4 行きたくない
事件から二週間ほど経った。
あれから毎日毎日病室でスズと話し続けた。
食べ物の事、人間の世界の事、果ては昔話や逸話まで。
最初は口を利いてくれず無視されることが多かったが、5日ほど経った頃から口も利いてくれるようになった。
そして胸の傷も傷口が綺麗だったので想像以上に早く治り、今日は退院の日だ。
早速俺の部屋に招くことにした。
途中何度もお客さんやフレンズに向かって野生解放しながらも、なんとか寮の俺の部屋まで連れてくることが出来た。
「ほら、ここが俺の・・・家みたいなものかな?」
「なにもないじゃない。」
「ごめんね。まだここに来たばっかりで荷物がダンボールに入ったままなんだ。
良かったら出すのを手伝ってくれないかな?」
「う・・・うん。」
意外とあっさり引き受けてくれた。
やっぱり優しいんだな。
荷物整理を初めて10分ほど経った頃だろうか。
急にスズの手が止まって完全に動かなくなった。
「スズ? どうしたのなにか見つけた?」
近寄ってスズの手に持っているものを見てみると、それは俺の親の写真だった。
「あーそれ俺の母さんの写真だね。しばらく会えなくなるからって持ってきちゃったんだ。」
「なんだか優しそうね。」
「そうでしょそうでしょ?」
「今度はいつ会えるの?」
「忙しい人でも無いし来てと言えば来てくれるかな? でも今は流石に悪いや。
今は春だし、夏休みになったら帰ろうかな。」
スズが俺の母に興味を示すなんて意外だ。
一瞬「人間コノヤロー」みたいな感じでぶち壊されるかと思って身構えたほどなのに。
気がついたら日が暮れていて荷物の整理も終わっていた。
「あー疲れた。腰が痛くなっちゃったよもう。
スズが手伝ってくれたおかげで早く終わったよ。ありがとうね?」
「少しでも償いになれたなら良かったわ。」
「あ・・・まだ気にしてる? もういいってそんなの。
それよりほら、お腹へったでしょ? そろそろ病院食のジャパリまん飽きたし。」
「うん。 お願い。」
「ええっと・・・フレンズ化したから味の濃いものとかでも大丈夫なのかな?
って本人に聞いても分からないよね・・・」
無難に味噌汁と野菜炒めで良いだろう。
早速キッチンに立って作り始めた。
まずは出汁だよね。これは母から教わった特別な製法で作る。
おふくろの味ってやつなんだろうか?
鰹節を大量に鍋に入れていざ上げようとしたその時、真後ろに立っていたスズが興味ありげに料理を見つめてるのに気付いた。
「いい匂い・・・」
「お? センスいいねスズ。」
「ヒデ、何か・・・手伝える事とかある?」
え?くっそ良い子じゃん。
いやめっちゃくちゃ良い子じゃん。こんな優しい妹が欲しかったよ全く。
今からなれよ。
「スズって優しいんだね?」
頬を赤らめるスズ。
「じゃあ野菜を切るの手伝ってくれるかな?」
スズにエプロンを着せて隣に立たせる。
あ゛あ~~可愛すぎない? マジ卍
いつかはだk(殴
「ほら、包丁。こうやって・・・ほら、上手い上手い。」
いつの間にか横に立ってスズの手を持って教えていた。
なんだかこうやってくっついてると・・・なんでもないよ。
「ねえスズ。 なんで人が嫌いなの?」
じゃがいもをぎこちない動きで切っていたスズになにげなく聞いた。
今なら聞ける気がしたからだ。
「それは・・・なんとなく。なんだかとても嫌な感じがするの。」
「そうなんだ。 フレンズも嫌なの?」
「人よりかはまだ大丈夫。 でも見た目がほとんど同じで怖い。」
「ここは良い子ばっかりだからきっとみんな友達になってくれるよ。
明日から助っ人で君に似たタカのフレンズが来てくれることになってるんだ。
ますはその子とから頑張ってみよう? 友達になるんだ。」
「分かった。 頑張ってみるわ。」
「よし。・・・あとその首の鈴は一体何なの?」
スズの名前の由来である大きな鈴付きの首輪。
動物にメガネ~~とかクビワ~~とかが付くとフレンズ化した時にアクセサリとして再現されるらしいが
シロオオタカにはそのような模様も無くそれっぽい別名とかも無い。
入院してる時にミライさんに聞いたがよくわからないと言う。
しかし動物だった頃に強く印象に残ったりしたものならあり得るかも、とのことだった。
もしかしたらこの鈴が心を開くカギになるかも知れない。
「よく覚えていないわ。 だけどなんだかとっても暖かい。」
「へぇ・・・大事なものだったのかな。 いつか分かる日が来るといいね。」
そんな話をしていると料理ができあがった。
ごはんと野菜炒めと味噌汁。
質素of質素。
でも可愛い女の子と二人っきりの夕食ででとてもとても幸せな時間だったよよよ。
ーーーーーー
食べ終わって時計を見ると既に10時を回ってしまっていた。
「スズ。 残念だけど今日はもうお別れなんだ。
明日また来会おうな。」
「わかったわ。また明日ね。」
「うん。また明日。」
玄関まで一緒に行ってドアを開けてあげた。
冷たい夜風が当たって目が覚めていく。
