13 普通じゃない

キジムナーに案内される俺とスズ、タカ、変な男。

シーサー姉妹の住処に到着したかと思うと元気のいい声が両側から聞こえてきた。


「はいはーい、めんそーれ。思ったより早かったな。」

「ヒトが二人もいるー!お客さんいっぱいだね。」


「始めまして。スズ担当の飼育員のヒデです。今日は相談があって来ました。」

「そんなに偉いもんでも無いしへりくだらないでほしいな。」

「そうだよ!私達がいればどんな災いもガードだよ!どんどん聞いちゃってね!」


ずいぶん開放的なんだな。

性格的にも服装的にも。

ていうかガードするつもり無いでしょ?

エッロエロのビキニにニーハイとか誘ってるでしょ。


「ヒデ、また変なことを考えているんでしょう?口角が上がってるわよ。」

「嘘・・・神様に手を出すつもりなの?さすがに引くわ。」

「おいやめろ!まだ死にたくないんだ。神様本人の前でそういうバチ当たりなことを言うでないぞ!!」

「なかなか仲良いじゃないか。悩みなんてあるのか?

それはそうとずっと木の陰に隠れてる男の人は何者なんだ?

ぼさっとしてると福が逃げちゃうぞー。」

「早く出てきてみんなで仲良くしようよ!」

「え・・・ええ!?僕は別に会えればよかったんです。

さ、さようなら・・・」


男はばつが悪そうに去ろうとする。

しかしキジムナーがそれを止めた。


「なんで逃げるんだ?せっかくの機会だしゆっくりしてこうぜ。」

「キジムナー。別に嫌がっているなら止める必要は無いんじゃない?

だけど・・・ちょっと怪しいよね。」


シーサーの青い方・・・姉の方のシーサーライトが懐から巾着袋を取り出しながらつかつかと歩み寄る。


「えっと、これはシーサー特製清めの塩だよ。ミネラル豊富で料理にも何でも使えるからぜひお土産屋で買っていってね?

・・・じゃなくて、今持ってるのは清めたての濃いやつなんだ。

ひとつまみでいいから舐めてもらえないかな?」

「塩・・・?塩を舐めれば良いのかい?よく分からないけどやってみるよ。」


男がシーサーライトから袋を受け取り一掴み塩を取って口に放り込んだ。


「うん・・・しょっぱい。塩だ。

・・・!?

ガッ・・・

ウガァ・・・・!!!!!

ハァ・・・・ハァ・・・・!!!

な゛ん゛だごれ゛ば・・!!毒だ・・・!!!」


急に男が喉を抑えて苦しみだした。

顔は青いし泡をも吹きそうな勢いである。


「おい、どういう事だ!?シーサーが毒盛るなんて・・・!」

「あーあー・・・残念だけどそれは私達シーサーの力がこもっただけの清めの塩だよ。毒じゃないからヒデさんちょっと試してみてよ。」

「守護けものの言う事なら・・・信じていいよね?

スズ、タカ。アイルビーバック。」サムズアップ


俺も思い切って清めの塩を口に放り込んだ。

しょっぱい。

それだけだった。

体にも変化はない。

続いてタカとスズ、キジムナーたちも口に放り込んだが別に以上はないみたいだった。


「えっと・・・ただの塩ね。何も変わらない塩だわ。」

「うん・・・うん・・・しょっぱい。」

「いつもと変わらない味だな。」


「ガァ・・・・!!!

助けてくれ!!!死ぬ!!!!」


男はのたうち回って苦しんでいる。


「清めの塩は邪な考え・・・輝きと言えるようなものじゃないけど真っ黒な輝きに反応して結構乱暴に浄化するんだ。

その様子じゃあ相当だね。」

「それじゃあスズはそんな真っ黒なやつと一緒に釣りしてたのか!?大丈夫か!?何もされてないか!?」

「・・・船の上で迫ってきたから引っ叩いて海に叩き落としたわ。」

「ったくキジムナー!?そこら辺の人勝手にくっつけるのはやめてって言ったよねー!?」

「でもこうやって炙り出せたんだから結果オーライかもしれないな。

とりあえず君・・・隠してる事全部、話してみて。

隠し通しても苦しくなるだけだからね?」


男は相変わらず苦しんでいる。

シーサー姉妹の目の色が変わる。

それにしてもスズに迫っただけで危害が及ばなくてよかった。


「ハァ・・・それは言えない・・・グアっ!?

