15 見直した

「馬鹿野郎・・・!来るなら連絡ぐらいよこしてくれ!

説得が大変だったぞ!」

「あ、すいません。以後気をつけます・・・」

「更正プログラムの一環として一ヶ月間特別に滞在許可を出されてることを忘れるなよ。まだ若いからと言って・・・」

「あ・・・はぁ・・・そうですね。はい。では。」

「では!?おいちょっと待ってくれ・・・ああ・・・」


昨日はこいつがいきなり訪ねてきたのでスズが半狂乱になってしまった。

ドアの内側が羽だらけになってひどい状況だ。

未だに少しすねていてあまり口を聞いてくれない。


ちなみに料理自体は結構良かった。

お腹を下したり眠くなったり、その・・・感度が良好になったり・・・とかも無かった。

スズは不審がって口をつけなかったが。


ーーーーーー


今日はジャパリ図書館に行くことになっている。

ミライさんのメモ通りだ。

下に小さい文字で「人間の文化に触れて良さを知ってほしい」と書いてある。


「今日は図書館だ。たくさんの本が置いてある。

人が書いた本もフレンズが書いた本もある。きっといい本に巡り会えるぞ。」

「人が書いた本・・・どんなものなのかしらね。

少し気になるわ。」

「本に興味を示すフレンズなんてなかなか珍しいわね。

大体のフレンズは漫画に飛びつくものよ。」

「タカ、偏見だそれは。」

「フフ、そうね。それはサーバルだけの話かもしれないわ。

・・・行きましょ?」


サーバル・・・

ジャパリパークの顔とも呼べるいちばん有名なフレンズ。

いつも騒動の中心にいたらしく今でも健在だ。

いつか会って話を聞いてみたいものだ。


「ヒデー?早く行きましょ。」

「ああ、悪い。」


スズに抱えられ飛び立つ。タカが後を追いかける。

雲の中を風を切って飛んでいく。


「スズ、あなた飛ぶスピードが上がってない?」

「そうかしら。速くなったなら嬉しいわ!」

「でも速いだけじゃダメよ。

・・・ちょうどあそこにいいサイズの乱気流が発生してるわ。

あそこに飛び込みましょう。ウイングタックの練習よ。」


ちなみにウイングタックとは主にワシが乱気流を乗り越えるために翼を折りたたんで飛行する技術である。

小さくなった体の面積と柔軟な翼で空気の塊を乗り越える。

ジャパリパークはサンドスターが環境をはっきり分けているせいで上空の気流がメチャクチャになり、あちこちで乱気流が発生するとか・・・


「まだ動物だった時全然出来なかったの・・・フレンズになってからはやったことすら無いし不安だわ。」

「それならなおさらよ。一応図書館に鳥フレンズの飛行術指南の本もあるみたいだけど習うより慣れろ、よ。」

「分かった。やってみるわ。」

「俺も巻き込まれるんだよね?」

「当たり前よ。」


タカは冷酷に言い放つと乱気流の塊へ飛び込んでいった。

いつもの雄大な翼は小さく折り畳まれている。

上下左右にふらふら軽く揺られながらするりと抜けた。


「じゃあ行くわよ。動かないでね。」

「ちょ、ちょ、ちょ!」


スズも勢いよく飛び出し乱気流に飛び込んだ。

顔の皮がどこかに飛んでいきそうだ。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

「前だけ見なさい!羽も折りたたんで!!」

「ぐっ・・・」


テーマパークのアトラクションの迫力を10倍にしたような風と衝撃。

あちこちにぐらぐら揺れながら少しずつ出口へ向かっていく。

風が強すぎてよく見えないがスズは相当必死なようだ。

脇腹を掴む力が強すぎて痛い。


「もう少しよ!頑張って!!」

「は゛や゛く゛ぬ゛け゛て゛く゛れ゛え゛え゛」

「後少し!後少し・・・!!!はああぁぁぁぁぁあっ!」

「行ける!行けるわ!」


唐突に風の壁にぶつかったような感覚に襲われた。

するとすぐに乱気流は消え去った。


「ハァ・・・ハァ・・・やったわ・・・」

「とてもうまいわ!やったわね!」


ズルリ。


何か衣服がこすれるような音がした。

