第9話、小説の中の作者(カミサマ)。【その2】
「君もすでに彼女自身から聞いているとは思うけど、たとえ女神といえども100%完璧な読心や未来予測などなし得ないし、例えば君が将来大富豪になれるかどうかを断言することなぞできやしない。しかし実は君を
「ちょっ。それじゃあまりにも無茶苦茶じゃないの⁉ いくら『女神』を名乗っているからって、そんな何でもアリにしたんじゃ、たとえこの世界がミステリィ小説だろうがSF小説だろうが、収拾がつかなくなるでしょうが⁉」
「だからまさしくそれこそが、『小説の世界の中に作者自身を登場させる』ということなのさ。ようやく御理解いただけたようだね」
「──なっ⁉」
「君たちミステリィ小説家ときたら、洒落のつもりかあるいは単に著名な外国作家の猿真似かは知らないが、馬鹿の一つ覚えみたいに自分の作品の中に自分と同姓同名のキャラを探偵役として登場させているよね。それも物語の中にその創造主たる作者自身が存在するという意味を、まったく理解していないくせにね。何せ普通に作品の
長々と続いた口上を嫌みったらしい台詞で締め括る、SF的ミステリィ小説家。
そのいかにも上から目線の言い草に、さしもの温厚な私もかちんときてしまった。
「な、何よ、人のことばかり馬鹿にして! 自分こそ『小説内に存在している
しかしそんな私の詰問とも言うべき問いかけなぞどこ吹く風と、本日最大の爆弾発言を投下する、目の前の青年作家。
「違うよ。小説内に存在している
なっ⁉ まさか!
彼が指さす先にいたのは、御存じ純白のワンピース姿の絶世の美少女その人であったが、まさにこの時対人コミュニケーション能力を著しく欠き常に無表情であるはずの日本人形のごとき端整な小顔には、妖艶でありながらどこか人を見下した笑みが浮かんでいた。
「はろー。私こそがただ今御紹介にあずかりました、ミステリィの女神様のりんちゃんよ。あなたには特別に『りん様』と呼ばせてあげるわ♡」
鮮血のごとき深紅の唇から放たれる、涼やかな声音。
それは間違いなくこれまで散々スマホを介して耳にしてきた、ミステリィの女神様の声そのものであった。
「あ、あなたが、女神だったの⁉ じゃあこれまでのスマホからのお告げは、全部あなたが別の場所から音声通信を送信していただけだったわけ? 『多世界の住人』とか何とかいうのは、嘘だったの⁉」
「まあ、そう思うのが当然でしょうけど、だったらこの前風呂上がりの際にあなたのスマホにアクセスしてきた時のことは、どうなるの? あの時『この私』は、何か携帯端末の類いを持っていたかしら?」
「──っ」
そういえばそうだわ。女神とスマホでしゃべっていた時この子はちゃんと目の前にいたけど、携帯端末を手にするどころかいつも通りの三重苦状態で、言葉一つ発することはなかったはずよ。
「え? え? どういうことなの、いったい。これぞほんとの双子の入れ替えトリック?」
「……まったく、絵に描いたようなミステリィ脳なんだから。『女神』としては声だけでしか登場していなかったんだから、別に双子も入れ替えも使う必要はないでしょうが?」
あ、そうか。
「つまり私が『多世界の住人』というのは嘘でも何でもなく、いつでも自由自在に自分の精神体だけを切り離して、ネットの中とか異世界とか人の夢の世界の中とか小説の世界の中とかに常駐させることができるわけ。むしろこうして自分自身の肉体に宿っていることのほうが珍しいくらいなのよ」
「……それじゃあ、あなたこそがミステリィの女神御本人でいいわけね。人の願いを何でも叶えてあげるとか言って、こんな無茶苦茶なミステリィ小説的空間に私をたたき込んだ張本人なのね」
「そうよ、私こそが正真正銘本物のミステリィの女神様よ。さあ、讃えなさい! 崇め奉りなさい!」
「ふざけるんじゃないわよ! 何よこの、インチキミステリィ小説の世界は⁉ 私がやりたかったのは、こんなのじゃないわ! もうたくさんよ! あなたが本物の女神で多世界の住人として自由自在に世界そのものを入れ替えることができるというのなら、私を今すぐ元通りの世界に戻してちょうだい!」
心の底から絞り出すかのように懇願の声をあげる、女子高生ミステリィ小説家。
しかしそれに対して目の前の女神を名乗る少女は、無慈悲にもとどめの一言を突きつける。
「残念ながら、それはできないわ。なぜなら先ほど
……何……です……って……。
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