8 わすれもの
ゆきやまちほーとバードガーデンを回り、今は俺の寮にいる。
タカとスズの喧嘩で壊れた壁や窓などはキレイに直されていた。
「なんかいろいろあったけど良かっただろ?人には慣れたっしょ?」
スズは朝早く来てくれてまた家具の設置の手伝いをしてくれた。
正直ここまで来ればもういいような気がするんだけど。
「もうイヤよ・・・どうせガリガリみたいなのがいるんでしょう!?」
「まあそれはちょっと否定はできないけど、スズなら返り討ちにすれば大丈夫でしょ?」
「まだあんな奴らと関われっていうの!?」
首輪の鈴をギュッと握りしめる。
そういえばガリガリが狙ってたけどこの鈴って何か特別な物なのだろうか。
血眼になった挙げ句、スタンガンまで持ち出す。相当重要な物なんだろう。
「ねえ、ちょっと聞きたいんだけどさ。」
「何?」
「動物の時の柄でも無いのにフレンズ化した時具現化するし、変なやつが狙いに来るし・・・
その鈴ってどういう物なの?詳しく教えてくれないかな?」
下を向いて黙り込む。
やはり何かあるようだ。
「どうか言えることは全部言って欲しい。俺はスズを守りたいんだ。」
「残念だけどそれは出来ないわ。」
今までになくはっきりとした言動のスズ。
何かある。絶対なにかある。
「そうか。・・そうだ。今日はちょっと話がしたいんだ。
動物だったときの話でもダメかな?
宿でキタキツネに聞かれて断ったんでしょ?」
「なんでそんなに聞いてくるの・・・?」
「単純に、気になる。それに一人で悩んでるなら俺に言ってほしいから。
悩むだけならまだマシだけどガリガリみたいな変なやつが絡んできてるんだ。
もしも力になれるなら。もしも支えになれるなら。
人としてできることは少ないけど頑張ってスズを救いたいんだよ。
だから、お願いだ。」
「・・・なんだろう。とっても懐かしい。
そんなような事を前にも聞いたことがある気がするわ。」
「教えてくれても・・・良いよね?お願い。」
「うん・・・」
そしてぎこちなくも語り始めた。
はっきり言って俺には何があったのかも何を思ってるのかも読めない。
だけどとても悲しい顔だ。
俺を切り裂いたときやガリガリに絡まれたときのどれとも違う。
「私はある山の木の上で生まれたの。もちろんどこかは覚えていないわ。ここからとってもとっても遠い場所。
二人・・・いや二匹と言うべきかしら。兄弟がいたわ。
でも二匹とも大きくなる前に亡くなったの。」
動物は生まれたときから生存競争が始まっている。兄弟がいた場合他の誰よりも親から餌を貰えなければ体が大きくなれない。
体の小さいものに思いやりなど無く、大きいものに押しのけられ、餌を奪われ、いつかは死んでしまう。
「生き残った私は親鳥にたくさん餌を貰いながら大きくなっていったわ。
そして忘れもしない大雨のあの日。
私は人に急にさらわれたの。」
「そして私はその日からその人のもとで暮らし始めたの。
食べ物はネズミとか小鳥とかじゃなくてとってもおいしい物だった。何故か狩りの仕方も教えてくれて、その人と一緒にたくさん遊んでたくさん狩りをした。
だけどある日、親が私の所に来たの。
そして思い出したわ。人の所にいちゃいけないってことを。」
「まあ自然の掟ってやつかな?」
「それで親がなんと私をさらった人に襲いかかったの。
そしたら・・・そしたら・・・!その人が!私の親を銃で撃ったの!」
言葉が出ない。
「それで・・・!許せなくて私も・・・!襲いかかって・・・!
そしたら同じように・・・!」
「クソが。歯向かったら一瞬でソレか。」
「それで何とか助かって、私ボロボロになりながらなんとか飛んだけど途中で気を失って落ちたの。
もうダメかと思った。せっかく生き残って育ててもらったのにこんな所で人に殺されて申し訳ないと思った。」
残酷すぎる。
正直聞いていられない。
人嫌いはきっとこのせいなんだろう。
「だけど・・・ある人が・・・」
ピンポーン
「タカ!?」
「あなたたち・・・まだ朝の六時よ?
まさか昨晩は・・・」
「そんなわけ無いだろ。あ、それともタカ。望むなら今からお前とアイダッ」
そういう本人も六時に来るのは何なんだ。
人間社会なら非常識でしか無い行為だ。
というか良い所だったのに!!!
