第2話
「……それで、何でその子は
「もちろん元々夢見鳥家が
「へ? 神様としての在り方と合致したって……」
「彼女はいじめが原因で自殺未遂した後に、昏睡中に見ていた夢の中で願ったのよ、『現実世界のことなんか何もかもすべて放り出して、ただずっと眠り続けることのできる世界に行きたい』って。それを二つの理由に基づいて、
「……その理由、ってのは?」
「まず一つには、先に述べたように、
「──!」
そうか、これってつまりは、どんな願いでも叶えてくれる神様に、「自分自身がどんな願いでも叶えてやれる神様になりたい」という願いを叶えてもらったようなものなんだ。
「……いや、待てよ。この『麟』が昏睡して
「そんなことないわよ? たとえそっちの『私』が実際に
「はあ? すべての世界のすべての歴史が、元々脳内に記憶として存在していたって……」
「それというのも、実は時制すら問わず無限に存在し得る平行世界──つまりは
……………………へ?
「なっ⁉ すべての平行世界が時間なぞ流れてはいない、停止した一瞬のみの存在でしかないだと? そんな馬鹿な!」
それってまさしく、これまでのSF小説やライトノベル等における、タイムトラベルや異世界転移の基本的概念を全否定してしまうようなものじゃないか⁉
「だったらわかりやすい例え話として、仮に
「いやでも、世界の歴史がそれぞれ独立した『時点』の集まりでしかないと言われても、全然イメージできないんですけど?」
「あらそう? むしろ世界の未来への道筋というものが最初から決まり切った一本道でしかないなんて、もはや時代遅れの古典物理学における決定論そのものじゃないの。それに対してこの世のすべての物質の物理量の最小単位である量子というもののほんの一瞬後の形態や存在位置すらも予測することができないとする、現代物理学の根本原理たる量子論に基づけば、時間というものはけして連続しておらず一瞬ずつの独立した『時点』の集まりということになるのであり、だからこそ我々はほんの一瞬後にも他の世界に転移する可能性が──つまりはタイムトラベルしたり異世界転移したりする可能性があり得るわけで、世界の未来がけして途切れることのない一本道だとするとそれらの実行が絶対に不可能となり、むしろこういった決定論に基づいた古い考えのほうこそが、SF小説やラノベ等における各種世界間転移イベントを全否定してしまうことにもなりかねないわけなのよ」
何と。ということは実は、これまでのSF小説やラノベ等における現実世界とは独立して時間の流れている過去や未来の世界や異世界こそが、当のSF小説やラノベにおいて、現代物理学に則った真に正当なるタイムトラベルや異世界転移の実現を阻害していたってことじゃないか⁉
「つまり
おお、つまりそれって、元々あらゆる平行世界における歴史というものは、けして過去から未来へと一本道に流れていくものではなく、しかも
「まあ、こうして『麟』が
え。
「……僕が『麟』のクラスメイトたち──つまりは、元の世界における
「そうよ。あなたにネット上の短編連作型小説『
な、何だと⁉
「い、いや、僕がおまえから見せられた夢では、ほとんどの人が中学生なんかではなく、もっと年上ばかりだったぞ?」
「何言っているのよ? それこそ夢なんだから、本来の自分とはまったく別の姿形になったとしても、おかしくも何ともないでしょうが?」
あ。
「それにそもそもあの夢の中の彼女たちは、当人にとっての真に理想的な姿なんだから、中学生にとっての『理想の自分』が『すでに成功を果たした大人の自分』であることは、むしろ当然のことじゃない」
た、確かに。
つまりこの目の前の湖の水面を埋めつくすかのように浮かんでいる棺桶に横たわっている中学生の女の子たちこそが、あの【ステージ2】から【ステージ40】までの夢の中の女性たちの真の姿であり、元の世界における僕の教え子だったってわけなのか。
……むむむ。そうとわかっては、黙っちゃおれないぞ。
「いくら神様そのものになれて、自分をいじめていた相手に復讐をし放題だからといって、クラスメイトを全員昏睡させてしまうなんて、やり過ぎだろうが⁉ 今すぐみんなを目覚めさせろ!」
「はあ? 復讐ですって? 私の話をちゃんと聞いていたの? その『私』はあくまでもクラスメイトたちの『自分にとって真に理想的な世界へ転移したい』という願いを叶えてやっただけで、むしろ感謝されることがあっても、非難されるいわれなんてないわ。それに何度も言うように、その世界が夢か現実かは相対的なのであって、生徒さんたちは皆自分にとっての新たなる現実世界に
「へ? 僕が世界を書き換えたって……」
思わぬ言葉に面食らう僕に対して、更にとんでもないことを言い出す、目の前の少女。
「だってあなたこそはある意味、この世界を夢ということにもしてしまえる
…………………………………………はあ?
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