14 パークに居たい

「一緒に来るか?今回はスズも来たほうが良いと思うな。」

「私は結構よ。ここで待ってる。」

「しょうがないな・・・じゃあちゃんと待ってろよ。

どっかに遊びに行っても良いぞ。バードガーデンとか。ハヤブサとハクトウワシが喜ぶと思うぞ。」

「考えておくわね。それじゃあ、元気で。」


りうきうの管理センターからセントラルの管理センターまで身柄を移された変な男の取り調べをパーク内でやるらしく、さきほど電話にて呼び出された。

外の世界に移してガリガリのように殺されたら何も聞けなくなってしまうという事だった。


「お、来ましたね。」


指定された部屋に入るとミライさんの他にパークの職員と思われる人間が4人程席に座って待っていた。

使っていない会議室のような部屋に長机を置いて俺とミライさんを含めた6人が並んで座り向かいには変な男が座っている。


面接かよ・・・

少し挙動不審なところを見ると緊張しているようだ。


「まず・・・名前をお願いします。」

「・・・」

「言えませんか?」

「アア(小声)」


そこは返事するらしい。

俺も少し質問をしてみる。


「どうして船の上でスズに迫った?やっぱり二人だけになって興奮しちゃったのか?それとも可愛いから?分かるよ。うん、分かる。」

「迫ったのは・・・単純に可愛かったからだ・・・」

「そこは素直なんですね!?

フフフ・・・分かりますよ。あの子とっても可愛い・・・!」


こんな所で発症したか。

割と整った顔なのに口の横からヨダレが垂れて残念な事になっている。


「ミライさん!?」

「す、すいません!えっと、あなたは確かシーサーさんの清めの塩を食べた瞬間強く反応して苦しんで挙げ句気絶してしまったと・・・

ヒデさん、そうですね?」

「そうです。それと俺もあの後食べたんですがなんともありませんでした。」

「ヒデさんでも平気なのに気絶するほど強い反応を示した・・・

何が目的だったのですか?」


あれ?いまさらっとバカにされた?

男はやはり黙り込む。


「持ち物に凶器はありませんでしたしフレンズを傷つけるという目的では無い。

もしもこのまま何も分からなければパークの外でもっと詳しく取り調べを・・・」


「やめろ!!」


パークの外、という言葉が出た瞬間目の色が変わって焦りだす変な男。

もしやこいつは・・・


「そういえばお前家族がどうとか言っていたな。

ここに来て何かをしなきゃ家族がやばいとかそういう類か?

実はお前が来るしばらく前に痩せた男がスタンガンを持ってパークに侵入したんだ。

この間ニュースでやったと思うがそいつを検察に移送中に何者かにスナイパーで撃ち殺された。

お前もしやそいつの仲間か?

それで余計なことを言って殺されるのを恐れているのか?」


「ちょ、勝手に進めないで下さい!思い込みは禁物ですよヒデさん!」


「すいませんミライさん。ただこれで最後です。


お前、鈴を狙っているのだろう?」


男の顔がどんどん青ざめ、そして項垂れた。


「ど、どういうことですか・・・」

「詳しくは本人から聞くしかありませんよミライさん。

もう大体反応で分かるぞ変なやつ。話してみろ。」


完全に諦めが付いたのか再び顔をあげると、淡々と話しだした。


「そうだ。鈴を取って持ち帰ればデカイ報酬が入るんだ。

ガリガリとか言うのも同じ目的だ。

持ち主があんなに可愛いとは思わず迫ってしまったが・・・

しかしこれで話せることは全部だ。満足だろう。」


りうきうの時のおどおどとした態度はどこへ消えたのか。

全ては金のためにスズに近づくための演技だったのか。


「どうして鈴が必要なんですか?

確かにあの鈴は少し不思議な所がありますし

シーサーが恐れておまじないをかける程の物です。

しかしそれを人が欲しがる理由が分かりません。」


「なんで欲しがってるかは知らん。何も聞かされずに鈴を取ってきたら報酬をやる、とそれだけだった。

誰に言われたかも分からん。全員顔を隠していた。

そして同じような奴らが他に何人も居るだろう。

ガリガリみたいなバカも居るだろうしプロの人間も来るだろう。」


「でもお前そんなペラペラ喋って大丈夫なのか?

バレたら殺されるだろう?」


「そうだ。だから・・・お願いだ。

ここでかくまってくれ・・・!無理は承知だ。

疑うのも無理ないと思うし穴蔵にでも突っ込んでくれれば良い。

このとおりだ・・・」


男は椅子から降り頭を下げる・・・

するとミライさんの隣に座る癖っ毛ロングヘアの女性が口を開いた。


「私は昔からここに居ていろんな人間を見てきました。

良い人も居たし悪い人も居ました。

良い人は皆んな優しくてとっても温かい心を持っていました。

しかしあなたのようなフレンズをお金のために利用する悪い人も多かった。

あなたはパークが何度そういう人達によって危機が訪れたか知っていますか?

何人の罪のないフレンズが傷ついたか知っていますか?