「ったく痛いな。で、今日はなんなんだ?スケジュール的にはオフだぞ。」
ミライさんの決めたパーク回りのスケジュールによると今日は何故か空白になっている。
「今日ぐらいゆっくりしてもいいわよね。」
「私も疲れたわ。今日は寝かせて頂戴。」
「じゃあなんで俺の部屋に来たんだ。」
あれ?もしややる気になってくれた?それはとても喜ばしい。
「忘れてたわ!はい、届け物。あなたの実家かららしいわ。」
タカが大きな段ボールを運んできて俺の前に乱暴に置いた。
「ったく変に重いわねこれ。さっさと開けなさいヒデ。」
「言われなくてもそうするよ。何が入ってるんだろうね?」
そしてダンボールを開けると手紙が入っていた。
「ヒデへ
いいてんき
へやの そうじは
あとまわし
きんじょを おさんぽ
ちょっと あせばむ
なつふく おくるわね はは」
吹き出すタカとスズ。
この文章なんだか既視感がある気がする。
母はたまにこういうところがあるのがとても良い。
さらにダンボールの中身を見ると夏服・・・変な柄のシャツが入っていた。
あとはビーフジャーキーやドライフルーツなどの乾燥食品が入っている。
よく見ると一番下に何かが見える。
本だ。
取り出してみてみると表紙にデカデカとサーバルキャットのフレンズの顔が載っていて
上に大きな文字で
「フレンズのきもち」
再び吹き出すタカとスズ。
もう辞めて下さい。
「ヒデのお母さんって変な人なのね。」
「なんというか良い意味でも悪い意味でもとってもそっくりよ。会うときは注意してないと尾羽根がボサボサになるわ。」
とりあえずこの大量の物資を片付けなければならないので二人に頼んでみた。
スズは承諾してくれたが
「なんでそんな事私に頼むのよ!スズもこのままじゃヒデの奴隷よ!」
そうかそうか。
「じゃあ・・・これでも同じことが言えるかな!」
ビーフジャーキーを取り出してタカの口に突っ込む。
「終わったらこれくれるのよね?」
作業はすぐに終わったのでお礼にタカとスズにビーフジャーキーを渡すと喜んで食べ始めた。
なんというかさすが猛禽だ。肉を食うスピードがおかしい。
食べ終わるとタカは横になってしまった。
「食ってすぐ寝ると牛のフレンズになるぞ。フリシアンちゃんだぞ。」
「あーそれは願ったり叶ったりね。」
今見ると何とは言わないけどタカって結構控えめだしそういうとこやっぱり憧れるのだろうか。
「どこを見てるのかしら。」
「あー。察したよ。頑張って牛のフレンズ目指してね。」
「ヒデってデリカシー無いのね。そうよね。ひじき頭のさくらんぼ坊やにはわからないのよね。」
「そうかそうか・・・そんなこと言っちゃって、知らないぞ?」
そう言い無言でスズを押し倒す。
「えっ・・・ヒデ?」
静寂。
俺はゆっくりと顔を近づけていく。
「ヒデ!?何する気!?ちょ・・・あわわわわ・・・!見てられないわ!」
タカは目を手で覆ってそっぽを向く。
その間もどんどん顔を近づける。
「え・・・え・・・」
そしてついに俺の口があと1センチという所まで来た。
スズの耳に。
そしてタカに聞こえぬようささやく。
「ちょっと強引でごめんよ。今しかないと思って。
タカに邪魔されて中断したけどさっきの話の続き、後でまたしてくれる?
