3 出会い

「シロオオタカって・・・?」



組分けをやり直したら急にこの名前が出てきた。

よく分からないけど白い・・・オオタカ!?

そんな鳥は見たことも聞いたこともない。



「ああ・・・この子になりましたか。」



ミライさんは頭をかきながら自信なさげに答えた。



「え? どういう事です? そもそも今ラッキーに何をしたんです?

 なんで急にこの子になったんですか?」

「うーん。 実は今、フレンズになったばっかり、とか人が苦手、とかの

新人飼育員には任せられないフレンズのデータをラッキーにインポートしたんです。」

「そのシロオオタカって子はどっちなんですか?」

「両方、です。」


「え゛っ」



それしか、言えなかった。

いや無理だから。

無理。

絶対、無理。





「その子は昨日、ここの近くのジャングルでフレンズになりたての状態で弱っている所を保護されたばかりで。

 ついさっき目を覚ましたと知らせが入ったんですが・・・」



一つため息をついた。

何かあったのだろうか。



「入って・・・どうしたんですか?」

「起きた瞬間、ナースのコアラさんに襲いかかったんです。

じゃぱりまんを渡そうと近づいたら野生解放までして引っかかれたみたいで・・・」

「そんな・・・!?」





ん?ちょっと待てよ。


ジャングルで。


弱っている所を。


保護された。


しかも白い。


名前にタカ。





俺の頭の中で歯車の噛み合う音が響き、記憶を元に現状ある一つの可能性を導き出した。

落ち込むミライさんにそっと、話しかける。





「あの・・・ミライさん。」

「はい?」

「そのフレンズって首に鈴がついてて、タカに似てたりしませんか?」





「え゛っ」





「昨日ジャングルに行った時そんな感じのフレンズが上から落ちてきたんで、ラッキーに頼んで病院に送ってあげたんですけど。」

「じゃあ話が早いですね。早速会いに行きましょう。」

「ちょ、ちょっと待ってください!そのフレンズってコアラちゃんを襲ったんですよね!?

