2 組分け



入社2日目。





俺は職員用の寮で目を覚ました。

本土から持ってきたものはみんなダンボールに入ったまま部屋の隅にうず高く積まれていて

部屋には俺が寝ているベッドしかない。


そんなガラガラの部屋を見渡していると昨日のことを思い出した。

タカに似ていて鈴を付けている真っ白なフレンズ。




どうしてもあの鈴のことが忘れられない。

そしてあの子のことも。

今はそんな事を考えても仕方ない気がしたので、さっさと荷物をまとめて寮を出た。





今日は担当フレンズ決定の日である。

フレンズは動物と違い、ほとんど人間と一緒なのでもちろん餌やりとかトイレとかの仕事が無い。

ちょっとした面倒を見てあげたりしながら一緒に居てあげればいいのである。

こう聞くと簡単そうに思えるが実はそうではない。


フレンズを人として成長させ、社会常識とかを教えながらサポートをするのが一番大きな役目。

あの個性の塊みたいなフレンズをだ。

責任重大である。

そしてその一緒になるフレンズが今から決まるのだ。

とても楽しみだし、入社面接の時以上に緊張する。





指定された集合場所に行くと、小さいグループに別れてそれぞれ小さい教室のような場所に誘導された。

どうやら俺の班の担当はミライさんらしい。

俺を含め10人ほどが集まると、部屋の前の教壇のような場所にミライさんが立って話し始めた。





「はいはーい!皆さん。昨日はどうでしたか?」

「今日はついに担当フレンズの決定の日です。覚悟はできましたか?」


昨日・・・か。そろそろ忘れたいぞ。


「ん?暗い顔してますね?そこの・・・ヒデさん。」

「いっ!?」

「緊張してるんでしょうかね?まあしょうがないでしょう。

 飼育員ではないですが初日は私もガチガチでしたから。」

「しかし、この「組分けラッキー」がきっとあなたにピッタリのフレンズを選んでくれるので心配は無用!

ほら、ラッキー。歌って。」



胡散臭いネット通販のような自己紹介が終わると、胸元に抱えたラッキービーストに歌うよう命じた。


ラッキービーストが、歌・・・?



「マカセテ。」



ラッキービーストは快く承諾し、妙に抑揚の付いた声で歌いだした、




ボクはきれいじゃないけれど♪


人は見かけによらぬもの♪


ボクをしのぐ賢いボス♪


あるならボクは身を引こう♪


金属ボディは真っ青だ♪


ラッキービーストはずんぐり太い♪


ボクはパークの組み分けラッキー♪


ボクは彼らの上をいく♪


君の頭に隠れたものを♪


組み分けラッキーはお見通し♪


乗せれば君に教えよう♪


君が会うべき友の名を♪





二分ほどかけて組分けラッキーが歌い終わった。

何故かミライさんの顔が真っ赤になっている。


「これ・・・聞いてて恥ずかしいから嫌なんですよね・・・」


じゃあやるなよ。


そんなこんなでついに担当フレンズの組分けが始まった。

順番的に俺は最後らしい。


考えながら待っていると、ついに最初の組分けが始まった。


その飼育員がラッキーを頭に乗せると、どこからか触手のようなものを伸ばして飼育員の頭にペトリと張り付けた。

脳波やら何やらを測るとか。

その後ラッキーに何個か質問をされ次々に答える飼育員。

質問が終わるとラッキーが10人ほどのフレンズの名前を挙げた。


その中から実際に会ったりして決めるらしい。




・・・ラッキービーストを頭に乗せる意味無くね?


それに担当フレンズをこんな機械に頼って良いのだろうか。

いくらAIが高性能だとは言え適当な気がする。





そんなことを考えているとついに自分の番が来たようだ。

一つだけポツンと置いてある椅子に座りラッキービーストを頭に乗せる。

ラッキービーストは意外に軽かった。


するとラッキー触手が伸ばされ、ついに組分けが始まった。

他愛もない質問から始まる。


これで決まるのか?





・・・なぜだか自分だけとても質問タイムが長い。

最終的に一人暮らしなの?とか彼女はいるの?とか聞いてきやがった。


え、そんなん関係ないでしょ。


そんな問答を続けていると、ついにラッキービーストは変な機械音を出しながらフリーズしてしまった。



「アワ・・・アワ・・アワワワワワワ・・・」ブルブル

「もういいですラッキー!終わりです終わり!」

「どうしたんですか?」

「組分けラッキーが不具合起こしたのなんて初めてなので、なんとも言えませんが

すいません、ちょっとわからないです。」

「そうですか・・・もしや俺って飼育員になれないんじゃ・・・?」

「そんなことはないですッ!!!」



ミライさんが急に声を張り上げたので部屋中の人達の視線が俺に集まった。

しかし不具合なんてあるのだろうか。

せっかく就職したのに、才能はないのだろうか。



「あっ・・・!すいません。それと、後で話があるので来てくれませんか?」

「あ、はい。分かりました。」




結局俺の担当フレンズは決まらずにその場は解散となった。


皆がいなくなった後ミライさんに会いに行くと、何やらよく分からない機械で組分けラッキーをいじくり回しているのが見えた。


ミライさんは俺に気付くと、少し申し訳無さそうな表情で振り返った。


「あっ! ヒデさん! お待たせしました。

その・・・気になることがあって。もう一回組分けラッキーを使ってみて下さい。」

「え? もう一回ですか? よくわかりませんが・・・やってみます。」




そして再び組分けラッキーとの問答が始まる。


もう一回やった所で何が変わるのだろうか。

さっきの改造で何をしたのかは知らないが、どうせ同じ結果だ。


ボーッとしながら次々と質問に答えていく。

何故か今度は比較的早く終わった。



そして組分けラッキーは、静かに言い放った。





「キミの担当フレンズは・・・






 ーーーーーシロオオタカ。」







・・・ごめん。その子誰??

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