本編

1 ひで

「もうすぐ到着でございます。新入社員の皆様、ようこそジャパリパークへ!」





ん・・・?

俺はアナウンスを聞いて目を覚ます。


今はジャパリパークに向かう船の上。

窓の外を見ると陸が見えてきた。

夢にまで見た瞬間だ・・・!

ついに俺はジャパリパークの飼育員になったんだ!!




”ジャパリパーク”

それは不思議物質「サンドスター」によって

「フレンズ」と呼ばれる女の子に変身した動物たちの楽園。

鳥のフレンズとか、犬のフレンズとか、果てはこの世に存在しない動物(?)までフレンズとして生活している。





そして俺はヒデ。

ジャパリパークの飼育員としてこの地にやってきた。

他にも同じ境遇の新入社員達がこの船に乗っている。


皆大変な筆記試験と、パーク創設時から続く謎すぎる面接を突破してここまで辿り着いた。


そしてジャパリパークの入社試験は、面接が一番の難関と呼ばれていて

どんなに頭が良くても、また性格が良くても落ちる人は落ちる。

結構な変わり者の創設者が始めた方法らしくて、極端に下心とか邪な心を持つ者を弾くためにあるとか・・・


真実はどうだか知らないけどね。




窓の外を見てボーッとしていると、どうやら港に着いたみたいだ。

続々と乗客たちが降りていく。




「「「いらっしゃい~ようこそジャパリパークへ~」」」

早速パークの先輩職員たちに出迎えられる。




「あ!ヒデ!」

「おおっ!お久しぶりです。なんとか面接にも受かってここまで来ましたよ!」

「お前が受かるなんて思ってなかった。今頃家で泣きはらしてるとでも思ったんだがな!」

「舐められちゃ困りますよ。フレンズへの愛だけで頑張ってきましたから。いやぁ~早くフレンズに会ってイチャコラしたいですよ。」

「ったく変わってねえな。よく面接通ったな?まあいい。頑張れよ。」




「お?あなたは・・・」

「お久しぶりです、。」

「次にあなたは「キタキツネはどうしてますか」、と言う。」

「キタキツネはどうしてますか?元気ですか?ーーハッ」

「なんて堂々とした変態!またキタキツネに引っかかれても知らないわよ?

 でも大丈夫。ギンギツネと元気にやってるわよ。」

「良かった。じゃあ担当はキタキツネに決定ですね。」

「命をかけても私があの子を守ってみせるわ・・・ふふ、頑張りなさいね?」




その後も何人かの職員と挨拶を交わした。

今まで毎年、しかも一年に何回も通っていたので既に何人かは顔見知りである。




集合場所に着くとすぐに説明が始まった。

「は~い、皆さん!ようこそジャパリパークへ!

今回司会を務めさせていただく、ガイドのミライです!」

おお、ミライさんだ。生で見るのは何年ぶりだろう。




「・・・では初日は以上です。皆さんジャパリパークを楽しんでいって下さい!」

30分ほどで説明会は終わり、今日やることは無くなった。

言葉通りパークを楽しませて貰うよ。




集合場所だったホールを出るとジャパリバス乗り場に急ぐ。

バスに乗って向かう場所は・・・もちろんゆきやまちほー。

キタキツネに会って驚かしてやる。ついでに耳と尻尾もモフってやる。

飼育員になったって言ったらどんな顔するかな? 




刹那、背中に鋭い痛みを感じ、後頭部に何者かに蹴りを入れられた。

「もう、タカ!出会い頭にやりすぎよ。」

「いつも変わらないな。まさかヒデの事好きなのか?」

「そんな訳無いでしょ・・・冗談きついわ。」

この声は・・・それに犯人もだいたい分かった。




「タカ!久しぶりだね!」

「はいはい、早く帰って頂戴。」

「尾羽とか抱きしめさせ「キモイ!!」

背中に羽を刺した挙げ句、頭を蹴飛ばしてきたのはタカのフレンズ。




その名の通り、タカだ。正式名称はオオタカらしい。

頭から生える雄大な翼と尾羽根が猛禽の証。

軍服のような制服にミニスカートにタイツ。

それらは元動物のタカに影響されて黄色いグラデーションがかかってたり、茶色い線が入ってたりする。

ジト目属性持ちのツリ目で綺麗な茶色の瞳である。

色々とかわいい。

なんだかんだでパークの2大俺の被害者フレンズにキタキツネと一緒にランクインしている。

そして後ろにいるのはハクトウワシとハヤブサ。




ハヤブサは黄色いこれまた軍服っぽい制服に、同じくミニスカタイツ。

ショートボブの髪もあって少し中性的な印象である。

とにかくせっかちで何事も速さが一番らしい。

言葉通りこの三人で一番素早く、動きを目で追えない事が多い。

本気で飛んだのを見たことがあるが、音速の壁を越えてソニックブームを起こしていた。




そしてハクトウワシ。

完全に軍服!ミニスカ!タイツ!

