカギツネに手をだしてるよぉ・・・」
「ヒデ!それは許さないわ!今すぐ離しなさい!」
この声はキタキツネとギンギツネ。
「待ってギンキタ。私今白い子に脅かされて腰を抜かしたのをヒデが助けてくれたの。」
「未だにその呼び方慣れないわ・・・」
そんなこんなでようやく部屋に案内された。
部屋にはギンキタアカギツネとタカとスズと俺の六人が集合した。
「・・・というわけで。飼育員になりました。改めてよろしくねギンキタ。あとアカギツネ。」
「あなた本当に飼育員になったのね!・・・さっきから私のことを睨んでくるタカの隣の子がその・・・スズちゃん?」
「スズちゃん怖い・・・でもかわいそうだよぉ。ボクみたいに髪の毛ボッサボサにされちゃうんだよ?気をつけてねスズちゃん。」
「うう・・・まだちょっと怖いですね・・・」
さっきからだるそうに俺に嫌味を言ってくるこの子がキタキツネ。
金色の腰まで届くロングヘアーのキツネのフレンズ。
ボクっ娘&ゲーマーでとても甘えん坊だ。
パークで1,2を争う人気者で、けもクイーンとかいうのにも選ばれたらしい。
そんな彼女を俺は子供の時からおもちゃにしているため俺にだけ少し冷たい。
そして隣りにいるのがギンギツネ。
キタキツネの黒変種で、顔が双子どころじゃないレベルで似ている。
キタキツネのお世話係を努めているが、互いに信頼しあっていてとても尊い。
ギンギツネの後ろに隠れて震えているのがアカギツネ。
キタキツネの原種で、最近この宿に見習いとしてやって来たらしい。
やはり見た目が色以外同じである。
「ほら、スズ。」
「えっと、私はシロオオタカのスズよ。さっきはアカギツネ脅かしちゃってごめんなさい。悪気は無いの・・・」
「私は!この!クソ変態の!ヘルパーを!してる!タカよ!」
「私はギンギツネ。キタキツネと一緒にここの経営を任されてるの。」
「ボクはキタキツネ。タカ、ヒデにまた何かされたんだね?今度被害者の会作って訴えよう?」
「私はアカギツネ。さっきは驚いたけど見習いとして頑張るよ。」
「最後に俺はヒデ。ご存知ちょっと変態だけど飼育員として頑張ります!」
・・・殺意を感じる。
「ド変態です。ありがとうございました。それと俺は風呂行ってくる。タカ、のzひでぶ!!!」
俺は刺さった羽を抜きながら脱衣所へ向かった。
ーーー
「やっと変なのが行ったわね。久しぶり、キツネさん。」
「久しぶりね、タカ。そうだ、私達もお風呂行きましょ。キタキツネ行くわよ。」
「ええ~~やぁだあぁ~~」
「もうっ・・・じゃあここに残ってる?」
「うん。ボクここに残る。スズちゃんといるんだ。」
「ええっ・・・!?」
さらに二人抜けて行き、キタキツネとアカギツネとスズが残った。
アカギツネも接客のためにどこかへ向かった。
「ねえスズちゃん。ヒデと一緒にいてどう?」
早速知らないフレンズに話しかけられて少し戸惑うスズ。
「え、えっと・・・まあ・・・悪くはない、かしら。」
「ええ・・・ボクはヒデに会う度にメチャクチャにされるんだ。
しかも毎年、年に何回も。髪の毛はぐしゃぐしゃになるしせっかく綺麗にした尻尾もベチャベチャにされるんだ。最悪だよぉ。」
「それは気の毒ね。だけど確かに立派な尻尾ね。ちょっと触っていいかしら?」
「うん。いいよ。ボクもスズちゃんの尾羽触っていい?」
「いいわよ。」
「ふわふわ・・・暖かいわねキタキツネ。なんとなくヒデの気持わかるわ。」
「スズちゃんの尾羽もモフモフだね・・・眠いぃ・・・」
キタキツネが尾羽の上に寝っ転がった。
「スズちゃん。どうしてさっきアカギツネを驚かしたりしたの?」
「なんか人とかフレンズを見るととても嫌な感じがして・・・怖くて怖くてしょうがないの・・・!」
「そういえばキミってフレンズになりたてなんだよね?動物のときの記憶はあるの?ボクちょっと聞いてみたいな!