こう見えて・・・俺にも家族が・・・」


その言葉を最後に男は気を失って倒れた。


「死んじゃったの・・・?」

「大丈夫。死んではいない。すこし苦しみすぎたみたいだね。

ってことでキジムナー。責任とってこの人をリウキウの管理センターまで運んよ。」

「う・・・毎回俺か。行ってくる・・・」


キジムナーが素直に男を抱え森に消えた。


「ごめんね。たまにああいう人が居てね。

・・・良い人ばかりじゃないのは本当に残念だ。

騒がせちゃったけど質問あるんだよね?聞いてよ聞いてよ。

ボケッとしてるとダメだよー。」


さすが切り替えが早い。

だけど目の前で人が倒れられたらさすがに落ち着いてはいられない。

やはり沖縄の神獣だけあってこういうのは慣れているのだろうか。 


「一緒に釣りして・・・ちょっとは良い人なのかなって思ったのに・・・

どうしてこうも変なのばっかりなのよ!!」

「まあその相談したいことっていうのはこういう事で・・・

こんな感じの変な人に狙われてるんだ。

それでスズにウザ絡みした人間がスナイパーで撃ち殺された。

少し掘り下げればそいつは暴力団かなんかの人間だと判明した。

こればかりは俺達じゃなんにも出来ないから相談しに来たんです。」


その他にも今に至るまで色々な出来事を全て事細かに話した。

シーサー二人は終始静かに聞いていた。

話が終わると深刻そうな顔をして二人でなにやら相談した後再びこちらに向き直る。


「そっ・・か。とっても大変なんだね。

だけどよくここまで心を開けたね。それはスズちゃんもヘルパーのタカも、飼育員のヒデも頑張ったおかげだよね。」

「うん。とってもすごいと思うな。

私がスズちゃんだったら未だに家にこもって2人にべったりだよ。」

「守護けものでもやっぱり辛いことはあるのね。」

「何ー?私達だってフレンズなんだからね!悩む時は悩むからねスズちゃん!」

「まあまあ、落ち着きなよレフティ。

そろそろアレ、やるよ?」

「私は準備OKだよ。じゃあ・・・

スズちゃん、今からおまじないするから鈴を外してよ。」

「え・・・鈴?い、良いけど・・・」



するとライトとレフティが急に手を繋いで同時に野生解放した。

スズやタカとは比べ物にならないサンドスターが辺りに広がっていく。

粒子の一つ一つが体に当たる度に覇気のようなものに押しつぶされるような感覚だ。

まさに神の力の具現化。


「四神が石版になっちゃった今は私達がやるしか無いんだよね・・・!」

「どういう事・・・?一体私の鈴に何をするの・・・?」

「何よこれ・・・!」

「何だ何だなんなんだ!!!」


するとシーサー二人を包むサンドスターのベールがグルグルと渦巻き始めた。

二人の体から発する光も更に強くなる。


「鈴を・・・」

「私達の所へ持ってきて・・・」

「わ、分かったわ。」


スズが首の後に手を回して首輪ごと鈴を取り外し、シーサー二人の手に乗せた。

鈴が二人の手に触れた瞬間、シーサー二人の体が形象崩壊し始めた。

周りを渦巻くサンドスターが更に勢いを増し、

最終的に一つの大きな虹色の玉が出現した。

更に虹色の玉が変形していく。

手が伸び

足が伸び

頭ができる。


そして一体の大きなシーサーとなった。

あまりの迫力に誰も声が出せない。

そのシーサーの口元を見るとスズの鈴がぶら下がっている。


「ウウウオオオオオオオオオ・・・・・・!!!!!!」


大きな大きな咆哮が森に響き渡る。

地面がビリビリと振動しお腹の底に響く。


いきなり目も眩むような閃光が走った。

そして目を開けたときには既に二人のシーサーのフレンズに戻っていた。

その手にはしっかりと鈴が握られている。


「はい、おまじない終わり。」

「しっかり出来たね!初めてだけど大成功だよ!