同時に俺の体がガクンと落ち、そして止まった。


どうやらスズが手を離してしまい、俺は今雲の上で命綱一本で宙ぶらりんになってしまっているようだ。


「バカああああああ!!!助けて!タカ助けて!お願いだ!」

「ロープが・・・お腹・・・苦しい・・・」

「呆れてものも言えないわね・・・」


ーーーーーー


乱気流を抜けるとすぐジャパリ図書館が見えた。

パーク各所に存在する図書館の中で一番大きく、蔵書数も圧倒的で

毎日客やフレンズが各地から訪れる。


「なんて大きい建物なの・・・!?」

「この中には全てのジャンルが揃ってるからね。

哲学、料理、ファッション、登山、旅行、ラブコメ、漫画・・・」

「よく分からないけどすごいのね。」


建物に入るとまず見えたのが巨大な本棚。

人間の身長など軽く抜かしている。

感心していると一人のフレンズが声をかけてきた。


「お久しぶりです。ヒデさん、スズさん、それにオオタカ。」

「あなたはバードガーデンで大木をへし折ってた・・・」

「シッ・・・わたくしはここに居るときは書記官鳥のヘビクイワシとしていなければならないのです。木の事はどうかご内密に。

そしてその様子だと読む本に困っているのでありましょう?」

「スズに人間の文化に触れて欲しい、ということらしくて・・・」


ヘビクイワシにミライさんのメモを見せると、数回頷いた後おすすめの本とその場所を丁寧に教えてくれた。少しの迷いも無い。

相当の数の本をここで読みまくっているのだろう。

圧倒的な知識量だ。


「じゃあ早速教えてくれた場所に二人で行ってくれ。

俺は気になる本があるんだ。いい感じに読み漁り終わったら飛んできてくれ。」

「そう。分かったわ。行きましょタカ。」

「じゃあまた後でね。」


ーーーーーー


俺が今日読みたい本とは・・・具体的にはわからないが

謎のトラウマを解決できそうな心理学とかの本を漁ってみたい。

病気ならその病名でもいいし、思い出せるならそのヒントが欲しい。

こればかりはネットでも出てこなかった。


心理学・・・心理学・・・

本棚の間を縫うように歩いていると、上からバサっと音を立てて一冊の本が落ちてきた。

こうやって出会う本も悪くない。

表紙を見てみると・・・


「とりのおうさま」


なんだこれ・・・

絵本のような表紙に大きい文字で題名が書いてあった。

何故か管理番号が本の背に書いていない。

軽くパラパラとめくってみるとどうやら本当に絵本のようだった。

文字も大きいしなかなか上手な絵だ・・・

おそらくフレンズの誰かが書いた物なのだろう。


そのまま立ち読みしてみたがなんだかとても悲しい内容であった。

鳥の王様がみんなに自分の羽を分け与えて最終的には自分が飛べなくなり

そのまま海に沈んで終わったというクッソダークなバッドエンド。


複雑な気分になりながらボーッと立っていると、本棚の向こうに焦げ茶色と黄色の尖った耳が見えた。

あの耳は・・・


「キータキーツネ!」

「わわっ!?ヒデ!?」


すぐにキタキツネは俺の場所を察知し・・・

本棚をキツネジャンプで飛び越えて俺の目の前に着地した。


「なんでヒデがいるのー?」

「それはこっちのセリフかな?まあ俺はスズと一緒に来てるんだ。

人間の文化に触れて欲しい、っていうミライさんのメッセージさ。」

「ボクはキュウビキツネと一緒に来てるんだよ。」

「へえキュウビ。・・・キュウビ!?」

「そうだよ。別におかしくないよ。たまに一緒に遊んでくれるもん。

ヒデが後ろに持ってるのは何?」

「これは「とりのおうさま」っていう絵本なんだ。少し悲しいけど読んでみる?」

「うん。」


そして数分後・・・

キタキツネはその本を読み終わったようだ。


「ヒデ、これ、可哀想・・・」

「そうだよね・・・って!?キタキツネ!?」


軽く俯いているが確かに分かる。


キタキツネは泣いていた・・・


普段感情をそこまで露わにしないキタキツネがどうして・・・?


