4.
「帰ったぞ」
今日は珍しくつつがなく過ぎた退屈な日だったので、早めのほぼ定時を過ぎたくらいで帰れた。
自分以外普段は誰もいないので声をかけながら家に入るというのは妙な気分である。
そして、入ってすぐに俺は異臭を嗅ぎとる。
わずかに焦げたような臭いがするのだ。電気製品は切ってから家を出たはずだ。
嫌な予感がする。
あいつ何かやらかしたんじゃないだろうな、と鞄を放り投げると奥に急ぎ足で入って行く。
「おい、お前何か……」
「……おかえり」
俺が勢いよくドアを開けるとキッチンは煙まみれになっていた。思わず咳き込む。
火が消えていることを急いで確認し(ちゃんと消えていた)、俺は家中の窓を開けて回る。
「あぶねーな。火災報知器鳴ったらどうすんだよ。家にはスプリンクラーなんて上等なもんねーぞ」
俺は幼女の前に立つと続けて言った。
「ていうか家のもん勝手に触るなっつったよな……」
なにしてたんだ、と言いかけて俺はあんぐりと口を開ける。
幼女は黒のエプロンを着けてその前の布を気まずげに
言うまでもないがこれは俺のだ。エプロンを着けるような上等な飯を作ったことがないので、それは完全に存在を忘れ去られていたものになっていたが。
こんな姿を見てしまえば、何をしていたのかは言わずもがなである。
「何作ってたんだ」
幼女が差し出すものを見ると……、なんだこれ。
「……遅いから、あなたのぶんもと思って」
相変わらずの無表情で幼女は告げる。
俺は内心ではなく、今度は盛大にため息をついた。
「昨日吐いたばっかりなのにこんなもん食えるわけねえだろ。待ってろ」
そう言うと俺は手に下げていたコンビニ袋から卵を取り出し、適当におじやを作る。
「ほら、これでも食え。それは俺が食うからよこせ」
そう言って俺は幼女が手に持っていた皿を受け取ると、交換に湯気を立てるおじやが入った皿を押し付ける。
「……ありがと」
そう言って幼女が側に立って微動だにしないので俺が皿を持って自室へ行くと、幼女もその後をついてくる。
机に皿を置くと、幼女も皿を置いてじっと待っている。
なんなんだ……と思いながら何も言わないといつまでもそうしていそうなので、俺は皿に入っているものをかっこみ始める。すると、幼女も食べ始めた。
この部屋に他人をあげたことはなかった。
始めて「二人」で食べた食事はわりと炭の味がしたが食えないほどではなかった。
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