たとえあなたが何を言ってももう信じることは出来ないです。


私はあなたをパークでかくまうのは反対です。

ここに居たいのならあなたのどこかにある温かい心を見せて下さい。

では失礼します。」


その女性は若干怒っている様子でそのまま部屋を出ていった。

こう言うのも無理はない。

フレンズは可愛いし不思議だしあと可愛い。

そのため利用しようとして捕まる組織や人間は後を絶たない。

きっとスズも過去にこういう人間に心を傷つけられたのだろう。


「お前の言うことは虫が良すぎるぞ・・・!」


「気持ちは分からなくも無いですがかb・・・

さっきの女性の言う通りです。

ただではここに居させることは出来ません。

どうかあなたの輝きを皆に示して下さい。

処分は一ヶ月後に決めます。」


男は再びりうきうの時のおどおどとした態度を取り戻す。

残酷だが一ヶ月後に反省が見られないなら警察に引き渡される。

そうなったら十中八九撃ち殺される気がする。


数十分後、聞き取りが終わりぞろぞろと職員が部屋を出ていく。

俺が部屋を出ようとすると男が声をかけてきた。


「一ヶ月後・・・もし俺がここに居ることが許されたなら。

どうかスズちゃんに会わせて欲しいんだ。」


「反省の色が見えなかったらお前はそういう人間ということだ。

その時は外の世界へ放り出されて洗礼を受ける。

だがもしその時までに温かい一面が見れたなら。

考えてやらんことも無い。」


こいつ本気で惚れてるのか?


ーーーーーー


とある繁華街のビル内・・・

男たちが机を囲んで酒を飲んでいる。


「おいヒゲ!送り込んだガキが未だに帰ってこないとはどういう事だ!」


若干苛ついた様子の人相悪い男がビールを開けながら髭面の男に怒鳴り散らす。


「余計な情報は吹き込んで無い。ノコノコ戻ってきたら消すだけだ。安心しろ。」

「相変わらずエグいな。ヒヒヒww」

「考えることが違いますわwヒヒヒww」


ーーーーーー


俺は寮へ向かう道を一人歩いていた。

すると後ろから、なんとさっきの男が走ってきた。


「おいおいどうした何の用だ。」

「はい。一ヶ月後の処分まで泊まる所が無いんです。だからどうかその・・・」

「厚かましいやつだ・・・頼み込めば職員寮の空き部屋でも貸してもらえるだろう。」

「そうですね・・・じゃあヒデさんの近くに行けるようにします。

毎日ご飯を作りますから!俺家庭科と生物だけは毎年5だったんです。」

「それで評価を得ようって寸法か?俺は構わんがミライさんやさっきの女の人がどう思うかは知らんぞ。」

「それでもです。それでは!」


嘘だろ・・・

近くにいたらスズと鉢合わせするかもしれない。

その時はきっとアイツは八つ裂きか全身に逆向きに羽毛を生やすことになる。


・・・ていうかアイツそれが目的なんじゃ!?

気付いたときには男は既にいなくなっていた。


「久しぶりだな。」

「誰だっ!」


また変なやつでも来たのかと思い敵意むき出しで振り返る。

しかしそこにはヤスエさんが立っていた。


「なんだ・・・」

「何だとは何だ。そんなに苛ついてどうした?

フレンズに振られたか?」

「お、そうだな。そっすよフラれたんスよ(棒)」

「まあ全部聞いていたんだがな。スズに迫った男が懐いてきたんだろう?

新人飼育員が二人担当とは驚きだな。」

「やめてくださいよ!なんであんな犯罪者をパークに置いとかなきゃいけないんですか。ただでさえスズ一人でも大変なのに。」


無言で俺の肩に手を置きベンチに誘導する。

タカとスズが喧嘩した日を思い出す。


「まずは吐こうか。」

「また取り調べですか。

言える範囲で言うとスズの首の鈴がなんだかとても価値のある物みたいで。

これからもっと悪意を持ってパークに来る人間やセルリアンが増えるらしくて。

シーサーに言われたんですが俺がスズを守れないなら力ずくでも奪い返すそうです。

だからスズを愛してやれって・・・」


「ん?何を言っている。

お前フレンズ愛しまくってるじゃないか。それもやりすぎなほどに。

ちなみに俺の担当するフレンズはおまえにはやらんからな。」


ああ・・・そうか。

残念ながらスズや一部のフレンズ以外は俺が捨て子だったことを知らない。

ずっと一人だった自分に誰が愛せるんだ?


「どうしたお前・・・前はキタキツネだのオオタカだのに会う度に発情してたのに

飼育員になってからなんだか静かになったな。もちろん悪い意味でだ。

もしかして自信が無いのか?

スズを愛してやれないか?」

「まったくもってその通りです・・・心を読まれてるようですね・・・

そういうの苦手なんです。学生の時はずっと一人で・・・」


「だから何だ!!」


「え・・・?」


「それぐらいで弱気になってるんじゃない。

俺はツチノコに派手に迫りすぎて完全にフラれたが・・・!