「キタキツネ・・・大丈夫?悲しかったよね・・・」

「ううん・・・悲しくはないよ。なんだか・・・分からないけど・・・」


キタキツネの頭を抱きかかえて一分ほど撫で続けた。

すると満足したように顔を上げ、一言礼を言った後走り去った。


一体どうしたんだろう・・・


ーーーーーー


「人間のにしては・・・なかなか・・・いいじゃない。」

「ヒトはずっと昔からこうやってお話を作ってきたりしたのよ。

もちろんパークなんて無い時からね。そりゃ完成度も高くなるわよ。」

「あ、あれも読んでみたい・・・」

「はあ・・・」


「走れルター」と「注文の多いジャパリカフェ」を呼んだ所夢中になったらしく、今度は「吾輩はヌコだにゃん」に手を伸ばしている。


「それは読みづらいわよ。文字恐怖症になりかけたわ。」

「大丈夫よ。きっと面白いわ。」


数分後。


「きゅーーー・・・長いー!むずかしいー・・・」

「だから言ったじゃない。」

「今度はてつがく?とかいうのを読んでみるわね。」

「あっ・・・」


三秒後。


スズは読書スペースのテーブルに倒れ伏した。


「それはダメね。頭が良すぎるか頭がおかしすぎるかのどっちかの人が読む本よ。

少なくともフレンズ向きじゃないわ。これなら読みやすいから、ほら。」

「うん。ありがとうタカ。やっぱりこういうのが一番良いわね。

・・・なにこれ。」


タカがなんとなく渡したライトノベルは性描写もっりもりの18禁ノベルだった。


「人ってこんなに激しく交尾するの?」

「ここは図書館よ!変なこと言うのやめなさい!それに本の中の話であって実際にそういう事は流石にしないと思うわ。本当はどうなのかはヒデに聞いたほうが良いと思うわね。」

「タカはこうb・・・誰かとつがいになったりとかは無いの?」

「動物だったときのことは覚えてないけどフレンズになってからは無いわ。

ヒデみたいなのが言い寄ってきたことはあるけど全員無視したわ。

人となんて私はイヤ。スズもそうしたほうが絶対良いわよ。

オオタカは現状私しかいないのよ・・・もう一人どこかにいたとしてもそれは同じ女だと思うわ。」


少し物悲しそうな表情のタカ。

ボーッと窓の外の空を見つめている。


「オスのフレンズって、いるの?」


スズは興味津々である。

タカはまた少し寂しげな表情になった。


「動物がフレンズ化した時は必ずみんな女になるわ。」

「そうなのね。・・・話は変わるけど人とフレンズって交われるの?」

「話変わらないわ。人とフレンズが交わった時・・・オスのフレンズが生まれることがある。もちろん純フレンズじゃなくて血は半分だけど外見も中身も親になったフレンズとほぼ変わらないわ。


そして私は・・・血はどうでもいいからオスのオオタカのフレンズと会いたい。

できればその二人で一緒にどこかで幸せに暮らしたいの。

私の夢よ・・・」

「タカの夢・・・どこかに居ると良いわね。」

「フフフ、ありがとう。

・・・スズには何か夢はあるの?

