【ラストステージ】夢見る龍(カミ)が支配する。
第1話
「……その子が、あらゆる世界を夢見ながら眠り続けている、中国の神様の憑坐だって?」
僕はあまりにも想像を絶する言葉を聞かされ、一瞬完全に我を失ってしまったものの、何しろとても納得できるような話ではなかったので、すぐさま食ってかかっていった。
「いやいやいや、そんな馬鹿な! それってつまりは、この現実世界そのものが実は夢でしかないということじゃないか? そんなことがあり得るものか⁉」
「あら、あなただって、『
「胡蝶の夢? それって確か、
「ええ。それと同様に中国の神話においてはまさしく『
「なっ⁉ この世界が夢かも知れない可能性があるゆえに、
そんな僕の至極もっともな反駁に対し、何と目の前の少女はむしろ我が意を得たりといったふうに表情を輝かせた。
「そう、その通り! さすがはこの世界限定とはいえ、私のお兄ちゃん!」
「は、はあ?」
「しょせん『胡蝶の夢』の蝶は文字通り荘子の夢の産物で
──って、おいおい。何なんだよ、このいきなりの手のひら返しは?
「……いや、ちょっと待て。現実であり得ると同時に夢でもあり得るという『二重性』こそが、
「うふ。気がついた? そうなの、これまではこの世界が夢魔に支配されていることを前提にしてすべてを説明していたけど、実はあらゆる世界のいわゆる『主体的』存在は、文字通りあらゆる『夢の世界の主体』とも呼び得る
「……ということは、りんや
「ええ。そっちの棺桶の中の『私』や美明を始めとする
………………………………は?
「な、何だよ、この世界こそが僕にとっての、真に理想的な世界って」
突然の意味不明な言葉に戸惑う僕に対して、いかにも思わせぶりな笑みを浮かべながら更に衝撃的な台詞を畳みかけてくる、偽りの妹。
「……まったく。これだけ誰も彼もが望みを叶えられて多世界転移を果たしているというのに、どうして自分だけは転移を行っていないと思えるわけ? 実はこの世界自体も、これまであなたに夢として見せて小説化してもらった、ネット上の短編連作型小説『
「──‼」
「だいたいがさあ、おかしいとは思わなかったの? いくらこの世で二人っきりの兄妹とはいえ中学生にもなる妹が、兄に対してあんなにもベタベタしたりするわけがないじゃない。すべてはあなた自身の願望の顕れ以外の何物でもなかったのよ。それにさっきあなた自身も、そっちの『私』が自分の生徒だという、あくまでも
い、言われてみれば、確かに。
「……じゃあ、僕が元いた世界って、いったいどんなふうだったんだよ? つうか、そもそも僕は何で、別の世界に転移しようなんて思い立ったわけなんだ?」
「実はあなたは
「はあ? そんな馬鹿な! 僕のクラスには、いじめなんて影も形もなかったぞ⁉」
「だからそれは、『この世界』の話でしょう? 私が話しているのがあなたが逃げ出してきた、そっちの『私』があなたの教え子だった世界であることを忘れないでちょうだい」
「──ぐっ」
「更に詳しい事情を述べるとね、あなたのクラスに
いじめられて自殺未遂して昏睡状態になった、
「……まさか、その生徒って」
「ええ、そうよ。そっちの棺桶の中の、あなたの教え子としての『夢見鳥麟』よ」
……何……だっ……てえ……。
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