はい、返すよ。」


鈴を受け取って再び首につけ直す。

表情が少し落ち着いた。


「ねえ・・・なんか描いてあるわ。」


鈴の表面をよく見ると渦巻き柄のモザイクのようなものが全面に走っている。

まるで光が流れるようにあちこちがピカピカと光り、そして消える。


「めちゃくちゃきれいですやんか。」

「この紋様は私達シーサーの力で刻印した魔法陣のような物だね。

この鈴をつけてる限り災いはみんなシャットアウトだよ!」

「でも福を呼び込むわけじゃないからなー?」

「うん。ありがとう。大切にするわ。」

「えっと、話題が逸れちゃったけど・・・

今までセルリアンとか悪い人がスズちゃんを狙ったって話なんだけどねー。

きっとみんなスズちゃんの鈴を狙ってたんだと思うんだよね。」

「守護けものでも引くレベルの輝きの塊なんだよねーそれ。

実はさっき少し押されちゃったテヘペロ」


新事実。

確かに少し考えればわかったことかもしれない。

なぜただのフレンズをセルリアンが、そして人が殺される危険を冒してまで狙うのか。

神獣が引くほどの輝きを帯びた鈴が全ての原因・・・


「本当はこれがやりたくてだな。スズちゃんたちを呼ぶはずだったんだけどちょうど来てくれて助かった。

それでえっと、変な人のことだな。

その鈴の秘密を知ってるのは私達含め神獣とごく一部のフレンズと信頼できる人間だけだから輝きを狙ってるって訳でも無いと思うんだ。」


「そしてその鈴なんだけど。はっきり言って何の輝きかは分からないんだ。

結論から言うと神獣でも何もわからないんだよねー。

だからとりあえずの処置として今おまじないをかけたんだ。

悪い人とかセルリアンは鈴の力で弾けるよ!」


「とりあえずすごい力が手に入ったからそれで変なやつを倒せってことか。

根本的解決には至らず・・・か。」

「ごめん。だけどこれができることの全てなんだ。」

「後は君達次第だよ!全力でスズちゃんを守ってあげるのが飼育員の務めだからね!」

「・・・分かった。ありがとうシーサー達。俺たちはもう帰ります。

ありがとうございました。」

「ええー。もっとゆっくりしてっても良いんだぞー。」


神獣のくせにお節介な祖父母のような事を言う・・・

こういう性格だからりうきうの守護けものも務まるのだろう。


「ムフフ。折角の機会だし二人共!晩御飯までの時間に運動しよっか。

いい場所があるんだ。スズちゃんにその鈴の力が見合ったものなのかも見極めさせてもらうよ。拒否権はなーし!」

「なんで私も強制参加なの。」

「ヘルパー任されてるんでしょ?ついでに熱意を確認させてもらうよ。

じゃあいこいこ!」


レフティが二人の背中を押して森の奥に消えていった。


「三人が遊んでる間色々と聞いていい?ヒデ。」

「良いですよ。」

「どうしてあの子の担当になったの?」


そういえばあれから大分経った。

あの時の傷は未だに生々しい傷跡としてお腹に残っている。

俺は事の顛末を全てライトに話した。


「それでどうしてもスズを一人にしたくなくて・・・!」

「うん、うん。分かったよ。ヒデはとってもあの子に合ってると思う。大切にしてあげて。」


話していたらいつの間にか感情的になっていたがライトの一言で我に返る。

どうしてスズの話になるとこうなるんだ・・・


「もう一つ。スズちゃんと一緒にいて何か思うことはある?