もしかしたら何か分かるかも?探偵げえむとかだとこうやって事件が解決するんだよ!」
寝そべりながら話を進めるキタキツネ。
いつもやっているゲームだと大体こんな感じで聞けば事件は解決する。
しかし思ったよりもスズの心の傷は大きいようだ。
「ごめん、キタキツネ。ちょっと思い出したくないの・・・!
とにかく嫌なの・・・!もう・・・!絶対にイヤ・・・!」
「あわ・・・ボク変なこと聞いちゃったよね・・・」
スズがキタキツネの尻尾に更に強く抱きつく。
そして何かを思い出したように顔を上げると、すぐに尻尾に顔を埋めた。
体が小刻みに震えている。
首の鈴がカラカラと乾いた音を立てる。
キタキツネは自分の尻尾が濡れていくのを感じた。
「あわ・・・!あわわわ!え、えっと、えっと!
ゲ、ゲーム!スズちゃんゲームしよう?」
「ゲーム・・・?」
ーーー
~男湯 露天風呂~
5、6人ほどの客が温泉に浸かって疲れを癒やしていた。
その中でガリガリの男とボサボサのあごひげの男のいかにも怪しい二人組が何やら言い争っていた。
「おい、まだなのか。そろそろ上からの圧力もあるし、さっさと終わらせてくれないと困るんだが。」
ひげの男は何かに焦っているようだった。
「そう急かさないでくれや。フレンズになって飼育員の元で暮らし始めたことまでは掴んだ。そして・・・今この温泉に来ているんだぜ?尾行させた甲斐があるってもんだ。ヒヒヒw」
ガリガリの男は比較的冷静だ。悪知恵が得意そうな雰囲気を出している。
「ならさっさと終わらせればいいだろう。適当に脅せ。もちろん法に触れん程度にな。」
「それが出来たらもうやってるわアホ。常に飼育員やフレンズに囲まれてるから出来ないんだ。そんなに言うならお前がやるか?」
「クソが。後どれくらいかかるんだ?状態によっちゃ報酬も変わってくるからな。丁寧にやってもらわんと困る。」
「1、2日で充分だ。ヒヒヒw 一人にすりゃこっちのもんさ。余裕がありゃ追加報酬で本体もお持ち帰りだ。めでたく兵士共のごちそうさ。デカイ金も入るだろう。」
ガリガリは不敵な笑みを浮かべる。
すると二人の前に男が一人入ってきた。
その男は全身傷に覆われていて物凄い威圧感を放っている。
胸に一文字に入る傷が特に生々しい。
「お、おいなんだアイツは・・・ス、スカウトするか?」
「勝手にやっとけや・・・!俺はごめんだからな・・・!」
ーーー
~宿の地下 ゲームコーナー~
スズはキタキツネと二人で一階から降りてきた。
このゲームコーナーは、温泉宿を改装する時にキタキツネが懇願して増設した場所である。
最初は反対していたギンギツネだったが、今では宿泊客に溢れるこの場所を作ってくれたキタキツネに頭が上がらないらしい。
「こゃあん、やっぱりお客さん多いなぁ」
「きしゃっ・・・!しゃあああ・・・!」
「ひっ!」
威嚇した宿泊客が飛び上がって逃げていった。
「ああっ・・・だめだよ、スズちゃん。あの人プレイ中だったのに・・・」
「はっ・・・!ごめんなさい、キタキツネ。でもここ本当に人が多いのね。」
「そうだね。あっ!スズちゃん、これやろうよ。」
そう言ってキタキツネが何かのゲームの筐体を指さした。
「これは何なの?なんか動いてるけど・・・」
「レースげえむだよ。このハンドルと下にある板を足で踏んだりして画面の中のキャラクターを動かすんだよ。ボクこれ格闘ゲームの次に好きなんだよ。」
「レース・・・?よく分からないけどやってみるわ。」
スズが筐体に付いたイスに腰掛けると隣にキタキツネも腰掛けた。
「ん・・・?白い・・・鳥のフレンズさん?」
なんとスズの隣には既に宿泊客と思われる女性が座っており、しかも声をかけてきた。
「きしゃっ・・・!ぐるるるるる・・・・!」
威嚇するスズだがその女性は物ともしない。
逆にどんどん話しかけてくる。
「ええっ、どうしたの?フレンズさん。あ、ねえねえ。君は何のフレンズなの?」