お前は若い。経験がない。

スズやオオタカ、キタキツネに拒絶されたことはあるか?

嫌われたか? 違うだろう。

まだやってもないのに諦めるな。

彼氏にでもなったつもりで接してやれ。

俺みたいになってから諦めるんだ。分かったか!」


言ってることはまともに見えて性犯罪者の思考である。

大分勇気付けられた・・・

しかし・・・


「俺小中高の時まともに友達なんていなかったし彼氏彼女云々なんてもっての外ですよ。

ずっと教室の隅で一人だった俺にそんな事ができるなんて思えないです。

俺性欲しか無いですから・・・」


「俺もツチノコの本ばかり読んでる一人ぼっちの子供だった。

しかしジャパリパークでツチノコに会えると聞いて死ぬ気で勉強して職員になりツチノコの担当になれた。振られたけどとても仲良くなれた。

別に完璧じゃなくても良い。クラスに一人はいるようなみんなに好かれる人気者じゃなくても良いんだ。

確かお前母子家庭だったな・・・だからきっとお前は人一倍そういうのが・・・

分かる人間だと思うんだ。

親がしてくれたようにすればいい。性欲は頑張れ。」


「・・・分かりました。」


「よーし行って来い。さっきから奴はずっと一人でお前の部屋にいる。」


結局またヤスエさんに励まされた。

もう吹っ切れた。開き直ってやるんだ。

こうなったら孕ませる勢いで愛しまくってやる。


ーーーーーー


「へいただいま。待たせたな。」


「た、たすけて・・・!」


ドアの向こうからスズの声が聞こえる。

まさか変な男が早速やりやがったか?

それとも別の奴か?

俺は対セルリアン警棒を構えて部屋に突入する。


部屋の中では3つの人影がスズを取り囲んでいた。


「今すぐそこからどけぇっ!!!!」


「お、飼育員さんがお帰りになられましたよ。」

「やあっと帰ってきやがった!」

「フフフ・・・おもちゃがまた一つ・・・!」


スズを取り囲んでいたのはスカイダイバーズの三人だった。

どうやら話を聞くと地下迷宮の近くでスズの地面すれすれ低空飛行を見て感動したらしく、ずっと俺たちを追って技を盗もうとしていたらしい。

そしてあわよくばスカイダイバーズへの勧誘。


「オマエらのダイビング・・・!見ててゾクゾクしたんだ。

あんな地面すれすれのは一度も見たこと無い。

どうかコツを教えて欲しい。というかオレらの仲間になれ!」

「日々研究している・・・というわけではありませんがあの時のは私も感動させてもらいました。イヌワシは落ち着いて下さい・・・!」

「フフフ・・・あの時のあなたの顔!慌てふためく姿・・・!

新しいおもちゃになるのよ・・・!」


イヌワシとゴマバラワシに関してはもう本音を隠す気がないようだ。


「とりあえずお前ら不法侵入だぞ。建造物侵入だ。

3年以下の懲役か10万以下の罰金だ。

それとこの間のにはコツなんて無い。

スズが人に見られたくなくて全力で急降下した後トンネルに死ぬ気で飛び込んだだけだ。

もう充分だろう?だからさっさと出ていってくれ。

もし出ていかないのなら・・・」


指をわきわきと動かして品定め。

三人ともとても可愛い。

普段はサディストのゴマバラワシもメスになったらどうなるのだろうか・・・


「なんだか寒気がするぞ。行こう、二人共。」

「とても嫌な予感がします。お邪魔しました。」

「・・・引くわ。」


そのまま逃げるように出ていってしまった。


「やっとうるさいのが出ていったわ・・・

さっきいきなり入ってきて勧誘してきたのよ。」

「今は追い返したけど悪くないんじゃないか?

スカイレースで活躍するスズ、見てみたいな。

ダイバーズに入ったらタカのインパルスと戦うことになる・・・

激アツ・・・!」

「私が・・・スカイレースで・・・活躍・・・」

「あれ?迷ってる!?前は一瞬で拒絶したのに!」


最近こういったことも受け入れるようになってきた。

表情も大分柔らかくなってさらに可愛く・・・

完全に人間を受け入れるまでは時間の問題だろう。


だけどそうなったら俺はもう一緒にいられないのだろうか。

何故かそれだけは絶対に嫌だ・・・

別に恋愛感情があるわけでもないのに何なんだこの気持ちは・・・


「ねえねえ。そういえばあの変なやつはどうなったの?」


パークの中で更正させるなんて言ったら張り倒されそうだ。

適当なことを言った後徹底的にスズから離すようにすればいい。


「あいつは・・・警察に渡した。警備は超厳重らしいけどまたやられるんじゃないかなーアハハ」

「あんなやつさっさと撃たれて・・・」


すると玄関の方からドタバタと足音が聞こえインターホンが鳴った。


「こんばんは、ヒデさん。夕飯を作ってまいりました。」


「どういう事よ!」


「・・・ごめん。」


結局あの男は毎日夕飯を作って持ってくるようになった。

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