 俺が行ったら死ぬやつじゃ・・・?」

「確かに一歩間違えば命が危ないですがドアの所で話をするぐらいならできます。

 あなたは組分けボスに選ばれたパークで唯一人のあの子のパートナー。

 できることはしてみましょう。」



ミライさんは即決だった。

なにやら連絡まで始めている。


俺の命がかかってるのに・・・



「そ、そうですね・・!  えっと、もし俺でもダメだったらどうなるんです?」

「その時は、またパートナーが現れるまで病室で待機という事になるかも知れません。

 なにせここまで人を拒絶するフレンズは初めてのことなので・・・

 他のフレンズとも遊ばせてあげたいですが危害が及ぶとなれば話は別ですから」

「分かりました。 行くだけ行ってみましょう。」

「そうと決まったら早速行きますよ。」



ミライさんに連れられて部屋の外に出た。



ああ・・・災難だ。まさかあの子が問題児でしかも俺のパートナーに適合。

面倒なことになった。いつ殺されるかヒヤヒヤしながら生活するなんて無理だ。

とりあえず話すだけ話してみよう。

せめて友達ぐらいになれれば良いんじゃないかな。




そんな事を思いながら歩いていると、あっという間にそのシロオオタカのいる病室の前まで着いてしまった。


辺りに漂う消毒液の匂いが鼻を刺す。

体中の汗腺が開いて冷や汗が流れるのが感じられた。





「ヒデさん。慎重にドアを開けて話しかけて下さい。危なくなったらすぐ逃げるんですよ。」



俺はあまり戸惑わず、ドアノブにゆっくりと手をかけた。


後ろを見るとギャラリーが発生している。

やめてくれよ・・・





そのままゆっくりとドアノブを回し扉をゆっくりと開けた。


後ろの人達には見えないように、また中からも見えないように俺一人分の隙間だけ開けてするりと中に入り、ドアを閉じた。


「ガンバッテクダサイ、ヒデサン」



ドアの向こうからミライさんのささやき声が聞こえる。


ーーーーーー



病室の中はカーテンが閉め切ってあって薄暗く、辛うじてベッドと机が視認できる。

電気も一つしか付いていなかった。


そして部屋の奥を見てみると、まさに俺が助けたその子がいた。

下を向いたままベッドの端っこに座っている。

薄暗くても分かる純白の体。 美しい白髪と大きな羽が少し神聖な雰囲気を感じさせてくる。



俺は抜き足差し足でベッドに近づくと、刺激しないようにささやき声で話しかけた。




「ねえ、君シロオオタカ、だっけ? 昨日ジャングルで枝から落ちてきたのを受け止めてここに運んであげたんだけど・・・

覚えてたり、するかな?」



返事はない。

顔を見るととても怯えた目をしていた。

目を開けた状態で見たのは初めてだが、予想通りあのタカとほぼ同じ目をしている。


そして結構、かわいい。



なんだかこうやって会ってみるとどうしても助けたくなってきた。





「どうしたの・・・?どうしてコアラちゃん襲っちゃったの?

 怖いことはここには無いよ。だからこっちに来てくれないかな?」


「黙って!!!!」



シロオオタカは叫ぶと、同時に具現化させた羽を飛ばしてきた。

フレンズ化してすぐなためか扱いはタカより下手で、コントロールも威力も劣っている。


しかし何本かお腹に刺さってしまった。

職員用の服に血が滲みる。





「俺は君を傷つけたりしないから、羽を飛ばしてくるのをやめてくれないかな?」



敵じゃないことを主張しようと、手を広げながらゆっくり歩みを進めていく。

なぜ手を広げるという選択肢をとったのかは自分でもわからない。



「来ないで!」



さらに何本も何本も羽が飛んできて胸やらお腹やらに刺さる。

それでも諦めるわけにはいかない。

だって俺が何とか出来なかったらこの子は一人になってしまうのだから。





「絶対諦めないからね・・・! 君が良いと言うまで居座るよ! 悪徳商法でよくあるやつだよ!」

「なんで私にかまうの!? 一人にしてよ!! もう来ないでよ!!」

「一人になるからダメなんだ!! ずっと一人で楽しいか!?

 確かに一人なら辛いことも何にも無くなるよ!

 だけど笑い合う友達も、泣いてくれる友達も出来ないんだぞ!!

 君が孤独を選んでも俺が許さん!俺が引きずり出して食べてやる!!」

「気持ち悪い!! もうほっといてよ!! 次は・・・次は本当に!!」

「次はどうするんだ!!?? ハハッ殺してみろ!! その時は生まれ変わってまたここに来てやる!! 何度でも蘇るさ!」



「来ないでって、来ないでって!!

言ってるでしょっっっ!!!!!!!!!!!!!!

出て行け人間!!!!!!!!!!!!!!!」



シロオオタカの瞳に野生の輝きが灯った。



それでもシロオオタカを助けたい。

それしか頭になかった。

孤独の悲しさは訳あって身にしみて分かっているので、どうしてもあの子を一人にしたくなかった。




もうここから先の記憶はほとんど無かった。





ーーー





目を覚ますと病室の天井が見えた。

起きたばかりの目に蛍光灯の光が眩しい。





「あっヒデさん!やっと起きましたね!」

「ん・・・何があったんですかね?」

「私が止めたのにどんどん突き進んでいった結果、胸を切り裂かれてそのままここに運ばれました。 病院だったから良かったものの無茶しすぎです・・・!」


「え・・・それじゃああの子はどうなったんですか!? 俺のしたことはただの骨折り損だったんですか・・・?