やりたい事・・・会いたい人・・・なんでも良いのよ。夢は持っといて損は無いわ。」


「私の・・・夢?」


ーーーーーー


心理学関係の本を読み漁っているといい感じの本を何冊か見つけたので読書スペースに持っていってひたすら読み漁った。

あまりに必死な表情なので隣に座っていたイヌかオオカミのフレンズが心配そうにしていた。


とりあえず分かったことは心的外傷なんとか傷害とかいう病気が非常に俺の症状に当てはまる、ということだった。

過去の嫌な記憶が強く脳に刻み込まれてそれが後でフラッシュバックし私生活に悪影響を及ぼすらしい。


私生活に影響するレベルじゃないけど強いデジャブに襲われる・・・

きっとこの事だ。

しかし引っかかるのが過去の嫌な記憶。

フラッシュバックするほどなのに全く思い出せない。

どんなに記憶をたどっても小学校に入るか入らないかぐらいで限界が来る。

ちょうど俺が今の母に拾ってもらったのと同じぐらいの時期だ。


うーん・・・思い出そうとすると何故か思い出せない。


まあ今はこんなことより鈴を狙いに来る変な奴らをどうにかしなければならない。

私事で悩んでる場合じゃない。


もう調べることは調べたので満足だ。

俺はスズの元へ向かった。


ーーーーーー


「本、なおし・・・片付けておくわね。ここで待ってるのよ。」

「ありがとう。頼むわ。」


タカが本棚の奥に消えていく。


「なんだか本読んでたら眠くなってフワァああ・・・」


読書スペースの机にべしゃりと頭を落とす。

スズの中で図書館で寝てはいけないという気持ちと睡魔が戦っていた。

しかしすぐに勝敗が付いた。

頭の羽から力が抜けて机の上にふわりと落ちる。

そしてそのまま寝息を立て始めた。


そんなスズを本棚の影から覗く一人の男・・・

50程だろうか?

中年太りして頭は禿げ上がり、まさに変態である(偏見

どうやら考えている事も見た目相応であった。

スズが落ちた瞬間ニヤリと笑って本棚の影から姿を現す。

男はそのまま足音を立てぬようそろりそろりとスズに近づいていく。


しかし・・・


「あ、スズちゃん。」

「ZZZ・・・」

「おーい、起きてよ~」ユサユサ

「ん・・・ん~?あ、キタキツネじゃない。久しぶりね。」

「さっきヒデにあったんだけど一緒に来てるんだね。」

「そうよ。今はいないけどタカも来てるわ。本って初めてだけど良いわね。

人間を少し見直したかもしれないわ。」

「それなら良かったよ。

・・・あ、キュウビが呼んでる。じゃあねー、スズちゃん。」

「うん。バイバイ、キタキツネ。」


急に現れたキタキツネ。

男は驚いてすぐに本棚の影に隠れた。


「今度は邪魔者はいないヒヒヒww鈴をもらった後は本体も事務所にお持ち帰りして・・・ヒヒヒw」


ーーーーーー


スズが居るとすればここらへんだろうか。

俺はライトノベルが置いてある所をくまなく探し歩いていた。


すると向こうの読書スペースに机に突っ伏して眠るスズと・・・

変なおっさんが・・・スズを襲っている!

首の所を触っているので鈴目当てだろう。

俺は本棚を伝ってどんどん近づいていく。


「くすぐった・・・ぅわ!誰!?」

「クソ!目を覚ましたか!それなら・・・」


今度は鈴に直接手を伸ばす。

ちぎり取る気だ。

俺は警棒を構えて走り出す。


「スズから・・・離れろっっっ!!!!!!」


「何するの!?やめて!!」

「大人しく・・・!鈴を渡せ・・・!」


「やめてって・・・!言ってるのが・・・!聞こえないの!!!!!!」


スズが叫ぶと共に首の鈴がまばゆい光を放つ。

りうきうで見た光と同じもの。


「あつううううううう!!??ぎゃあああああああ!!!!」


男の断末魔と共にパアン!と破裂音が響く。


光が収まった。

スズの近くに男の姿は無い。


男は壁に大の字の凹みを作ってそこに埋まっていた。

手足は変な方向に曲がっていて大量の鼻血を流している。


「スズ!怪我はないか!?」

「私は大丈夫よ。だけど・・・」


首の鈴を握りしめて俯く。

謎の力が働いたのか円形に床板がえぐれ、読書スペースの机は跡形もなく弾き飛んでいた。本棚もボロボロになっている。

そして何故か鈴の錆びが完全に取れてピカピカになり、シーサーに付けられた表面の紋様がいつもより数段激しく輝いていた。


「一体これはどういうことなんだ・・・」

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