タカと同じ癖のあるセミロングで白髪。

なんとなく西洋っぽい顔をしてるようなしてないような。

しかしほっぺが可愛いのでいい意味で台無しである。

なぜかたまに言葉のはじめに英語を付けてくる。

ハクトウワシだから仕方ないね。


USA!ジャスティス!




この三人で「スカイインパルス」というグループを作っていつも一緒に行動している。





「聞いて驚け。俺はパークの飼育員になった。」

あまりの衝撃に力なく地面に墜落するタカ。

「アメイジング。まさかあなたが本当に飼育員になるなんてね。」

「これはまた大変になるな。頑張れよタカ。」

「ほんなごて・・・?

 ヒデが毎日パークにいるなんて生き地獄でしかないわ。

 ここで八つ裂きにしてサンドスター火山に葬りたいわね。」

「怖いこと言うなよ~。あと訛ってるぞ。」

「うぅ・・・」

「ああ~こういう所が可愛いんだよ全く~」尾羽モフモフ

「ヒデ・・・離して上げなさい・・・タカの顔が死んでるわ。」

「おっと、悪い悪い。それじゃあ、ね?ゆきやまちほーに挨拶してくるから。」

「キタキツネが犠牲になるのね・・・」




何か聞こえた気がするが三人に別れを告げ、バス乗り場に向けて歩きだす。

せっかくだしジャングルを通って回り道してこう。

パークに入場するとすぐに、小さめだがジャングルエリアがある。

小さい時はフレンズとここでよく遊んでいた。




ジャングルに踏み入ると、まだフレンズ化していない鳥や虫の声が聞こえてきた。

とても懐かしい。

子供の時からここだけは変わらない。

そんな事を考えながら上を見る。





なんか・・・いる。

枝の上に白いなんかがいる。

フレンズのようだ。

真下に行って声をかけてみる。

「おーい?そんなとこで何してるんだー?」

返事がない。




するとその何かが枝から落ちてきた。

親方!空から女の子が!

急いで体制を整え受け止めた。

「お、おい!大丈夫か!?」

間近で話しかけても返事がない。




ただのしかばねのようだ。




・・・気絶しているみたいだ。

よく見るとこの子タカに似ている

顔も双子のように似ていて服のデザインも同じだ。

違いといえばその色だ。

前髪の一部とローファーだけが黄色で、あとは全て美しい白色。




そして・・・首には白い首輪が付いていて、先には古びた大きな鈴がぶら下がっている。

・・・この鈴を見ているとなんだか懐かしい気持ちになってしまうのはなぜだろうか。




とりあえず気絶してるしセルリアンにやられてたりしたらまずいので、近くのラッキービーストに頼んで病院に搬送してもらった。

けもの病院はすぐ近くなので、三分ほどで救助隊が到着し手際よく担架に乗せ搬送していった。




今の子、大丈夫かな?


とてもとても心配になった。


なんというか他人な気がしないんだ。


一目惚れしたとかそんなんじゃなくて、何かとっても・・・言葉じゃ言い表せない懐かしさみたいなのが渦巻いてるんだ。





するといきなりタカが俺の横に飛んできた。


「ヒデ、ここですごく私に似た子が搬送されたって聞いたんだけど。」

「タカか。そうだよ。確かにここですっごく君に似た子が上から落ちてきたから、病院に連絡して連れてってもらった。」

「タカのフレンズって私以外にはあまり聞かないわ。新しいフレンズかしらね?」

「そうかもな・・・」

「ねえ。」

「ん?」




「顔・・・なんで泣いてるの・・・?」


「え!?いや、ジャングル暑いからさ!それに今日早起きだったから。

 まさかまさか泣くなんてまさかまさか。」

「そう。ならいいわ。あと雪山行くんじゃなかったの?

 バス乗り場までは運ぶわよ。」

「どうせならゆきやままで運んでくれよ!

 だけどごめんね、今日はもういいんだ。」

「なんだか変ね・・・じゃあね?ヒデ。」

そう言い残しタカは飛び去っていった。





そりゃ変だよね。


だけどきっと暑くて汗が目に入っちゃっただけなんだ。


そう自分に言い聞かせる。





初日から何やってるんだろうな、俺。


タカにも気を使わせてしまった。


さっさと寮に向かって寝てしまおう。

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