7.

 翌日、俺は職場に出勤すると呼び出しを受けた屋上に顔を出した。


「よお、名護なご


 声をかけるとコーヒーを飲んでいた顔を上げ、名護はこちらに柔和な笑みを向けてきた。


「おはよう、蕗島」


 名護は俺の同期であり、見た目は警官という職に似合わずとんだ優男という感じだ。

 でも俺はこいつの裏の顔を知っている。

 その実、こいつは署にいるどんな人間よりも裏社会に身を突っ込んでいる。

 頼りにはなるが頼りにしたくないタイプ。その年で何があったのかと思うくらい、こいつの周囲からは血の臭いがする。

 何を考えているかはわからないが、頭は切れるやつだ。

 名護は買ってあったらしいコーヒーの缶をもう一本足下から拾い上げると、それを俺に差し出してきた。


「サンキュ」


 俺はそれに口をつける。


「いえ。幼女との同居ライフはどうですか?」


 いきなりの言葉に俺は口に含んでいたコーヒーを吹き出す。


「汚いですよ」


 俺の挙動を意に介さず、涼しい顔でコーヒーを飲んでいやがる。


「名護てめえ……。あることないこと吹聴して回ってんじゃねーだろうな」


 俺はギロリと名護をにらむ。そんなことに動じる男ではないが。


「誰にも言っていませんよ。少なくとも事件性がない今はね」

「……そりゃどうも。ていうか事件性がないってどういうことだ」


 読めない男だ。冗談を言っているかと思えば、表情はそのままにすぐ本題に話を切り替えてきやがる。

 事件性がない。嫌に勿体ぶった言い方だが俺にはその言葉の真意がわからない。


「どうもこうも」


 名護はそう言ってゆるりと首を振った。


「ヒットは0件です。……子供の失踪届しっそうとどけもしろなんて名前の女の子がこの地区にいるなんていう記録もない」


 飲み終わったらしいコーヒーの缶を手でもてあそびながら名護は言った。


「君の家にいるというその少女は何者なんでしょうね」

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