6.

 到着して小一時間、俺は早くもうんざりしていた。

 休日のショッピングモールは当たり前であるがどこもかしこも混んでいる。

 やっぱり非番だからと休日に来たのは間違いだったかと思いながらも、人混みに潰されそうなほど細くて小さいしろを後ろに連れながら、盾になるように俺は先を歩く。

 というかそうでもしないと歩けそうにもないのだ。


「これ、どうかな?」


 子供服のブランドの店にしろを入らせ、適当に店内をぶらついていると白いワンピースを持ってきたしろがそう言った。

 女子の服なんてわからないが、シンプルなデザインでいい感じの服だ。

 布の面積が広いので傷がある肌もいい感じに隠れるだろう。


「いいんじゃねえの?」


 俺がそう言うとしろは黙って店の奥を指さした。

 指の先には試着室。着てみたいということだろう。

 頷くとしろは歩いて行って、中に入るとカーテンを閉めた。

 俺はその前で手持ち無沙汰に待っている。

 子供、特にこの店の店内には女児が多いので、居心地の悪い思いをしていると中から声がした。


「うっきー」


 カーテンの隙間から白い髪と丸い目が覗いている。


「着たのか?開けるぞ」


 そう言って俺が開けると、白色の清楚な感じのワンピースに身を包んだしろがじっと見上げてきた。


 いつもの無表情さは変わらないが心なしか頬が紅潮しているように見えたのは俺の気のせいだろうか。


「どう?」


「どうって、まあ」


 俺は女なら共通で喜ぶあるワードを知っているのでそれを言った。


「かわいいんじゃねえの」


 だが、それを聞いたしろの反応は俺が知るどんな女の反応とも違った。

 ただ淡々と。こう言ったのだ。


「……知ってる」


 嬉しがりもせず喜ばず。

 しろは規定の事実を聞いただけのように、そう呟いただけだった。



 店員に白いワンピースの値札を取ってそのまま着せてもらい、俺たちはショッピングモールをそのままぶらついた。

 店の中を物珍しそうにキョロキョロしながらみているしろは年相応のただの女の子だった。

 途中、フードコートに寄りクレープを買ってやると、表情がない割に普通に喜んでいるようだった。

 だからこそ。

 俺はそんな平穏な様子を見ながら、さっきの反応の違和感を余計に感じずにはいられなかった。

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