鈴のことも聞いてないしまだ続きがあるんだよね?」
「ごめんなさい。ちょっともうそういう気分じゃ無くなっちゃったわ。
またパークを回って・・・いつかその時が来たらきっと話したい。」
「そっか。分かったよ。でもいつか絶対に教えてな?」
「・・・うん。」
「よし。」
そして顔をあげるといつの間にか目の前にタカがいた。
不敵すぎる笑みを浮かべて。
「・・・全部聞こえてるわよ。さっきの話も丸聞こえだったわ。外で聞いてたのよ。」
「プライバシーもクソも無いんだな。」
「タカ・・・聞いてたの・・・」
「でもタカなら別にいいよねスズ。いつも一緒にいるんだし。」
「まあ・・・これくらいならいいわ・・・」
「それにしてもさっきはよく言ったわ。
私もこれ以上その事を追求したりはしないけど、話せるようになったら私でもヒデでもいいからちゃんと話すのよ?いつでも待ってるわ。」
「分かったわ。ありがとうタカ。なんだか安心した。」
「良かった、良かった。」
なんだか飼育員の仕事が取られちゃいそうだ。
スズが人に慣れた後もタカとずっと一緒にいて欲しい。
きっと最高の二人になれるさ。
すると電話が鳴った。
ミライさんからだ。
内容は伝えず早急に来て欲しい、とのことだった。
なんでみんな俺のことを邪魔するんだよ。
だが電話ですら内容を伝えないほどだ。
相当大事なことなんだろう。
「じゃあ行ってくるよ。愛してるよ。ジュテーム。ウォーアイニー。」ムチュッ(投げキッス
「さっさと行きなさいよ気持ち悪い。」
「・・・ウエッ!」
初めてスズに引かれた気がする。
ーーーーーー
とある繁華街。
ボサボサのあごひげの男が人気のない裏路地を歩いていく。
そこら中に煙草の吸殻や空き缶などが放置されていてネズミが走り回っている。
男は急に歩みを止め、ボロボロのドアを開け建物の中に入っていった。
潰れた商店の裏口のようだ。
階段を登ると電気が付いている部屋が見えてくる。
「帰ったぞ。」
部屋には数人ほどの男たちが集まって酒を飲んでいるようだった。
「おい、ヒゲ。あの骨野郎が捕まったんだってな?上がお怒りだぜ?ヒヒヒw」
「知ったことか。急に特攻していきやがったんだ。バカを見捨てただけだ。」
「で?どうするんだ?さっさと取り戻さなきゃ間に合わなくなって・・・」
首に手刀をトントンと当てながら不敵な笑みを浮かべる。
「第一ボスは何を考えてあんな所に・・・もっといい場所はあっただろうに。
そのせいでしわ寄せが来やがる!」
ボロボロの机を殴りつける。
「まあその・・・奴を捕まえりゃ良いわけだしな?
一人捕まえりゃ芋づる式に他の奴らも捕まえて楽しいことができるぜ?」
「お前は体にしか興味が無いのか?それに余計なことをして騒ぎを大きくしてみろ。骨野郎とおんなじ道を辿るだけだ。
「ああ・・・もう動いたらしいな。始末屋・・・」
部屋にいる全員の背筋が凍りつく。
「とりあえずお前、次行って来いや。」
ーーーーーー
「スズ・・・? スズ!」
「ひゃっ!?何よいきなり。何なのタカ。」
「それはこっちのセリフよ。どうしてさっきからネコみたいにダンボールに頭突っ込んで遊んでるのかしら?
・・・ていうか見てるこっちが恥ずかしいからさっさと頭出しなさい。」
タカに咎められるまでずっとヒデの母親が送ってきたダンボールに頭を突っ込んでいたスズはやっと頭を上げて答えた。
声から察するに頭を突っ込んだまま寝ていたようだ。
「なんだか懐かしい匂いがしたから頭を突っ込んだらつい・・・」
「そのプロセスがおかしすぎるわ。本当にシロオオタカなの?
白猫とかじゃないわよね。もしかしてさっきヒデに迫られてああ~~すきぃ~
ヒデのお家の匂い良いにおい~、なんて・・・キャー!」
「それは無いわね。絶対に無いわ。」
「あ、そうなのね。」
「ねえスズ。一つ気になるの。変な意味は無しでなんだけど。
・・・ヒデのことって好きなの?」
困惑した。
そんな事考えたことがない。
パークで初めて会って助けてくれて、その後危害を加えたのに怒るどころか自分を受け入れてくれた。
だけど人間・・・というだけで脳裏に浮かぶ忌まわしい過去の記憶。
「嫌いじゃ・・・無いって感じかしら?」
「そう。それだけ聞ければもう充分よ。」
そう言うなりタカは横になる。
そして再びダンボール箱に顔を突っ込むスズ。
・・・この懐かしさは何なんだろう。
なにか忘れていた大切な事を思い出しそうな気がする。
喉のあたりまでは来ている気がするのだ。
だがやはり忌まわしい記憶が邪魔をする。
再び寝そうになったその時。
何か手に違和感を感じて手元を見ると小さな巾着袋が落ちていた。
「わすれもの」と書いてある。
「何なんだろう・・・開けてもいいわよね?」
巾着袋を開けると中には白い羽のかけらのようなものが入っている。
手を入れても指が引っかかってらちが明かないので袋を逆向きにすると
その羽根がはらはらと地面に落ちた。
見つからない。
その時、その羽根はスズが踏んでしまっていただけなのだが。
スズが立ち上がったときにはその羽根は消えていた。
ーーーーーー
ダンボールに顔を突っ込んだまま寝落ちしたスズ。
短い夢を見ていた。
傷ついた動物の姿の自分が人間に追われていた。
銃を何発も何発も撃ってくる。
ついに弾に当たってしまい地面に落ちてしまった。
そこに近づいてくる人の影。
そして・・・
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