「わ、私は・・・シロオオタカの、スズだけど・・・」
「へぇ。いい名前なんだね。スズって名前は・・・その首の鈴が元だよね?」
「そうよ。私の飼育員のヒデがその場で付けてくれた・・・ちょっと気持ち悪いけど、多分、いい人。」
「きっとすごくいい人なんだよ。スズちゃんのことが大好きなんだと思うよ。」
なんでこの人はこんなに話しかけてくるんだろう。
それにしても大好き・・・か。ヒデは実際どう思ってるんだろうか。
「ねえ~早くげえむしようよぉ~」
「あ、キタキツネちゃんごめんね。ほら、スズちゃん、一緒にやろう?」
「わ、わかったわ。
「えぇ~。2対1はずるいよ~」
「キタキツネはゲームが得意なんでしょ?それならハンデが無いとダメだと思うわ。」
その後その女性とチームを組んでキタキツネに挑んだ。
色々なアイテムを使っても避けられたり弾かれたりする。
結局何回やってもキタキツネが一位になった。
「っな!もう一回やるわよお姉さん!今度は負けないよキタキツネ!」
「ムフ。何回やってもムダだよ。」
「さっきと変わって楽しそうで何よりだわ。」
そこでスズが我に帰った。
なんだかこんな人と話して、一緒にゲームして、そんな自分が許せないような気がした。
でも、楽しい。この人と一緒に居るとなんだか楽しい。
信じても・・・いいよね?
「さあ、お姉さん!もう一回よ!」
「行くよスズちゃん!一緒にキタキツネちゃんを倒そう!」
「ボクは絶対に負けないよ!」
そして数分後。
「あわわっ!待って~ぅぅぅブースト!
うあああ~追いつけない~」
「
「さあ、スズちゃん。ゴールだよ!」
テレレテッテッテテレレッテテー↑
連戦の末、ついにキタキツネに勝ったようだった。
「やった!ついに一位よ!お姉さんありがとう!」
「やったねスズちゃん!ついに勝てたね!」
「あああああん・・・!やだぁぁぁ!いやだよぉぉ!やああだあああ!」
((キタキツネかわいい))
ーーー
~夜 温泉宿 食堂~
「それでキタキツネがもう一回やってって言ったからやったら・・・」
「う、うわあぁぁぁボクもういやだああ」
「また勝ったのか・・・じゃあ罰ゲームでキタキツネは今夜俺と添い寝だな。」
隣のキタキツネが味噌汁に七味唐辛子をぶち込んできた。
「キタキツネ!その薬味はみんなのよ!やめなさい!」
「じゃあギンギツネがヒデと添い寝する?」
「ハハハ、いいわね。場所は用意するわよ。頑張ってねギンギツネ。朝になったら全身の毛が逆立ってヤマアラシのフレンズになってるわ。」
「変な冗談は辞めなさいタカ!キタキツネもスズちゃんもアカギツネも!
今すぐ笑うのを辞めなさい!」
夕飯の後すぐに部屋に向かった。
アカギツネが布団を敷いてくれたらしく、部屋には3つの布団が並べられている。
「じゃあもう寝るか。スズ、タカ。どれにする?
もちろん俺は真ん中で、好きな時にお前らの布団を行き来するがな!」
するとタカが真ん中の布団を押入れに突っ込んだ。
「・・・俺は猫型ラッキービーストか?」
結局押し入れで寝ることになった。
数時間後、なぜか急に目が覚めた。時計を見ると1時。
気になることがあるので押し入れから這い出てスズの寝る布団に侵入する。
「ん・・・?うわ、ヒデ!?」
「シッ・・・食べたりとかじゃなくて・・・今日やけに嬉しそうだったね?
しかも急に知らない女の人と共闘までして・・・キタキツネに何か言われたりしたのか?」
「別にそういうのは無いわ。
だけど三人でゲームしてたらなんか許せてきたの。それだけよ。」
「そうか。ここに来てよかったよ。スズ。お前をキタキツネに会わせてよかった。」
言い終わった時既にスズは眠りに落ちていた。
面倒だし押し入れに戻らなくて良いよね。
翌朝朝食を済ませた後すぐにゆきやまちほーを後にした。
お礼としてキタキツネを10分ぐらいモフり続けたら引っ掻かれた。
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