感じたこととか・・・いつもと変わったようなこと。」


俺が本当に相談したかったことがまさかシーサーの口から出てくるとは思わずその場で固まってしまった。


「そうです・・・そうです・・・その事を相談するために来たと言っても過言ではありません。」

「分かった。それを全部話してくれない?」


一語一語噛みしめるように・・・

ゆっくりと語りだす。


「スズと居ると謎のデジャブに襲われるんです。それも頭が痛くなってしばらく立てなくなるレベルの・・・

一番最初は出会った時で、スズの姿と首の鈴を見た瞬間にですね。脳の容量をオーバーする記憶がどこからか流れ込んでくるような、そんな感じです。

その瞬間スズを絶対守らなきゃいけないって・・・そう思いました。

それから何回もデジャブに襲われましたがその度に同じことを思うんです。

鮮明な映像が・・・感情が・・・一度も経験したこと無いはずなのに。」


「そうなんだ。

もしかしてだけど小さいときに同じような・・・例えば妹とか。

後はヒデの両親に見せられたビデオとかの映像・・・そういうのじゃ無くて?

本当にデジャブなの?確信はある?」


スズにしか言っていない秘密だが・・・俺には親が居ない。

妹も居ないしビデオなんか論外だ。

ずっと施設でひとりぼっちだったのだから。


「ねえ・・・どうしたの・・・?」

「あ、すいません。ちょっと記憶を整理してて・・・」

「嘘でしょ?何かあるんでしょ?」

「えっ・・・」


ダメだ。俺に女は欺けないようだ。

ライトの神獣特有の少し変わった瞳孔がじっくりと見つめてくる。

何を考えているのかはわからない。


「どうやら内緒にする意味も無いみたいだね。


まずあの子は。


ただのフレンズじゃないんだ。


私でも少し引くレベルの輝きを鈴として留めてるからね。

とんでもない量の輝きとサンドスターを秘めてる。


そしてその鈴の輝きはセルリアンにとっても、また悪い人間にもごちそうなんだ。

だからさっきおまじないをかけてあげたけどそれでも完璧じゃない。

なんでヒデに適正判定が出たのかは分からないけどパートナーになったからにはヒデが全力で飼育員としての役目を果たさないとダメだよ。


そしてたくさん愛してあげて。

それが一番あの子にとっての幸せだと思うし一番のお守りになる。

人が嫌いとか・・・デジャブに襲われるとか・・・

思い通りにはならないと思うけどあの子が一人前になるまで見守って付き添って。


わかった?」


スズを愛し・・・添い遂げる、か。

俺にできるんだろうか?

クソみたいな人間に絡まれたり・・・変な組織が浮上したり・・・

その全てを乗り越えるなんて事ができるのか?

残念だけど自信がない。

それに親に捨てられ一人だった自分があいつを愛するなんてできっこない。


シーサーの住処に俺とライトの二人。

その間には静寂。

不安が募るばかり。

唐突にライトの目が鋭くなった。


「答えがすぐ出ない・・・?

残念だけどもしヒデがあの子を守れないと思ったら。

そして私達がヒデには無理だって思ったら。

強引にでもあの子を連れ戻す。」


一言一言が突き刺さる。

慈愛に満ちた一方で、強い威厳にも満ちている。

守護けものに牙をむかれたら俺など一瞬で終わるだろう。

やるしかない。


「分かりました。やります。

俺がやってみせます!」


「うん。分かった。私達守護けものはずっと見てるからね?

もちろん守る時は守る。

だけどそんなポンポン使える力じゃないことも覚えておいて。

ほら、帰ってきた。

まずあの子と仲良くところから。

話はそれからだからパークを回って人に慣らせつつ仲を深めるんだよ。

これからBBQだよ・・・!」


レフティに連れられてタカとスズが帰ってきた。

服があちこちドロドロになっている。


「子供かよ全く・・・」


その後五人で楽しく夕飯を取った。

大量に釣ったタコを焼きまくった。


満天の星空の下で一晩過ごした後翌朝りうきうを発った。

シーサー二人とキジムナーが港までわざわざ迎えに来て励ましてくれた。


「約束覚えてるね?」


「もちろんです。もしかしたら愛しすぎてスズのお腹が・・・」


口に清めの塩を大量に詰められた。


毒だ・・・!


苦しい・・・!

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