「スズの寝る場所はすぐ近くだから。それじゃあ、おやすみね?」
そして歩き出して今にも飛ぼうとするスズを・・・
腕を掴んで引き止めた。
「何するの!?」
「今日は・・・ここに泊まって一緒に寝ない?」
「い、いやよ・・・! いや・・・いや・・・」
「じゃあなんで引っ掻いて逃げないの?」
「そんな・・・! 引っ掻くなんて! そのせいで今こんな事になってるのに!」
「本当は一人でいるのが寂しいんでしょ?逃げようとすれば逃げられるよ。」
もごもごと口を動かし何かを言おうとしているようだが、図星なようだ。
手の力が抜けた。
「掘り返すようで悪いけど・・・病室で一人にしてって言ってたけどもちろん嘘だったんだよね?」
「・・・そうよ。」
直後スズを思い切り抱きしめる。 俺に抱かれて喜んだフレンズは居なかった。
なぜだか抱きしめた感覚は、前にも感じたような気がした。
さらに強く抱き寄せる。
さらさらの白髪が顔にあたってくすぐったかった。
「スズを絶対に一人にしないよ。 もし誰かがまたスズのことを閉じ込めたり嫌なことをするなら俺はセルリアン用の警棒で殴りに行く。」
「ありがとう・・・! でも・・・ごめんなさい。」
油断していた。スルリと腕の中から抜けて夜空に飛んでいく。
ついに鈴のカラカラ言う音も聞こえなくなった。
その白い後ろ姿が見えなくなってもしばらく夜空を見上げ続けた。
デジャブだ・・・この景色もどこかで見たことがある気がした。
ああっクソ・・・涙が出てきやがる。
下心しかなかったけど、さすがにまだ一緒には寝てくれないようだ。
ーーー
その夜夢を見た。
スズがどこからか俺の所に飛んできた。
その体は傷だらけで、とても弱っている。
家の中まで連れて行って手当をしてやった。
しかし具合が悪くなっていくばかり。
泣きながら死なないで、と抱き締めたが・・・
ーーー
翌朝起きて朝食を済ませると、すぐにスズがやって来たのでジャパリまんを食べさせた。
二人で話したりしているとすぐに日が高くなってきた。
「もうそろそろタカが来るんじゃない? ちょっとうざいけど悪い奴じゃないから安心してよ。」
「同じタカならきっと。 仲良くなってみせるわ。」
「その心意気だね。」
するとインターホンが鳴った。いいタイミングだ。
ドアを開けてやるとまるで我が家のように堂々とタカが入ってきた。
「フフ、ヘルパーのタカが来てやったわ。 覚悟しなさい新人飼育員。」
「ああ、そりゃどうも。」
「あの子が・・・タカなのね?」
「ん・・・?あなたがスズね。始めまして。自分で言うのも変だけど本当に瓜二つね。鏡を見てるようだわ。」
確かにこうやって見ると違いが分からない。
後で
「初めまして・・・」
「ほら、もっと自信を持ちなさい。スズ。」
「う、うん。」
「よし、皆揃ったね?それじゃあ今から三人でパークを回ろう!」
「私はデートの付添人なの!?二人で行ってきなさいよ!」
「え・・ええー・・・」
「ほらほら、二人共!そんな事言わないの!!ミライさんが一生懸命考えてくれたんだよ?
行くべき場所とか会うべきフレンズの一覧まで紙に書いてくれたんだ。
あの人の言う事なら間違いはないよ!」
ーーー
管理センター
「ミライさん。本当にあの新人にシロオオタカを任せても良いんですか?」
「きっとやってくれますよ!私は信じています!
それに三人でパークを回るように言っておきました。きっと帰ってくる頃はキャッキャウフフです!」
「すごいですね、ミライさん。さすがベテラン・・・!」
「まあ適当なんですけどね!回るべき場所も適当に選びました!」
「ええ・・・」
ーーー
「なんかあの人が真面目に考えてくれるとは思わないんだけど。」
「まあまあ良いじゃない。ほら、図書館とか水族館とかたくさんあるよ!!」
「うーん。そこって人がたくさんいるんでしょ?
それなら家にこもってたほうが良いよ・・・」
やはりこうなるか。
「ったくいつまでも甘えてるんじゃないわよスズ!!」
おおっ・・・!言いますね。
「そりゃ行きたいって気持ちはあるけど・・・
また誰かを引っ掻いてしまうかも知れないのが嫌なのよ。もう誰も傷つけたくない。」
「そうやっていつまでも引きこもってるの?ヒデがあなたを連れ出した意味が無いじゃない!それならまた病室に戻ればいい!」
こんな高圧的なタカは初めて見た。
しかしさっきからかなり詰め寄ってるしそろそろヤバイような。
「何よ・・・!私の気持ち分かるの?あなた特に苦労もしてないんでしょう!?
チヤホヤされて育ったケモノに説教されたくないわ!!」
「なん・・・ですって??」
ヤバイ。確実にヤバみを感じる。
「ほら、ほら!色々あるんだから!スズ!今のはまずいよ謝って!!」
ああ・・・最悪だ。
最悪の極みだ。
一触即発の事態・・・!
やべえよやべえよ・・・
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