くそっっ・・・!」

「そんな事言わないで下さい。ほら・・・こっちに来て・・・

 体を張ったあなたの行動、決して無駄ではありませんでした。」



ミライさんが手招きすると、後ろからシロオオタカが現れた。

古くなって錆びた首の鈴が歩く度にカラカラと音をたてる。


・・・ていうかいつの間にミライさんに懐いたんだ。



「お・・・! あいだぁっ!!!」

「まだ起きないで下さい!! 傷が開きますよ!」

「うっ!」



ミライさんがシロオオタカの肩をポンと優しく叩く。

するとシロオオタカは俺の目を見て、恥ずかしそうに声を出した。


さっきとは違う、優しい声で。




「えっと・・・ごめん・・・なさい。」

「あ、全然いいよ。 ちょっと痛かったけど。 気にしないでね?」


もうその目は怯えていない。

たまに白髪が風に揺られてとても美しい。


あ、少し笑った。 くっそかわいい。 かわいい。 かわいい。



「それで担当フレンズのことなんですが・・・」

「あ、この子で。」

「フフフ、即決ですね。 ヒデさんで良いの?」



するとシロオオタカが少し間をおいてから、



「うん。」

「これからどうかよろしくね?」

「よろしく・・・」



布団の下から手を出すと、赤面しながらもシロオオタカは俺の手を握った。

毛皮越しに伝わる彼女の手は、とても暖かかった。



そこで俺は違和感に気づく。

シロオオタカシロオオタカシロオオタカシロオオタカシロオオタカシロオオタカ・・・



言いずれぇ!!



「今思ったんですけどシロオオタカってなんか呼びにくいし名前考えませんか?」

「それは良いですね、ヒデさん!」



全身が真っ白で首に鈴がついている。 となると何が良いだろうか・・・

なんか可愛い感じの名前はないかと頭をフル回転させた。




「シロで!」

「ダメです!!」

「え゛っ!?」


「なんというかその・・・いるんです。 ここにはいませんがいるんです。 

 その名前は絶対にダメです。」



そんな名前聞いたこと無いけど・・・でもどこかにいるらしいし被ったらまずいか。

こうなったらもうこれしか無いよね。




「べr「ダメです!!」



くそ!

じゃあ怒りの第三候補!!



「スズで!!」

「あ、いいですね、スズちゃん。」



シロオオタカ・・・ではなくスズがまた少し微笑んだ。

頭の羽が嬉しそうに動く。



「よし、ヒデさん。あなたは今日からシロオオタカのスズの担当です。二人で頑張ってくださいね?」

「はい!」「うん。」

「それと・・・まだヒデさんは新人なので助っ人を呼んできました。 きてくださーい!」




ミライさんがドアの向こうに声を掛ける。


すると助っ人がドアを開けて入ってきた。





「フフ、惨めね。 また羽を何本か刺してやろうかと思ったけどその体じゃ本当に死んじゃうわね?





 新 人 飼 育 員 さ ん ?」





おまえかよ。






そんなわけで俺はシロオオタカのスズの飼育員となった。

まだ人を拒絶していて、まともに近くにいられるのは俺とミライさんぐらいしか居ない。

フレンズが相手でも野生解放して本気で威嚇しにかかるのでまだ安心できない。





はやくスズがいつでも笑顔でいられるようにしてあげたい。

あとキャッキャウフフしたい。

絶対に心を開かせることを静かに誓った。





ーーー


テレッテ↓ テレッテ↑ テッ テッ (ファッファ ファッファッ↓)


テレッテ↓ テレッテ↑ テッ テッ (チキチキ チーン)





シロオオタカはですね


基本的には極東ロシアの・・・日本の少し上、らへんですね、に過ごしてまして。


若干どころじゃない雪が、降っているところなので


そういった所で暮らしやすいようにシロオオタカ、あの真っ白な個体で。


ちなみに真っ白な個体はホワイトフェイズ、灰色の個体はグレーフェイズと呼んで


海外ではサイベリアン・ゴスとか呼ばれてるんですね。


サイベリアンはシベリアから来てます。はい。





テレッテ テレッテ テレッテ レッテー↓


テッテッテ↑

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