8.

 俺はしろのこと……、その身元や家族構成についてこいつに調査を依頼していた。だが今の言葉からは謎が氷解どころか余計に深まった感じだ。

 まあある意味予想していたとおりになったという感じだが。


「記録がねえわけねえだろ、と今の会話の流れからは言いたいところだが、正直言ってそんなこったろうと思ったよ」


 俺はチラリと横目で名護を見る。


「それで、お前はどう見ている」

「人にすぐ意見を求めるのは悪い癖ですよ。最も貴方のことだからすでに真相には近いところにいるのかもしれませんが」


 そう言って名護は意味深に微笑んだ。


「まず、彼女は貴方の家まで逃亡してきたということからそんなに離れていない場所から来たのでしょうね。車で置き捨てられたのならともかく、その線も薄いでしょう」

「なぜ本当に歩いてきたとわかる」

「彼女自身がそう言っっていたのでしょう?貴方にわざわざ助けを求めてきた少女の言葉を疑うのですか?」


 名護は穏やかに言いながら俺に微笑みかけた。

 俺は目をそらす。

 確かにそれは昨日ショッピングモールから帰ってきてからしろ自身が言っていたことだ。

 靴も泥だらけであることに帰ってきてから気づき、何気ない会話の筋で俺の家にどうやってたどり着いたのか訪ねるとしろが歩いてきたと答えたのだ。


「別に疑っているわけじゃねえさ。だが、そうなると目撃情報もないのは余計におかしいと思ってな」

「……ひねくれている割には結構素直なんですね」

「ああ?どういう意味だよ」

「正攻法ではないやり方なんて世の中にはいくらでもある。情報なんて簡単に操作できるということですよ」


 俺がうろんな目で見ると名護は言った。


「……小耳に挟んだ情報なんですがね。とある屋敷に、道楽として少女たちをまるで玩具のように愛でては楽しんでいらっしゃる奇矯ききょうな趣味の方がいらっしゃるようですよ。その手の世界では権力のある人物なので周りのものはそれに従い起こっていることを隠してきた。しかしもうすぐ捜査が入ることになっています」

「そいつは」


 俺は低い声で応じる。


「面白い話だな」

「あくまでこれは風で流れてきた噂の範疇はんちゅうを出ていないのでしてね。未だ公表されていないので他言無用でお願いしますよ」


 そうにこやかに言う名護の内心がなんとなくではあるが読めてきた。

 これはまだ表に出ていない情報だ。

 それをわざわざ俺に教えてきたということは。

 ――裏にとどまっているうちに潰せ。そういうことだろう。

 だがわからない。

 それで誰が得をするのか。どんな利益があるのか。

 まあそれはどうでもいいか、と俺は思った。

 それがどちらだろうとただ俺は動くだけだ。


「ありがとよ」


 そう言って立ち上がろうとすると名護はその背に声をかけてきた。


「周りをよく見て動いてくださいね。……何事にも熱くなりすぎるところは貴方の長所でもあり、短所でもある」

「……わかっているよ」


 今度こそ、俺は立ち上がる。

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